第144話 ペンジェンの街 ゾンビ

 2人のリンクル族をアキツ砦に逃がした後、目の前にある領主邸から2人の母親を救出することにした。


 久々の屋敷潜入か、場所は3階の屋根裏部屋ね……、屋根に飛び乗った瞬間足元が崩れ落ちるとかはないだろうけど、さすがに3階の高さになると怖いな……、どうするかと悩んでいると。


『何を悩んでいるのか知らないけど、影渡りでいけるんじゃない?』

『なるほど、影渡りか』


 そういえば、幸い今は夜だ、屋敷内に明かりが有っても必ず影が出来る。


周囲を確認し、足元の影に潜った。


 移動はイメージだけで移動できるのが非常に便利だった。改めて影に潜った時の感触を確かめてみると。寒いわけでも暖かいわけでもなかった。


 影に潜っている間は、モニターを見ているような感じで外の様子が分かる。影の部分が大きければ大きい程大画面といった感じになる。

 夜の影に潜るのは凄く楽しいかもしれないと思った。月の明かりはノーカウントなのかな?この星の影という意味で移動できるようだった。


 さて屋敷に潜入するとしよう外壁の登るように移動しているとガラス張りのエレベーターに乗っているように外の風景を見ながら上昇していった。


 これはあまり高い建物でやりたくないな……、ここでふと、


『ヒスイ質問なんだけどさ』

『うん?』

『イメージで移動できるなら一瞬で移動できたりしないの?』

『できるよ、影渡りの凄い所はそこだもん』

『どうやるの?』

『自分が1度行った事がある事が前提だね』

『んじゃヴェンダルの冒険者ギルドに一瞬で移動できると……?』

『うん、出来るよ』


 あとでやってみようと思った。


 とりあえず今は、2人のリンクル族の母親の救出を優先させないと、影の中に潜ったまま屋敷に侵入すると、僅かだが死臭が漂っていた。


『ヒスイ、この屋敷に死体がありそうなんだが、少し見てくれない?』

『オッケー』


 しばらく待っていると。


『ゾンビが2体いる。1体はさっきのリンクル族のお母さんじゃないかな?もう1体は君が殺したナンバーズ』


 思わぬ答えが返ってきた。


『それ以外に人は?』

『男が1人だけ、多分死霊術の使い手だと思うよ』


 ゾンビと1人の男か……、


『とりあえず、リンクル族の方に案内して』

『オッケーこっちのほう』

 

 ヒスイが自分の肩の上で指を差して方向を教えてくれた。


 ヒスイの案内に従い行くと、屋根裏部屋で、ベッドの上で蠢き唸っているリンクル族が居て、その上に小さな2つの光の玉が舞っていた。


『あのリンクル族の魂と、旦那さんの魂だ』

『死者の魂か……、このゾンビはどうして動くように?』

『死霊術だよ、基本アンデットは、死霊術によるものか自然発生するものかの2つしかないんだけど、ここじゃ自然発生する条件は整っていないから、死霊術だね多分死体の体内に魔石が入っているはずだよ』


 蠢いているリンクル族の死体に触れ神の手を発動させると、死後は大体1~2週間位死因は首を絞められたことによる窒息死、足は両足ともかなり古い傷があり、その為か自由に動けないようだった。


 死体の記憶を見ると、最期の記憶には口髭を生やした男に、首を絞められているシーンだった。それと同時にやっと解放されるという気持ちが流れ込んできた。


 何から解放されると思った?生きていたことからか?


 とりあえず、ヘソの部分にあった魔石を取り出しゾンビ化の解除と遺体の修復をした。そして蘇生を試みたが失敗した。


 何度も蘇生を試みたが失敗した。


『蘇生出来ないんだが……』

『多分魂が生き返る事を拒んでるんじゃないかな、蘇生失敗自体は珍しい事じゃないんだけどね』

『そうなの?』

『うん、この世界は、輪廻の輪があって死んだ魂は基本的にそこに行くんだ、そこに行く前までなら蘇生出来るけど、行ってしまったら魂が存在しなくなるから蘇生できなくなるんだよ、今回は目の前に魂があるけど蘇生できないって事は、生き返る事を拒んでいるって事かな』


 なるほど、生きている間に何かがあったという事か?


 死体に触れ記憶を探ると、自分が領主に人質として囚われ2人の子どもを縛っている事に負い目を感じている事がわかった。先ほどの解放されるという想いはもしかして2人の子どもがか?


 本人がノーと言うのであれば仕方ない。蘇生させることは諦めることにした。


『ヒスイ、2つ魂の保護を頼めるか?』

『いいよ、最期に2人に会わせるんだね』

『うん』


 ヒスイが自分の肩から離れ、2つの光の玉の元により抱え込むように保護した。


『保護したよ~、この後どうするの?』

『どうすべきだと思う?』


 ゾンビ化した張本人と、ナンバーズのゾンビの対応すべきだろうか?


『ん~死霊術も大した腕前じゃないし放置でもいいと思うよ』

『そっか、んじゃ死体を回収し、スラム街のリンクル族を救出したら、アキツ砦に向かおうか』

『オッケー』


 その後、領主邸を後にし、スラム街で悲しみに暮れるリンクル族をエスティアに全員逃した。


 残っているリンクル族が居ないことを確認し、アキツ砦へ向かうことにした。


『イメージだけで一瞬で移動できるんだよね?』

『うん、できるよ、行きたいと思う場所を思い浮かべて、そこに何もなければ移動できるよ』

『影に潜ってからやるべき?』

『必要ないよ、足元に影があれば大丈夫』


 なるほど、目を閉じて、アキツ砦にある、自分用のログハウスをイメージした。すると、身体がふわりと浮く感触があり目を開けると、イメージしていたログハウス内に立っていた。


『便利でしょ~』

『あぁ、便利だな……』


 自分の中にあるテレポートのイメージと比べると、夜じゃないと出来ないとか制限があるものの十分便利なスキルに違いは無かった。

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