第90話 青年の部決勝トーナメント

翌日


 決勝トーナメント戦の始まりだ、1回戦第1試合と直ぐに出番がある為、遅れないように早めに家をでた。


 大通りは人が多いが、初日と比べるとやはり少ない、獣人族はほとんどいなくなっていた。


 何か起きる前兆か?

 もしや獣王国が攻めてくる準備をしているのか?

 そんなことを思いつつ闘技場に向かった。


 闘技場に着くと、係の人に、控室に案内された。第1試合を勝った場合は、観客席の方で出番が来るのを待っていてもいいと教えてもらった。

 それはうれしい、リースとの闘いが初見じゃなくて済む。


 控室の壁にトーナメント表が出ていた。第1試合の相手は兼定と書かれていた。


 トザズトアのダンジョンでその名前を聞いた気がするが、もしかして同一人物か?

もしそうなら、本物の秋津の剣を見ることができる。

 今日は刀を使うか、切れ味は普通の刀と同等をイメージした。


 しばらく待っていると、係の人が来た。


「フォックスマンさん出番ですよ」

「はい」

「今日は武器を使うのですなぁ」

「元々使っていましたからね、今日は強者ぞろいの様なので」

「そうですか、昨日の第7グループの試合は見ましたか?」


 そういや見ないで帰っちゃったな……、第7グループはリースだったな。


「見てないですね、何かあったんですか?」

「勿体ないことをしましたな、勝ったのは狐人族の女性でしたが一瞬で終わったんですよ!気づけば終わっていたんですよ!」


 自分とは逆にさっさと終わらせる事を重視しているのか?なぜ青年の部に出た?

 そんな実力があれば騎士団の部でもいい気がするけど、そんなことを思いながら係の人について行った。


 リング上に上がると、既に兼定と思しき侍がいた。

 歳は40~50代で後ろを上の方で縛っていた。


「ほう、同郷の者か?」


 自分の姿を確認するなり質問してきた。


「かもしれませんね、よろしくお願いします」


 兼定に向け一礼をした。


「昨日と言い今日と言いこのような果ての地で同郷の者に会えるとはな、こちらこそよろしく頼む」


 兼定は手を出してきたので、応じて握手をした。

 昨日というのは恐らくリースの事だろうか?


「よろしいですか?」

「あぁ、すまないはじめてくれ」


 兼定とのやり取りをしていると審判が尋ねてきた。


「それでは2人の紹介をさせてもらいます!こちらトザズトアダンジョン攻略組所属している兼定!長年踏破者が現れない最難関のダンジョンの最前線で活躍しています!優勝候補の1人です!」


 わぁ~~と観客たちの声が聞こえる。

 つい先日踏破された事はまだ知らされてないのか?

 先日アマネが居た時点でそろそろ伝わってもいいころだと思った。


「一方!昨日の試合で驚きの攻撃手段と速さを見せたフォックスマン!すべてが謎に包まれた男、兼定を相手にどこまで食い下がれるか!今日は徒手ではなく兼定選手同様倭剣を腰に差しています!」


 あれ?自分弱いと思われている気がする!


「さぁそれでは決勝トーナメント第1試合兼定VSフォックスマン!レディーファィト!」


 兼定が刀を抜いた。


「では行くぞ!」


 こちらも刀を抜き、兼定に向って行った。


 兼定の攻撃に合わせて行くうちに思った。

 こちらから攻撃する隙が無い、一度後ろに飛びのくとすぐに間合いを詰めてくる。


「昨日の素早さはどうした?」

「さぁ」


 鍔迫り合いになった瞬間に、兼定から質問が飛んできた。

 今日はまだ行動速度上昇使ってないけど使わないと勝てない相手なのが分かった。



「昨日も見ていて思ったが、君はスキル頼りで基本が成ってないな、対人の実戦経験も浅いな技量の未熟さが際立っているぞ!」


 確かに、縮地と行動速度上昇と神刀の切れ味に頼り切っていたからなぁ、基盤を鍛錬しなきゃダメだな、こんなんで最強は名乗れないだろう。

 

 明日からオスカーに鍛えてもらうかな。


 その後も兼定の一方的な攻撃が続く、見切りスキルのおかげか避けたり、受け流したりするのは苦ではないが、縮地と行動速度上昇無では、隙が見当たらないし、当てる方法が思いつかない、これが本当の強さなのかと実感する。


