騎士団時代

第95話 三顧の礼?前編

 リースの刀作り以来、物作りに没頭してた。


 自分用の打刀と脇差をオリハルコンで作り、何度も何度も作り直した結果、最上大業物の自動帰還・切れ味上昇10・強度上昇10・軽量化10という満足のできる打刀と脇差の二振りが出来た。


 リースやオスカー、チェルシー用にと思い、アクセサリーや短剣等を作ったりもした。


 一方リースは、手元に武器が戻ってきた事もあり冒険者として活動を再開していた。

 自分の中ではリースの本業はスパイだと思っていたがB級冒険者としても活動していた事を知った。


 そんなある日の事、次は何を作ろうかなと思っていると、


『第1王女様が来たよ』


 ヒスイから告げられたのは思いもよらぬ相手の訪問だった。


『なんで!?』

『さぁ?』


 面倒事になりそうだなと思い、ナットの姿になり玄関に出た。


「はい、どちら様でしょうか~?」


 玄関の前には謁見時に王の横に居た綺麗な女性だった。


「あれ?ここは秋津直人様の家ですよね?」


 自分が出てくると思っていなかったのだろう、女性は戸惑いの表情を見せた。


「そうですけど、お師匠様は今不在です」


 堂々と嘘をついた。


「おかしいな、私の直感では在宅のはずなんだけどな、外れたかな?」

『彼女直感スキルを極めているよ、直感だけで生きてきているのかな?』


 直感だけで生きているって、それはそれで凄い気がした。


「お師匠様に何か用ですか?」

「ん~今日私が訪ねてきたと伝えてもらってもいいかな?」


 私と言われても自分は第1王女の名前を知らないし、面識も謁見の間でちらりと見ただけだった。


「えっと、お姉さんの名前を教えてください」

「あ、ごめん君は私の事を知らないのか、私はこの国の第1王女オーレリア・ヴェンダルです」


 オーレリア・ヴェンダルか、なんかカッコいい名前だなと思った。

 王都に住み始めて半年ほど経つが王女の名前なんて知る機会は1度もなかった。


「オーレリア様が来たと、お師匠様に伝えておきます」

「うん、お願いね、また来ます。」


 そう言ってオーレリアは納得できない様子で去っていった。


 オーレリアの姿が見えなくなったのを確認しヒスイに聞いた。


「何のために来たんだろ?」

『君を雇いたいんじゃない?』

「医師として?」


 謁見の際に断っているし、騎士としてか?

 そう言えば町医者をしている人達からも何も言って来ない辺り宮廷医師達は自分から学ぶことを諦めたと思っていた。


『さぁ?調べておこうか?』

「頼んでいい?」

『OK』


 実用性の高い物は作ったからな、今度はネタ武器を作ろうかなぁと思っていたら、リースが帰ってきた。


「ただいま~、お腹すいた~」

「おかえり」

「夕飯は~……、って作ってるわけないか~、仕方ない今から準備しよ~」


 ふと思った。趣味で色々な物作っているが、売り物を作っているわけではない、1日中家で好きな事をしているだけだ、ニートと変わらない気がした。


 時々トザズトアダンジョンで得た宝石や金属を市場に流している為、生活に困らないだけの収入はある。


「あ~たまには自分が生前作ってたやつでも作ろうか?」

「別にいいよ~何か作ってなよ~」


 リースは将来良い嫁になるなと思った。


◇◇◇◇◇◇



 数か月後、


 季節が夏から秋に代わろうとしていたある日の事、ネタ武器として作ったジャマダハルをリースが偉く気に入っていた。


「これ欲しい!」


 遊びで作ったのはいいが正直自分では、いまいちの武器だと思っていた。


「それ使いにくくない?」

「そんなことない!刀より全然いい!出来たらもうちょっと刃の部分を長くしてほしいかも」


 チャクラムやデスサイズとかの方が実用性ありそうだけどなとか思ったが、リースが気に入ってるいなら遊びで作ったジャマダハルではなく、本気で作ったジャマダハルを渡そうと思った。


「んじゃ今度本気で作ってみるよ、もう少しこうしてほしいとかリクエストがあったら、言ってくれる?」

「それじゃ~」


 と、リースが言いかけた時、インターホンがなった。


『第1王女だね~』

「リース出て、自分居ないって事にして」

「ぇ?」


 急ぎナットの姿になった。


「外に居るのは第1王女だって」

「何でそんな人がここに来るのさ」

「それは自分も知らない」


 前回来た時にヒスイに調べてと依頼したのを思い出した。


『王女は何のために来ているか分かった?』

『うん、お隣のヴォーネスの動きが活発化してきているから、自分の騎士団に君を入れたいみたい』


 昨年5年間の停戦協定を結んだんじゃなかったのか?


