第125話 ペンジェンの街 リンクル族の現状

 リースは恐らく海からペンジェンに侵入したんだろうな、自分も同様に海から侵入するか、いったんペンジェン付近に停泊している船の上まで縮地を使い移動した。


 沖合に停泊している船の甲板からペンジェンの様子を見ると、港付近で体格に見合わない大きさの木箱を運んだりして働かされている子どもたちが居た。


 ちょっと待て、もう深夜と言っても差し支えの無い時間帯のはずなのにいまだに働かされているって……、子ども達を見張っている人を見ると見慣れた格好をしていた。クラリス教団の兵士か、さてどうするか?


『ヒスイ、あそこで働かされている子ども達って』

『みんなリンクル族だね、あと左の方にある建物の中にも多くのリンクル族が囚われているよ』


 まて、今視認出来るだけでも5~60人以上いるように見えるが、まだいるのか?


『港の周辺だけで何人くらいいるの?』

『リンクル族ならいっぱいいるよ、左側の建物の中に居る子達は今休憩しているみたいだね』


 交代制か、それならまだいいけど……、とか思っていると“ドボン”何かが海に落ちる音が聞こえた。


 ん?と思い音の発信源を探すが、夜の海の為か良く分からなかった。


『あそこ、分りやすくしたけど』


 先ほどヒスイが多くのリンクル族が囚われているといった建物の端っこの方から下に緑色の光があった。


『目印を付けてくれたのか、サンキュ』

『いえいえ、亡くなったリンクル族の子を海に捨てたみたいね』


 拾いにいくか、船から縮地を使い、海上を移動し、海上を漂っているリンクル族の死体を拾い近くにあった船の甲板に戻った。


 ヒスイの明かりを頼りに死体を確認すると、リンクル族の男性だった。


 あちらこちらに殴られた形跡があり、頭蓋骨や肋骨など複数カ所の骨折があり神の手を使用すると、それ以外にも様々な怪我が見られた。


 この子1人だけが、殴られたりしているわけではあるまい、おそらくあそこにとらわれている子達は皆……、今度は死体の記憶を見るとヒスイの言っていた通り、建物内に多くのリンクル族が囚われていた、そしてクラリス教団が彼らを確保する理由が判明した。


 軍船の漕ぎ手として彼等を確保していたのだ。戦時は漕ぎ手、平時は物資の積み下ろし等が彼らの仕事だった。


 そして彼の死因は、兵達から暴行を受ける自分の娘を庇った事により、兵士の反感を買い虐待を受けたことによる死だった。


 知りたい現状を知れたし、死体の修復をはじめた。修復をしていると右手の甲にあった不思議な痣が消えた。最後に魂を戻し蘇生した。


「起きて」


 蘇生後男性に声をかけると、男性の目がゆっくりと開いた。


「ん……、娘は!?」


 男は最初ボーっとしていたが、意識を取り戻し行き成り叫んだ。


「静かに」

「あんたは、というかここは?」


 男の視線がこっちを見た。


「自分は秋津直人、ヴォーネス解放軍の者です。ここはペンジェン沖に停泊している軍船の上です」


 そう言って、ペンジェンの港を指さした。


「解放軍の人か!娘を!娘を助けてくれ!」

「わかっています。その前に、港エリアには何人の同胞たちが居るか教えてもらっても良いですか?」

「約1500位だこれでも大分数を減らした方だ……」


 なるほど、大半がクラリス教団の奴隷になっているって事か、というか首輪をしていなかったがどういう原理で奴隷になっているんだ?


「首輪をしていなかったようですが、どういった原理で奴隷になっていたんですか?」

「あん?それは……、って消えてる!?」


 男は自分の手の甲を見て驚いていた。


『呪術だよ、彼等の魂を縛っているのは呪いみたいなものだよ、さっき君が死体の修復をしていた時に、手の甲の痣が消えたでしょ?あれが彼等の魂を縛っている呪いの証、神の手があればすぐに呪いを解くことが出来るよ』

「わからん、ただ最初に拘束されたときに何か呪文の様な詠唱を唱えられた後魔法が一切使えなくなり、奴らの命令に逆らえなくなっていた」


 なるほど、呪いか……、適正属性とか関係あるのかな?あとでヒスイに聞いてみよう、今は彼をエスティアに連れて行く方法だな1500ものリンクル族を一気に救出するとなるとそれなりの輸送手段がないと、海を簡単に渡れる何かが欲しいと考えていると、居るじゃん良さそうな魔物が!


