第79話 医療行為の報酬と……

 3人で夕食を堪能した後、気になっている事を聞いた。


「アマネさんの師ってオスカーさんなんですか?」

「そうだ、元々はチェルが何処かで拾ってきた子どもだが、戦い方を教えたのは俺だな」

「そうだね、当時私はいろいろな所に行ってたからね」

「だから俺が預かったんだ」


 師はオスカーで間違いないのか、アマネの格闘技を見ていると中国拳法って感じだったが?


「オスカーさんは中国拳法も使えるんですか?」

「俺は色々できるぞ、この世界に来て最初にやったのが生前やっていた格闘ゲームの技を身に着ける事だったからな、さすがにすべての技を真似出来たわけじゃないが、ほとんど使えるな、アマネには女性キャラが使っていた技を伝えた位だ」


 格闘ゲームで見た事ある技と思っていたが、本当にそれを身に着け伝えていたと思わなかった。


「直人はなんで王都にきたの?」


 チェルシー~質問が来た隠す必要もないので答えた。


「武術会に出るためですかね」

「俺たち使徒に勝てるやつらなんてほとんどいないぞ、ネア様と誰の加護貰ってるかにもよるが、武神や戦神みたいに戦いに絡む神の加護を持ってるなら俺とやり合えるが……」

「阿修羅様ですね」

「アシュラ?」


 流石にオスカーは知らないか、アメリカの方ではあまりなじみのない神様だろうなと思った。


「インドの戦いの神様だね」

「良く知っていますね」

「私は幼いころ両親の都合で中国に居たからね、その頃色々な神話を読んでいて、その中に出てきたよ、直人が明かしたなら私も明かさないとだね、私はヘルメス様の加護を貰ってるよ」


 ギリシャ神話?名前だけは聞いた事があった。


「なんの神様なんですか?」

「商売とか発明に旅行の神様だよ」


 初めて知った。


「そうだったんですね」

「なら俺も明かすか、戦神アレス様だな」


 アマネがそんなことを言ってた気がした。


「北欧神話あたりですか?」

「そうだな、ローマ神話だったと思う。幼き頃に物語を聞いてずっと好きだったからな。」

「なるほど」

「直人は阿修羅様から加護を貰ったって事は、強くなりたいの?」


 チェルシーからの質問を受け、この世界の目的を話すべきか悩んだが、同じ転生転移の仲だし話す事に決めた。

 

 オスカーとチェルシーに、生前亡くした彼女の事、その彼女がこの世界に来る事、その前に胸を張って再会できるように強さとSランクを求めている事を伝えた。


「なるほどな、彼女の前で格好つけるためか、分る気がする」


 格好つけるって表現は何故か好きになれない……、見栄を張るようなイメージがある。


「なるほどね、胸を張れる実績をつみたいのか、そっか……」


 チェルシーが言葉を詰まらせ、少し考えるような素振りを見せた。


「ねぇ直人はどんな病気やケガなら治せる?」

「原因が分かれば何でも治せると思いますよ」

「ふ~ん、それなら明日王城にいかない?第2王女リリィ様の治療をできないかな?」

「王族ですか?」

「王族だね、リリィ様は病気のせいで幽閉されてるの、王城といっても裏門から入ってすぐの所だし、あまり人とかかわらないでいけるよ」

「チェルシーさんは、第2王女と繋がりがあるんですか?」

「私が商業ギルドのマスターになった時に少し話をした事があってね、それをきっかけに定期的に会ってお茶しているの、最近は病気のせいで難しくなってきているんだけどね……」

「まぁ、会ってみる位なら良いですけど、期待はしないでくださいね」

「相手は王族だし、がっぽりと報酬を貰えるだろうよ」


 ん~……、オスカーの発言に対して少し嫌な事を思い出した。


「相手は誰であろうと、医療行為で報酬は貰うつもりはないですね」

「なぜ?」「なんで?」


 オスカーとチェルシーが同時に質問してきた。


「救命救急に居た頃の話なんですが、救急車で運ばれてきたのに金銭的な理由で医療行為を拒否された患者さんが居たんですよね……、結局夜に病院を抜け出し、3日後位に手遅れになって亡くなった事があったんです」

