第129話 ペンジェンの街 狼衆合流

 遠吠えが聞こえると。


「半蔵君の所に行きたいの~」


 何処にいるか分からないエイダが突如声をかけてきた。

 今遠吠えが聞こえただけだが、エイダ呼び出しの合図だったのか?


「あぁ、いいよ」

「いってくるの~」


 と言い残し気配を消した。


「今の声は?」


 目の前に居る内通している兵に聞かれたがなんて答えるべきか悩んだ。


「気にしないでください……」

「そうか、それよりこれからどうするんだ」


 確かの港に居る兵士や市民はいっぱいいる。


 そちらの方を見ると、海に落ちた者を救出する人、自分を探す人、具合が悪そうにしている人等様々だった。


 

「最終的には、この街の制圧ですかね?」

「1人でか?難しくないか?」


 難しいどころか、不可能だと思う、ヴィンザーの話では、街の人達はクラリス教信徒だと言っていた。リンクル族以外を根絶やしにしても、クラリス教団に通じているリンクル族が居ないとも限らない。


「難しいというよりは、不可能でしょうね、今は1人でも多くのリンクル族の救出をめざしますよ」

「そうか、ほとんどのリンクル族は町長邸と街の北側にリンクル族達が住まうスラム街にいる」

「ありがとうございます。2人はそこに居てください」

「あぁ」


 とりあえず神刀を抜刀した。


 斬るのはクラリス教団への信仰心と自分と戦う意思!


 船から桟橋部分に飛び降り彼らの目の前に姿を現した。


 さっきとは違い、刀を抜いているからか自分の姿を見て後ずさりする者も居た。


「戻ったの~」

「おかえり」


 港に居る兵達から視線を外すことなくエイダの声に応えた。


「半蔵君から、仲間が増えたが主と合流していいか?と言ってたの~」


 仲間を増やしに行ったのか、10匹位かな?


「それは構わないが、街の外に居る兵士掃除を依頼してくれる?」

「了解なの~」


 エイダはそれだけ言って気配を消した。


『600近い狼に襲われるとか、外の人達がかわいそう~』


 600?何の数字だ?半蔵の仲間の数なら桁を間違ってない?


『600って何の数字?』

『半蔵君が従えてる狼の数、デザートウルフにシャドーウルフ、ブラッディウルフとか様々な種族がいるよ』


 40のグレーウルフが600とかありえない膨れ方をしていた。


『半蔵は何をしてたんだ……?』

『ん~ヴォーネス国内だけじゃなく、デザートウルフが居る辺り東にあるキャッセル帝国まで行っていたんだろうね』


 デザート、荒野とか砂漠か?と思っていると。


「ワォ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン」


 本日2回目の遠吠えが聞こえた。


 こちらも決着をつけるか、自分自身も兵や武装市民が居る中に突っ込み、神刀をつかい敵兵たちを斬りつけていった。


 全員を斬り終わる頃には目の前には戦意を失った兵士と市民であふれることになり、戦意を失った者達は港から去っていった。


 この後どうしよう、とりあえずナンバーズと言っていた赤い服の男をと思い、死体があるはずの場所に行ったが、あるはずの死体が無かった。


 死体はどこに行った?あの騒ぎの中で何者かが回収したという事だろうか?埋葬するためにならいいが悪用されるのは、と思ったが自分もシモンズの死体を使って出撃命令を下したりしているし気にしても仕方ないと思っていると、


「キャー――――――――――!」


 街のあちらこちらから悲鳴が上がった。何事と思っているとヒスイが教えてくれた。


『大丈夫、半蔵君たちが、ここを目指してるだけだから』


 という事は、狼衆600匹が街中に入ってきたという事か、そりゃ悲鳴も上がるわな、ここで待っていれば来るなら待っているか、狼衆を追いかけて来た者達もう1戦ありそうだなと思った。


 狼衆達の姿が見えたと思ったら、先ほど戦意喪失させ、港を背にしていた兵士達に襲い掛かっていた。


 あ~……、と思ったが、敵対者だったし仕方ない彼等にとっては先ほどまで同じ格好をした者達を襲っていたのだから同じ服装=自分の敵と認識したのだろう、仕方ないと思った。


 身体のあちらこちらに返り血と思しきものを付けた1匹の狼が自分の元に来てお座りした。


「兄ちゃん?ちょっと見ないうちに大きくなったな」


 声を聴くに半蔵か、半蔵の周りには多くの狼が集まり、半蔵同様にお座りした。


「まぁ自分のもう1つの姿だよ覚えておいて」

「了解、兄ちゃんにお願いがあるんだ、新しく仲間にした者達にスキルを与えてくれない?」

「ぇ?」


 元々言われなくても戦力増強という意味で与えるつもりだったが、何故そんなことを言い出したのが気になった。


「もちろんただとは言わない、代わりにおいらが出来る事をするから……」

「いや、スキル云々は構わないよ、でもどうして?」

「おいらについてきてくれた子達は皆はぐれなんだよ」


 はぐれ?1人で生きる者達ってことか?それにしても600は多くないか?


『なるほどね、体のどこかが悪くて戦えずに追い出されたり、身体が弱くて群れに置いて行かれたり、親を殺された子なんかがいるんだね、それにしても大きな群れになったね~』


 てっきり群れを襲って屈服させ吸収していったのかと思っていたが違ったらしい。


「ん~まぁいいよ、スキルを与える代わりに言うこと聞いてくれるかな?それが条件だよ」

「それはおいらだけの事か?」

「いやここに居るみんなだ、条件はいくつかのグループに分かれリンクル族と共に生きる事かな」

『いい案だね~農業をする者達からすれば、ブラッグベアやグレーダーボアは害獣だからね~彼等が農地から守れば共存共栄できるね』


 そう言う意味で日本でも狼信仰がある地域があったのは覚えている。


「それだけでいいのか?」

「それだけでいいよ、リンクル族は弱いからね、彼等を守り共に生きる事、もし望むなら人の姿にしてあげるよ」

「兄ちゃんそんなことも出来るのか?」


 狼の表情の変化は分からないが、声のトーンを聞いてると少し驚いているようだった。


「それ位ならね、どうする?条件のめるかな?」


 王都に向かう際の山小屋で1度は経験済みだ。


 自分が言語理解を持っているし、言語理解を持っていない子達にも伝わっていると思うが、周囲の狼たちの反応が薄い……


「兄ちゃんその条件ならみんな飲める」


 周囲の意見を聞かなくていいのか?とか思った。


「そっか、ならまず遠巻きにこちらを見ている兵士達を掃除しようか、ちなみに今船の上に居る2人は仲間だから襲っちゃだめだよ?」


 ずっと港の方を見ている兵達が街中にちらほら居たのでまずは彼等を片付けてからだ。


「了解だ」


 初期メンバーの40匹のグレーウルフだけじゃなく多くの狼たちが街に繰り出し、ケガを負っている狼たちだけが残っていた。


 残っている狼たちに触れ身体の治療を兼ねて修復しスキルと名前を与えていった。

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