『ヒスイ質問なんだけどさ』

『うん?』

『トライベッカファルコンって、リンクル族を運べるかな?』

『それ位簡単じゃない?彼らの飛ぶ力を侮るなかれ!大人オルカを軽々持ち運ぶ力を持っているからね~』

『オルカを知らないんだけど……』

『しらないか~この辺にもいる魔物なんだけどね、そうだねーレイクシャークなら知ってるよね?』

『あぁ、湖の遺跡に居たやつでしょ?』

『うん、あれを軽々と持ち上げ飛ぶことが出来るよ。重いと飛行距離に問題ありそうだけど、絶対健康を身につけてるからエスティアまでは問題なく飛べるでしょ』


 彼等の救出手段が決まったな、トライベッカファルコンに、エスティアまで運んでもらう!これだ!


「エイダ!」

「はいなの~」

「どこから声が!?」


 リンクル族の男が驚いていたがスルーして、エイダに依頼することにした。


「トライベッカファルコン衆をペンジェン付近の上空待機命令を、あと1羽はここに連れて来て、以上!急いで!」

「わかったの~」


 それだけ言うと、エイダが姿を消した。


「トライベッカファルコンって、あんた魔物を従えているのか?」

「まぁそんなところです」


 とりあえず今回は1人だからトライベッカファルコン衆でいいが、1500ともなると一気に運べる手段が欲しいよな……、海の魔物とか従えられないかな?


『ヒスイ、大型の海の魔物って何が居る?』

『ん?有名どころだと、シーサーペントとかクラーケンじゃないの?』


 どちらも聞いた事があるな映画や、幻想世界の生き物だとかで……


『この湾内に何か居ない?』

『ん~この湾を出たところも大きな湾なんだけど、その大きな湾にヘインズホエールっていう10mそこらの魔物がいるよ』


 ホエールというからにはクジラだろうか?

 早い段階で仲間にしたいな、漕ぎ手が居ないと使えない船を引っ張ってくれれば一気に救出できるのにと思っていると。


「もどったの~」


 と、エイダの報告と同時に、バッサバッサと音を立てて、1羽のトライベッカファルコンが降りて来た。それと同時に、リンクル族の男が自分の後ろに隠れた。


「主か?姿が大分変っているが主だな」

「あぁごめんごめん、この姿も自分なんで仲間にも伝えておいてくれる?」

「了解した。こんな夜遅くに何かようか?」

「彼をエスティアまで運んでくれない?」


 そう言って自分の後ろに隠れているリンクル族の男をみた。


「構わない、乗せるというより掴んでいくがいいか?」

「構わない、えっと……名前は……?」


 そう言えば名前を把握してなかったなと思った。


「ジルだ」

「ジルさん、彼に捕まれてエスティアに行ってください、そしてヴィンザーさんに現状報告を」

「あんたエスティアは解放されたのか?」

「解放され、すでにヴェンダルの兵が抑えています」

「まさか……」

「事実です。既にオーレリア第1王女がエスティアに入っています」

「にわかに信じがたいが……、あんたと喋る鳥を信じるぞ……?」


 まだ疑っているのか、仕方ないので、アイテムボックスからSランクの身分証明をだした。


「暗くてよく見えないが、あんたS級冒険者か……」


 そういえば、自分の場合夜目スキルのおかげで、普通よりは明るく見えているのを忘れていた、現実的に考えると今は深夜で月明りくらいしかなかった。


「そうです、自分を信じてもらえませんか?」

「わかった!エスティアなり何処にでも連れて行け」

「ファルコン」

「あぁ」


 トライベッカファルコンが少し体を浮かし、男の両肩を掴み上昇していった。


「うぉ!?にいちゃん娘を頼む!たった1人の身内なんだ!」

「わかりました」


 自分だったら絶対にされたくないなと内心思いながらジルを見送った。


 彼らの姿が見えなくなったところで、改めて港を見た。


 よっし!手始めに港にとらわれているリンクル族救出といきますか!

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