「あ~なるほどな……」


 オスカーは返事に、チェルシーは頷いていた。


「病院とはいえ商売ですからね、お金を貰わないで治療は出来ないし、だからこの世界に来た時に、個人でやる医療行為は無報酬で対応しようって思ったんですよ。もちろん相手からしつこく渡されたりしたら貰いますが、そうでもなければ、その分を孤児院とかに寄付してほしいと思いますね」

「ックック、ゴッドハンドアキツか、神の手を持つ医者は本当に神様みたいなやつだったんだな」

「オスカー何か知ってるの?」

「あぁ、直人には初めて会った時に話したが、俺の祖父の病を治す方法を調べていた時に出てきた名前なんだよ、秋津直人ってね、その記事の見出しがゴッドハンドアキツだったんだよ」


 神の手か、今まさに神の手ってスキルがあるけど、もしかしてその繋がりもあるのかな……?


「へぇ、2人は同じ時代に生きてたんだ」

「かもな」

「それなら、S級になるための推薦状を貰えばいいんじゃないかな?」


 ん~それは欲しい……、深くかかわらずにもらえるならすごく欲しいと思った。


「それくらいなら、いいんじゃねぇの?」


 確かにそれ位ならという感じもするが、自分のポリシーと欲の間で天秤が揺れ動いていた。


「まぁそれくらいなら?」

「明日よろしくね」


 いまだに報酬関係で悩みがあるが、明日は王女様に会う事になった。


「なぁ直人、最強を目指すなら騎士団に入れよ、5年後またヴォーネスが攻めてくるだろうからな、そこで仲間の死者0で戦をやって見せればいいんじゃないのか?個人の最強なんて俺らからみたらあまり意味がないからな、仲間と共に戦い、仲間の死者0を成し遂げてこそ最強なんじゃないのか?」


 確かにと思える部分もあるが、戦場となると気が進まなかった。


「可能なら相手の死者も0って所ね」

「攻めで無血開城させるのが一番いいんじゃねぇの?同盟国の獣王国は無血ってのは無理だろうがな、あそこは戦がしたいだけの連中ばかりだからな」


 不可能じゃないだろうが、気になる事がある。

 ヴォーネスが攻めてくる?こっちが攻めたんじゃなく?


「ヴォーネスが攻めてきたんですか?ヴェンダルが攻めたんじゃなく?」

「ヴォーネスと、フェアレが攻めてきたで間違いないよ、ヴォーネスは人が多いくせに農地が少なく食糧不足だからな、食糧豊富な帝国と獣王国からの輸入便りなんだよ、同盟国のトライベッカ公国と王国北部の穀倉地帯を狙って何度も侵攻してきてるんだよ」

「3年位前にブライメリー王国攻めがありましたよね?」


 この世界に来て初めての戦だった出来事を思い出した。

 あの時はグレーダーボアを村の近くまで誘導したり、騎士達が村を襲撃してきた事件だった。


「あったな、ありゃ確か……」

「第1王子の暴走ね、同盟結ばないとこうなるぞ~と見せしめにしようと近くの村を襲って返り討ちにあったっていうね、あれで精鋭中の精鋭と言われた第2騎士団が壊滅したんだよね、その件で第1王子は信用失って王位継承も危ぶまれてたけど、先月第2王子が継承はく奪された事件もあったから少しは次代の王になる可能性ありそうだけどね、今のところは、第1王女のオーレリア様ものになりそうねぇ」


 第2王子ってレベルト?鬼人族の子どもの誘拐を企てた事件で王位はく奪されたのか?


「第2王子ってレベルトですか?何かあったんです?」

「そう、レベルト王子だったね、なんでも希少種の子供を誘拐しようとして失敗した挙句に優秀な部下を死なせたんだって、その罪を問われて継承権はく奪の上王都追放」


 王が判断したのだろうか?自分の子でも容赦なく処分するのか、こちらから何かしなくても大丈夫そうだな。


『ヒスイ、レベルトっていま何してるの?』

『北東にあるシャンソって街にいるよ。』


 放置で大丈夫か、その後、3人で色々雑談をしてお開きになった。

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