 停戦協定を破る気でいるのか?そんな事を思っていると、リースが渋々と言った表情で玄関に向かった。自分もこっそりと玄関を覗いた。


「はい~」

「すいません、秋津直人様は御在宅でしょうか?」


 リースは少し悩む仕草を見せた。


「今は居ないですね~」

「あれ?また?」


 オーレリアが困惑しているのが分かった。


「いつお戻りになりますか?」

「ん~ちょっといつ帰ってくるか分からないです」

「そうですか……、また来ます……」


 前回とは違い、凄くがっかりした様子を見せた。


 オーレリアが帰った後リースに問い詰められた。


「女性をあんなにがっかりさせるってどうなのさ!」

「いや、面倒事は避けたいし!どうも王女様は自分を騎士団に引き込みたいらしい」


 そこまで怒る事かな?次来た時はちゃんと対応しようと決めた。


「何で?」

「ヴォーネスの動きが活発化してるんだと」

「ふ~ん、君が騎士団に入れば王女様の安全は確保されたようなものだよね~」

「あまり戦争にからみたくないんだけどね……」


 以前オスカーに言われた仲間と共に戦い死者を出さない事が個人の最強より価値があると諭された事もあるし、武術会でも兼定にスキル頼りの強さではなく基盤を磨けとも言われている事もありある程度の自由があるなら騎士団に入るのも有りかなと考えていた。


「ヴォーネスの内情調べてこようか?」


 リースが危ないことを言い出した。


「危なくない?」

「大丈夫でしょ、詳しい内情が分れば判断しやすいでしょ?」


 確かにその通りなのだがあまり危険な事をしてほしくないと思った。

 それと同時に、戦になった時、相手の情報が知れるのは大きいとも思った。


「ん~そうなんだけどさ、それなら1つ条件があるんだけどいいかな?」

「条件?」

「うん、ヒスイ悪いんだけど、リースに精霊を付けてくれない?」

『ん、良いけどなんで?』

『いつでも連絡取れる状況にしたいからという理由かな』

『なるほど、いいよ~』


 納得してくれたようだった。


「いや精霊なんかいたら潜入しにくくなるからいらないよ」


 リースが提案に対して少し考える素振りを見せていたが拒否した。


「あ~なるほど……」


 確かに相手に魔素視を持つ人が居たら潜入しにくくなると考えたらデメリットが大きい気がした。


「そんなことないし!」


 いつの間にかヒスイが姿を現していた。


「こうやって一体化したら魔素視でも見破れないし!」


 そう言いつつ自分の身体の中にヒスイの身体が沈んだ。これって自分の考えがダイレクトに伝わるような気がした。


『当然!』


 やっぱり、あまりやってほしくないと思った。


「あぁそういうことも出来るんだ、魔素視対策できるなら別にいいよ」

「んじゃヒスイお願い」

「OK!3人つけてあげる~2人は見張りに回したりと使ってあげて」

「それは助かる」


 リースの周りに3つの光の玉が現れた。


「契約するかしないはお任せします~」

「3匹に名前つけちゃっていいのかな?」

「うん、いいよ~」


 ふと、ヒスイは“人”とカウントしていたのに、リースは“匹”とカウントしていた。虫扱い!?とか思ったが、ヒスイからの突っ込みが無かった。


「名前考えないとね、私は明日にでもヴォーネスに向かうよ」

「早いな、準備出来てるの?」

「アイテムボックスの中に入ってるからね、庭の家貰ってもいい?」


 ログハウスの事か、気に入ったのかな?コピーだし持って行っても構わないと思った。


「良いよ、新しいのを出そうか?」

「いや、あれでいい」

「そか、んじゃ気を付けて行ってね、くれぐれも無理しないように」

「了解」


 翌日リースはヴォーネスへ旅立った。

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