第112話 開戦 拠点防衛奇襲戦

 翌朝


 外に出ると案の定濃い霧に覆われていた。


 都合のいいことに、海沿いなのに風が全くなく、5m先が見える位の、十分な濃霧だった。


「やっと起きてきましたね~今日は濃い霧に覆われてるので気を付けてくださ~い」


 やっと?

 夕べ寝ていた人がさもずっと起きていたように振舞っていた。

 セリエの左右にグレーウルフとブラックベアがいた。


 そういや2匹にも言語理解を与えないとか、2匹に触れ言語理解を与えた。


「セリエこれで2匹と会話できるよ」

「お~!ほんとうですか~!?」


 すごく嬉しそうだった。


「ちょっと訳アリだけどね」

「えっへっへ、うれしいです~」


 横に居るグレーウルフに夕べ同様の魔物衆の集合を依頼すると、直ぐに昨夜同様遠吠えをしてくれた。


「何かあるんですか~?」

「エスティアから1万の兵が攻めてくるらしくてね、セリエ悪いんだけどブラックベアと一足先に姫様たちと合流してくれない?トライベッカ国境付近で野営してるから」

「ぇ~?リタは~?」

「リタってだれ?」

「私の名前よ」


 横に居たグレーウルフが答えた。リタはピシッと綺麗な姿勢でお座りしていた。

 この子、人の姿にしたら、釣り目の綺麗なキャリアウーマンだろうなとか勝手に思った。


「あ、あ、ほんとに喋った~~!」


 セリエが思いっきりリタに抱き着いた。


「私は何か別の役割があるの?」


 抱き着いているセリエはスルーなのか?


「いや、別のお願い頼もうと思ったけど、このままセリエと一緒に味方との合流をお願い」

「了解」


 セリエよりリタの方がしっかりしている気がしてならなかった。


「んじゃ直ぐに出発して」

「ほらセリエ、私の背中に乗ってちゃんと捕まって」

「なんかリタがお姉さんみたいです~」


 セリエの発言に同感した。

 セリエはリタにまたがるとすぐに拠点を出て行った。


 拠点を出ると既に全員集合していた。


『ヒスイ、相手の動きは?』

『攻めてくるみたいよ』


 こんな濃霧の中崖っぷちを歩かされる兵たちがかわいそうに思った。


「夕べ話した通り攻めてくるようだ、皆森の中に潜め、遠吠えがあったら一斉に突っ込め、一緒にがけ下に落ちるなよ~落ちたら生きて戻ってこい!深追いはするなよ、深追いしても森の中までだ、街道にはでるな!」

「「「お~!」」」

「よっし、グレーウルフの中で一番若い子は残って合図役を頼む、それじゃ各自持ち場にいけ!」

 

 皆が持ち場?に散っていったが、

 持ち場に行けと言ったが何処に誰とか全く決めていなかったことを思い出した。

 なんとなるだろうと信じることにした。


 残っていたグレーウルフは若いと言うか体長50㎝もない子狼じゃないか遠吠えできるのかな?


「遠吠えできる?」

「大丈夫」


 声を聴く限り男の子って感じだった。


「じゃあ、合図したらお願いね」

「はい」


 頭を撫でると尻尾をパタパタと嬉しそうにしていた。


 相手が襲ってくるとわかっているせいか、落ち着かない、さっさと来てくれ!という気持ちでいっぱいだった。


 城壁と崖が交わる付近で敵軍の到着を横に居る子狼を撫でながら待っていた。


『奇襲ポイントに敵兵さん入ってきた~』


 昼を過ぎても霧が晴れなかったが、ようやく奇襲ポイントの崖っぷちに入った事をヒスイが教えてくれた。


『ん~既に崖から落ちてる兵士達がいっぱいいる』


 なぜこんな濃霧の日に攻めに来るかな?

 自分だったら絶対に攻めないんだけどな、どう考えても攻められること察知していたら奇襲されるのが分かる状況なのに、攻められることを察知してると思っていないからの進軍なのだろうか?


『そろそろナットの視界にも入ってくると思うよ』


 ということは10mそこらまで来たって事か?


「よっし、合図だ」


 横に居るグレーウルフに伝えるとすぐ遠吠えをしてくれた。


「ワゥ~~~~~~~~~」


 その瞬間、森の中が騒がしくなり、あちらこちらから悲鳴が聞こえ始めた。


 その悲鳴が遠ざかる事もあり、あぁだれか崖から落ちていったなと思った。

 

 その後もあちらこちらで悲鳴が上がっているが拠点の城壁まで攻め上がった物はいなかった。


 次第にあたりが静かになってきた。


『1万の兵が生き残り3名だね、こちらの被害は無し、圧勝だね~』

『そっか、それは良かった』


 夕方前には決着がついたかな、今回は、地の利と霧のお陰だろう、それに相手さんはヴェンダル兵ではなく魔物に襲われた。ただそれだけの事。


「終わりだ、皆にいつもの所に集まるように合図を頼める?」


 子狼は頷き、遠吠えをしてくれた。


「ワゥ~~~~~~~~~」


 自分はこの霧を晴らすために、大気魔法と水分魔法で大気中の水分を減らし、霧を晴らした。


「ありがとう、もどろうか」

「はい」


 自分のすぐ後ろを歩く子狼がかわいく、生前のちび助を思い出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る