第142話 ペンジェンの街 偽りの処刑

 ダッスの元に行くため、ペンジェンに戻ってくると、門前の市場に人が集まっていた。


 急ぎダッスの元に行くと、そこには40~50代位の見知らぬ男が居た。


「使徒殿来たか、紹介しよう彼が協力者のグリア・ランサルだ」

『彼はエルフ族だね』

「使徒様にお会いできて光栄です。グリア村のランサルと申します。よろしくお願いします」


 なるほど、村の名前が苗字みたいな役割を果たしているのか、男が手を出してきたので、つけている仮面を外しこちらも手をだし握手をした。


「自分は秋津直人です。こちらこそよろしくお願いします」

「ランサルは先代の頃からヴォーネス国内を中心に動いている商会の人だ、信用しても構わんだろう」


 握手している状態なので、信用してもいいか彼の記憶を探っていると、シモンズの記憶の中にも出てきた教会の関係者であるモンドという男と接触しリンクル族の現状を密告している事が分った。


 神の手は便利だな……、ランサルは教会側のスパイだと判明した。


 ならばと思い、これから行われようとしているダッスの偽りの処刑について聞いているか確認すると、やはりダッスからすでに詳細を聞かされていた。

 この街に兵が居ない事、ベルガムの死、自分が狼衆を従えている事、そして自分の存在等も知られていたため、それらの事すべての記憶を消し、まだ彼が知らない、一部の兵の暴走により協定破棄したこと、その為、ヴェンダルがエスティアを攻め、エスティアが落ちた記憶だけを与えた。


 とりあえずこれで良いだろう、ヴォーネス解放軍が動き始めている事を知られるのは遅い方がこちらにとっては都合がいい。


 握手を解くと、


「それでは私はこれで」


 あと子は不思議そうな表情を見せていた。当然だろう自己紹介して握手したはずなのにその相手がだれかが分からなくなっていたのだから。


「あぁ、いつもすまんな」

「いえ、では失礼」


 それだけ言ってランサルは去っていった。自分はランサルの気配がなくなったのを確認した後、ランサルの正体をダッスに告げた。


「ダッスさん、彼は教会関係者の回し者ですよ」

「なぜそれが分る!?」


 自分の言葉に対してすごく驚いていた。


「彼の記憶を覗きました。モンドという男と接触し、各町のリンクル族の状態を報告していました」

「モンド……教団のトップだな……、記憶を覗くとはどうやって?」

「あなたのダミーを作った力と同じですよ」

「ふむ……、今は使徒殿の言葉を信じた方が良さそうだな……、この後の話をしてしまったのだが……」

「偽りの処刑に関してなら記憶を消しているのでご心配なく」

「そんなことも出来るのか……」


 ランサルを帰してから思った。

 ランサルを利用して教会側へ誤情報を流すことが可能じゃないかと、これから積極的に接触し大いに役に立ってもらおう。


「ダッスさんそろそろ時間ですよね、行きましょうか」

「あぁそうだな」

「少し失礼をば」


 ダッスの手に触れ、影渡りのスキルを与えた。


「これで影に潜れますよ」

「感謝する」


 ダッスのダミーをだし、ダッスが今着ている服をダミーに着せ、ロープを使いぐるぐるに巻いた。そしてダッスには自分が生前使っていた服を与えた。


「この服履は着心地が良いな」


 そりゃ裏地にふわふわ付きだからねと思った。ダッスのダミーをアイテムボックスに入れた。


「行きますか」

「あぁ」

「それじゃあ自分の影に潜ってください」

「わかった、邪魔するよ」


 そう言うと、ダッスは自分の影に消えた。


 隠密を使い急ぎ処刑の舞台となる街の入口に向かった。


 街入口の門の上まで来ると、キャラバンが来ているからか中央通りにある市場がにぎわっていた。


 確かに今見渡しても、城壁の上を巡回する者、街の入口を管理する者等兵士が1人も居ない事に気づいた。ランサルの記憶の中でも兵士が居ないとなっていたが、本当に居なかった。