「回避や受け流しは一流だな!」


 兼定の技をいくつか盗ませてもらったが、突き系が多いな、ダンジョン内の通路戦用として役に立ちそうだと思った。


 どれだけ経っただろうか、受け流しと回避に専念していたが、兼定から盗める技もなくなってきた。


 今度は兼定の技のみで相手をしよう。


 兼定が突きをするとわかれば、少し後ろに下がり、兼定の突きに合わせて突きをした。お互いの切先がぶつかり合った。


「ほぅ、器用な事をする。面白いな」


 こちらからいくつか兼定の技で攻撃を仕掛け、兼定の防ぎ方、流し方を見極め、兼定の攻撃に対して同じように防ぎ、流した。


「まるで、同門の者と戦っているようだな……」


 そりゃあなたの技を真似てさらに自分なりに昇華させていますから!


 その後も、兼定から盗んだ技のみで対応した。


「攻めきれんな……」


 兼定自身も自分に対する決め手に欠け、自分自身も縮地、行動速度上昇がないと決め手がなかった。


 このままだと体力勝負で自分が勝つだろう、それならば、そろそろ頃合いか、行動速度上昇発動させる。その瞬間兼定の動きがスローになった。


 一度後方に飛びのき、縮地で胴払いをし試合を終わらせた。


「勝ったのは!フォックスマン!最初は防戦一方でしたが、次第に兼定選手と同じ動きを見せ、最後の最後で見せてくれました~!」


 わぁ~~と観客の声が聞こえる。自分は兼定を探し、姿を見つけたので駆け寄った。


「ありがとうございました」

「こちらこそ、君の持つスキルは反則級だな、秋津直人君」


 自分の名前を小声で言われたがビックリした。


「ぇ?なぜ?」

「グラコスから聞いている。私の同郷の青年に会ったと、そしてその青年は人とは思えぬ速さで魔物を屠り続けていたとね、最後の技見事だった。君がそうだと確信したのはその時だったよ」


 あぁなるほど納得した。


「上には上が居ると改めて思った。ワシもまだまだ精進せねばな」

「こちらこそ気づかせてくれてありがとうございました。指摘通りスキル頼りで基本を磨いてませんでした」

「フフフ、基本を磨け君はもっと強くなれる」


 兼定が手を出したので、それに応えガッチリと握手を交わした。


「達者でな、わしはトザズトアに戻るがまた会おう!」

「はい、兼定さんもお元気で!」


 最後に背中をバシバシと叩き、兼定は去っていった。


その後観客席でリースの試合を見ていたが、昔の自分同様に、縮地を使ってスパッと終わらせていた。忍び刀の逆手持ちとかザ・ニンジャって感じでかっこよかった。


 2回戦の相手はパットせず直ぐに終わってしまったが、いよいよ決勝となり、リースとの対決となった。


 双方リング上に上がるとアナウンスがかかった。


「さぁいよいよ決勝です!目にも止まらない速さがを持っています謎の男フォックスマン!予選からすべての戦いを秒で終わらせる獣人リース!さぁ、両者中央へ!」


 リースは既に抜刀し臨戦態勢になっていた。一方自分も抜刀し、片手正眼の構えで応じた。


 この試合は一瞬で終わるだろう。


 すべてのスキルを使い、神刀にも制限はかけないで応戦しよう!行動速度上昇極改発動!


「それでは青年の部決勝戦!レディーファィト!」


 案の定、リースは縮地を使い自分の首を斬りに来た。

 行動速度上昇極改を使っていると縮地ですら目で追えるようになっていた。

 彼女の接近に合わせてこちらも縮地斬りで応戦!


 その結果、彼女の刀を斬り、そのまま頭部を斬り彼女がリング外へ移動した。


「一瞬!一瞬で決着がつきました!勝者フォックスマン!」


 わぁ~~~と観客が盛り上がっている中、リング外にはじかれたリースが縮地を使って自分に突っ込んできて胸ぐらをつかまれた。


「あんたなんてことしてくれんのよ!大金払って買ったガットスの刀が…………」


 目の前には、耳と尻尾が力なく垂れて目には涙を浮かべているリースがいた。


『アダマンタイト製で大業物だったしねぇ、結構な値段するよね~』


 というか、使えなくなって泣くなら使わなければいいじゃんとか思った。


「えっとなんかごめん?」

「弁償してよ!」


 ぇーこれ自分が悪いの……?とか思っていると、次の瞬間、リースの耳と尻尾がピーンと立った。


「来る!」


 何が?と思った次の瞬間……

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