第151話 敵陣へ

 エスティアの街中に移動し、オーレリアが居る館まできた。


 門番をしている1人の第6騎士団の兵に挨拶をし敷地内に入った。


 朝方という事もあり、いきなり屋敷の中に入るのはと思ったが、館の中が騒がしかった。


 恐る恐る玄関を開けるとオーレリアとヒナが一緒に階段を降りて来たところだった。


「おはようございます」

「おはようございます。ヒナちゃんから聞きました第2第3騎士団が近くまで来ていると」


 朝から屋敷内が騒がしかったのはこれが原因か?


「援軍要請かなにかしました?」

「いえ、ヒナちゃんが言ってた通り私の命が狙いとみて間違いないと思います」


 これで確定かと思っていると、遠くの方で“ドーン、ドーン”と爆発音と思しき音が聞こえた。おそらくオスカーがロケットランチャーかグレネードランチャーを撃ったんだろう。


「この爆発音は……」

「オスカーだと思います。彼の武器に爆発するものがありますから」

「そうですか、とりあえず城壁に向かいましょう」

「了解です」


 オーレリアは外にでて走り出した。ヒナはオーレリアの横について走っていた。


「乗って!」

「ヒナちゃんありがとう」


 それだけ言うと、オーレリアはヒナにまたがり城壁に向かった。自分もその後をついて行った。


 屋根の上を走り城壁まで来るとエスティアとトライベッカを結ぶ街道の南側の平原に陣が見えた。


 オーレリアも城壁から身を乗り出し陣中を確認していた。そしてしばらくしてからこう言った。


「間違いなく第2・第3騎士団の旗ですねしかもあの位置……」

「あの場所に何かあるんです?」

「あそこはフィーレ山脈の山道入口がありますね」


 フィーレ山脈?


「フィーレ山脈って目の前の大きな山の事です?」

「そうです。ヴェンダルとヴォーネス共和国、そしてヴェンダルとフェアレ獣王国の国境となっている山ですね南側はブライメリー王国とフェアレ獣王国の国境にもなっているんですよ」


 そっか、故郷ブラン村の北側にあった大きな山はフィーレ山脈だったのか、そこにあるのが当たり前だとなんていう山なのか疑問にすら思わなかった。


「って事は、獣人達がいる尾根に……」

「はい、続いていますね」


 王子はあそこに陣取って獣人達の到着を待っているのか?


「第1王子はクラリス教団との繋がりがあるんです?」

「それは分かりませんが、昔ナンバーズに襲われた事がありますね、あの時は将軍が相手をしてくれたので助かりましたが」


 王子がクラリス教団にオーレリアの暗殺を依頼したって事か?オーレリアが生きているって事は暗殺失敗に終わったって事だろうが。


「どうしますか?お望みとあらば捕らえてきますが」

「あなたが近くに居てよかった。お願いしていいですか?」


 この際カスミ、ヒナ、ノンをオーレリアに預けて護衛させようかな?その方が安心できる。


「承知、ヒナ悪いけどしばらくの間姫様の護衛で、カスミもお願い」


 影からカスミがヒョイっといった感じで出てきた。


「了解した」

「ありがとうございます」


 オーレリアはカスミとヒナを優しく撫で始めた。


「んじゃ、2人共姫様をお願いね」


 そう言うと2匹とも頷いた。


 城壁から飛び降りて、第2第3騎士団の居る陣に向かった。


◇◇◇◇◇◇


 陣の前まで来ると見張りをしていた黒いフルプレートメイルに身を包んだ2人の騎士がこっちに来た。


「何の用だ?用がないならさっさと立ち去れ」

「オーレリア様の使者として来ました。エスティアを攻める気なら自分が相手をしますが」


 そう言うと見張りをしていた2人の騎士が持っていた槍を構え自分に向けた。


「敵襲!」


 あれ?使者として来たって言ったのに、“エスティアを攻めるなら自分が相手をしますが”と言ったのが悪かったかな?


 相手が先に構えたんだし正当防衛成立するよね?

 とりあえずは第1王子捕獲を最優先させよう。神刀を抜き、斬るのは戦意のみ!


 行動速度上昇を使い、まずは目の前に居る2人を斬った。戦意を失った1人の騎士は腰を抜かしへたり込み、1人が陣の中ではなく街道へ走っていった。敵前逃亡……?


 敵襲という叫び声に反応した兵士や騎士達が次々と出てくるので順次斬っていった。戦意喪失した騎士達が邪魔だなと思いながら陣中に入ると思っていた以上に人が居なかった。敵襲!という言葉に反応したのは5~60人位だったが、陣中には第1王子を含めて5人そこらしかいなかった。テント内で休んでるのか?それにしても人の気配がない。


『ヒスイ、この陣中に居るのは外の連中と今目の前に居る連中だけか?』

『ん~……、そうみたいだね、模擬戦の時より人いないね』


 模擬戦時、第2騎士団は100名、第3騎士団は300名居たはずだが?もしかして、未来の女王に剣を向けるのが出来ずに離反者がいたのか?