 こりゃさっさとヴィンザー達が来てくれないと治安が悪化していくだけだなと思いつつ、ダッスのダミーを設置し影が重なるようにベルガムの死体を設置した。


 足の防具と靴下を削ぎ皮膚に直接触れられるようにした。


 これで準備は整った。


「ダッスさん良いですか?」

「あぁ、わしはワシの影に隠れればよいな?」


 自分の影からダッスの応えが帰ってきた。


「そうしてください」

「わかった」


 移動してくれたと信じて、自分はベルガムの影にもぐりこんだ。


左手でベルガムの足を握り、右足を伸ばしてダッスのダミーに触れそれぞれを操作することにした。大気魔法を使い声が遠くまで届くようにしこれで準備は完了だ、あとはダッスの演説とやらに期待しよう。


「皆の者よく聞け!」


 第一声はベルガムだ、台本が欲しい、ダッスと打ち合わせしたがあまり覚えていないのが現状だった。


 おそらくだが、近くに居る者達は門の上を見上げた事だろう、見ることが出来ないので確認が出来ないが、門の下が騒がしくなっているのが分った。


「昨日この街は狼と鳥共に襲われた!本日その主犯格を捕らえた!この者は!狼が街の中に入ってこれるように手引きし、皆を襲わせた!よってこれより処刑を執行する!何か言い残すことはあるか?」

「ふん!同胞達よ、よく聞け!クラリス教団はついに創造神ネア様から見放された!すでに知ってる者も居よう!エスティアの先にある岬の建物を!そしてエスティアがすでにヴェンダルに占領されていることを!御使い様が来たのだ!我々リンクル族を助けるために!」


 自分はダッスのダミーを適当に口をパクパクさせ、前後左右揺さぶるだけの簡単な操作をした。


「ふん!」


  そして、クラリス教団の都合の悪くなる話に入ると、ベルガムが剣を抜き、まだ演説途中のダッスの首をはねた。


 ザシュ!という音共にベルガムをアイテムボックスに収納し、自分とダッスは首の影を追いかけた。


「同胞達よ!立ち上がれ!既にヴォーネス解放軍は動き出している!祖国を取り戻そうぞ!」

 

 ダッスの首モドキを操り口パクと睨みを利かせた。


 こんなんでいいのだろうか?確かに胴体を離れたのにしゃべり続けた首は恐怖のあまり見ていた者達の記憶に焼き付いただろう。


 自分とダッスは打ち合わせ通り、城壁沿いの影を移動し、街の外に出た。


 辺りに人が居ないのを確認し、影から外に出た。


「ダッスさん大丈夫ですよ」

「すまんな」


 そう言うとダッスも影から出て気が。


「ノン」

「は~い」


 自分の影からノンが出てきた。返事のしかたからみてノンで間違いないのが良く分かる。


「ダッスさんをエスティアに」

「は~い」

「場所は分かるよね?」

「ん~?知らないかも~」


 この子の雰囲気はな、人選ならぬ狼選誤ったかな?


「この道真っすぐ行くと道沿いに街が有るはず、分らなかったら海沿いを走って」

「は~い」


 大丈夫かな?


「シャドーウルフか」

「ですよ、影渡り返してもらいますね」

「あぁ、本当に何もかもすまんな」


 彼の手を取り、ノンの背中に乗る手助けをし、影渡りを回収した。


「ノンいっていいよ」

「いってきます~」


 ノンはエスティア方面へ駆け出した。


 さて残っているダッスのダミーを回収するか、門の上の胴体はすぐに回収できたが、ダッスの首は、多くのリンクル族達が囲んで泣いていた。


 騙しているからか少し申し訳ない感じがした。


 ふと思った。教会の回し者のランサルがダッスの処刑の事をリンクル族に話すか?もしかしてダッスの処刑って意味がなかった?そんなことを思ってしまった。

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