第124話 エスティアの街 ペンジェンへ

「ヴィンザーさん、自分がペンジェンに潜入して可能な限りのリンクル族を救出してきますよ」

「しかし君は……」

「いいですよ、しばらくナット君の所属はヴォーネス解放軍に移しましょう」

「いいのですか?」

「えぇ、彼は使徒ですからね、ヴォーネス解放にも一役買ってくれると思いますよ」


 あら?第6騎士団はヴォーネス解放には後方支援しかしないのかな?


「第6騎士団は戦場にはたたないんです?」

「立ちませんよ、これはヴォーネス国内の問題ですからね、ヴォーネス国内での私たちの仕事は後方支援のみです」


 ならばナットという子どもの姿である必要がなくなったか?

 そう判断し、久しぶりに秋津直人の姿に戻った。


「うぉ」「むっ」「きゃ」


 ウォルス、ヴィンザー、リコリス3人は驚いていたが、オーレリアと、レオニダスはこの姿を知っている為に驚いたりしなかった。


「その姿久しぶりに見ましたね」

「久々になりましたからね」

「ふふ、そうですね、改めてお三方に紹介しましょう、彼がナット君の本来の姿、秋津直人様です。S級冒険者であり、100層ダンジョンの単独踏破者なので戦力としては申し分ないはずですよ」


 この世界の本来の姿がナットだから、紹介の仕方が若干違う気がした。


「ドザズトアダンジョンの単独踏破者か、噂には聞いていたが……」

「微力ながらヴォーネス解放軍に加わらせていただきます」

「そうか、君がリース君の主だったのか」


 突如今まで聞き専か?と思える位静かだったウォルスが口を開いた。

 

「それはどういうことです?」

「リース君から自分自身の素性と君の元で動いていると聞いていた。彼女との契約もエスティアの街解放までだったからな、本日をもってリース君を君にお返ししよう」


 リースは自身の身分を明かしたうえでウォルスに仕えていたのか、だから偽名ではなく本名を使っていたのかやっと納得した。


 契約がエスティアの解放までって解放しなかったらずっとここにいたのか?と少し気になった。


「ありがとうございます。彼女は優秀な諜報員なので助かります」

「いや、こちらこそ我々にも色々な情報を流してくれたからね、助かったよ」

「ヴィンザーさん、自分がペンジェン潜入してリンクル族の人達を救出する形でいいですか?」

「あぁ、任せよう、その間は我々も出陣準備に努めよう」


 人差し指を一本だけ立てると、周囲のメンバーの頭上には“?”が浮かんでいた。


「エイダ」

「はいなの~」


 一本だけ立てた人差し指の先端にエイダが現れた。


「キラービー!?」


 オーレリアとレオニダス以外は数歩後ずさりした。


「大丈夫ですよ、キラービーですが彼女は自分の使い魔みたいなものです」

「キラービーを従えるのも使徒としての力か……?」

「ヴィンザーさんの足を治した力と同じものです。エイダ今後この3人に手紙を届けてもらうかもしれないからよろしくね」

「はいなの~エイダなの~よろしくなの~」


 エイダは3人の方を向き自己紹介をしていた。


「キラービーが喋ってる……」

「主様の力なの~」

「もういいよ、休んでたところ呼んでごめんね」

「大丈夫なの~またなの~」


 そう言って、エイダが姿を消した。


「今後、彼女に伝令頼むのでお願いします」

「あぁ、しかしオーレリア様は驚かないんですね」

「そりゃ、喋るブラックベアやグレーダーボアを見ていますからね……」


 そういや、グレーウルフ衆はどこに行ったんだろう?と思った。


「他にも喋れる魔物がいるんですか?」

「そうですね、アキツ砦の主戦力ですよ、先日のヴォーネス軍も9割ほどが彼等によって殺されていますからね」


 アキツ砦、話の流れ的に自分が作った拠点の名称かな?アキツってもしかして自分の名前を?


「アキツ砦?もしかして岬の建物ですか?」

「はい、秋津様がわずか1日で作った砦ですね」

「築城も得意なのか?」


 ヴィンザーがこちらを向き訪ねてきた。


「いや?土魔法を使いまくっただけですよ?」

「土魔法で築城か、魔素切れになったら崩れると思っていたが違うのか」

「なんでも地中にある物を使って作る分には崩れたりしないみたいです、魔素を使って具現化したものに関しては、魔素切れを起こした際に崩れるそうですよ」

「なるほど、ガイアコントロールの応用か」


 ガイアコントロール?地中の粘土を取り出したりする事をそう呼ぶのかな?


「かな?」

『ヒスイ先生質問!』

『はいなんでしょう!?』

『ガイアコントロールってなんですか?』

『君が道づくりとかでやっていた地中を操作する魔法の一般的な呼称です!』


 なるほど、地中操作系が全部ガイアコントロールと呼ばれるのか、理解した。


「とりあえず、話を戻して、この後ペンジェン潜入してきます」

「あぁ、同胞達を頼む」


 ヴィンザーがそう言うと、ヴィンザーとリコリスが頭を深々と下げた。


「頼まれました。では」


 部屋を後にすると廊下の壁によりかかっている本来の妖狐族の姿をしたリースが居た。


 リースと共に領主の館を後にし、街の門を向かいながら話をした。


「次はペンジェンか~楽させてもらえなさそうだね~」

「かもね、さっそく頼みがあるんだけどいいかな?」

「リンクル族の居場所とかでいいのかな?」


 こちらが内容を話す前に察してくれた。


「そうだね、出来たら個々の扱われ方なんかもチェックを頼みたい、今にも死を選びそうな子とか絶望しかないような子とかから救出したい」

「OK、しばらく接触無で、連絡はドライアド経由でいいかな?」

「了解」

「んじゃ、先にペンジェンに行ってるよ、またねん~」


 それだけ言うと、縮地を使って海の方向へ消えていった。


 それじゃあ、自分もペンジェン潜入といきますか!

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