 どんな理由があれ、後継者に刃を向けたら普通に考えて処刑対象になるよな、離反者が居て当然の状況か、そう思っていると前方から兜を外し黒い鎧に身を包んだ第1王子がこっちに来た。


「何だおまえは!」

「秋津直人、オーレリア様の命により貴方を捕らえにきました」


 謁見そして模擬戦の時に第1王子の姿を見た事があったが、あの頃より大分やつれ顔色も良くなかった。


「S級……」


 それだけ言うと、腰に下げていた剣に手をかけた。


「覚えてもらえて光栄ですね、その剣を抜いた瞬間あなたの命をもらい受けますが」


 自分も腰に差していた神刀の鞘に手を添え居合の構えをした。


「見えぬ剣技……」


 居合を見えない剣技と理解しているなら剣から手を放してくれると嬉しいのだが?


「どうしますか?命がいらぬというなら、剣を抜けばいい」


 そう言った瞬間背後から声がした。


「伝令!」


 その叫びと共に若い騎士が陣中に入ってきた。


「む!王子!アキツ砦に向かった隊が魔物の襲撃により全滅しました!それとアキツ砦にからイヴァン将軍が出てきてこちらに向かっています!」


 若い騎士は一瞬自分の存在を認知するも、王子の前で跪いて状況を王子に伝えていた。


 魔物衆はちゃんと仕事しているな、ここに人が居なかった理由はアキツ砦攻略に人手を割いていたからか、離反者が居たわけじゃなかったのか、というか獣人達を待たずに攻めるとか……。


「なぜイヴァン将軍がアキツ砦に居る!」


 第1王子は何も知らないのか?情報無くして攻めるとか何を考えてるんだか……


「半年ほど前からアキツ砦で第6騎士団の面々と過ごされていますからね……」

「クソっ!」


 ついに第1王子が剣を抜いて自分に斬りかかってきた。


 斬るのは意識!王子の攻撃を避けすれ違いざまに第1王子を斬った。


 斬られた王子は意識を失い倒れた。


「ノン、こいつを姫様の所まで連れてって」


 影からノンが飛び出してきた。


「は~い」


 ノンは返事をすると、王子の首の部分を咥えた。


 背中に乗せるんじゃなく、首を咥えるの?

 オーレリアの元に行くまでに死なないよね?大丈夫かな?


「えっと、殺さないでね?」


 第1王子を咥えているせいで喋れないノンは、頭を上下に降って応えた。痛い痛い!咥えた歯が王子の首に深々と刺さっているのが見てわかった。


 命落としてたら蘇生すればいいか。


「んじゃよろしく」


 1度頷きエスティアの方に走っていった。


 ノンが遠ざかる姿を後ろから見てると、王子の手足どころか頭以外が引きずられていた。王女の元に着くころにはボロボロになっていそうだなとか思いつつ、横に居る若い騎士に伝言をお願いすることにした。


「イヴァン将軍がここに来たら、王子の身柄は姫様が預かりましたと伝えてもらって良いですか?」

「は……?」


 一応OKしてもらったと認識していいのかな?自分も姫様の元に戻る事にして、敵陣を後にした。


 エスティアの城壁の上に戻るとオーレリアと5人の第6騎士団の騎士がいた。そして案の定ボロボロになった王子もいた。


「思っていた以上に早かったですね」

「敵陣には人が居ませんでしたからね」

「もしやアキツ砦のほうにも?」

「らしいですよ、伝令からは魔物達により全滅したと報告がありました」


 オーレリアは少し溜息を吐いた。亡くなった仲間たちを思っての事だろうか?


「そうですか……、あそこはここよりも守りが硬いですからね、王子の身柄を預かってもいいですか?」

「えぇ、どうぞ」


 アイテムボックスよりロープを取り出し、ボロボロの王子を縛り上げてから、神の手を使い王子の意識を戻した。


「ここは……?」

「目を覚ましましたね……、彼を連れて行ってください」


 そう言うと2人の騎士によって、王子が連行された。王子の処遇に関してはオーレリアに任せて自分はモリソンに向かうことにした。


「姫様、自分はモリソンに向かいます。3匹の狼はしばらく預けます。何かあったら彼らに守ってもらってください」

「ありがとうございます」

「3匹とも姫様の事を頼んだよ」

「了解」「わかった」「は~い」


 3匹が答えたのを確認した後、城壁から降りてモリソンに向かった。

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