第52話 対価

 子爵の後について行くと、一つの扉の前で立ち止まった。


「この中だ」


 そう言って子爵が扉を開けた。


 そこには、貴族の部屋らしくお高そうな家具が並んでいた。男爵家はそこまででもなかったがこれも位の差なんだろうか?


「ナナシ殿こちらだ」


 子爵はベッドの横へ自分を案内した。

 ベッドの上には10代後半位の女性がベッド上で横になって寝ていた。


「娘のオリビアだ、半年ほど前から咳をするようになり、時々血を吐くようになったのだ、治せるだろうか?」


 吐血に咳か、ぱっと浮かぶのは肺結核だが、


「触れても?」

「構わない」


 娘さんの手首に触れる身体の状態を見ると思った通り肺結核だった。


「お父様……?」


 自分が触れたからか目を覚ましたようだ、声がとても弱々しい。


「オリビア、体調はどうだ?」

「そうですね、今日はまだ楽です。」

「そうか……、ナナシ殿」


 結核ならこの家の者すべてをチェックすべきだろう。


「ウォーレンさんちょっと廊下まで」

「あぁ、オリビアすまない少し外に出る」

「はい」


 子爵と共に外にでて扉を閉めた。


「ナナシ殿何かあったのか?」

「まずは、娘さんの病は人に伝染する病です。ここの家にいる者達全員をチェックさせてください。それから、2人で落ち着いて話出来る所に案内してもらっても?」


 子爵は、何故というような不思議そうな表情をしたが、直ぐ近くの部屋に案内してくれた。


「ナナシ殿、何かあるのだろうか?」

「娘さんの病に関しては正直治せますが、対価としてあなたのこれからの人生を頂くことになりますがよろしいですか?」


 適当な事を言ったが対価を貰えずとも、娘さんの病については治すつもりだが。


「なぜ対価なのだ、教会では皆から対価を受け取っていなかったと思ったが」

「それは、あなたが罪人だからですよ、鬼人族の件とでもいえばいいですか?」


 子爵は驚いた表情を見せた。


「なぜそれを……」

「第2王子に命じられましたか?」

「どこまで知っているのだ……?」

「すべてをとでも伝えておきましょうか?」


 男爵の記憶から読み取った分しか知らないが、はったりを言ってみた。


「そうか、教会での件と言いそなたはネア様の使いか……」

 

  初めて使徒という単語じゃない言葉を聞いたきがした。


「そんなところです。」


 少し何かを考えているようだったがやがては意を決したように応えた。


「わかった、その神罰を受けよう、ただ必ず娘の命だけは助けてくれ。この身がどうなろうと娘だけは助けてほしい。」


 神罰か、そんな大層なものでもないんだけどな、ただ罪人には相応の罰をという自分の考えだし、とりあえず男爵の様にやらなくても済みそうだ。むしろ男爵の時も正面から行けたのかな?


「その決意確かに受け取りました。とりあえず家の者達全員をここに呼んでもらってもいいです?」

「わかった、ここで少し待ってもらってもよいだろうか?」

「えぇ、待っています。」


 子爵は部屋を後にし、しばらくすると大勢の夫人を含めて大勢の執事やメイドたちが来た。


 子爵の方から事情を説明してくれていたのか、何も言わずにチェックさせてくれた。数名結核に感染している者がいたが、すべての人達に全身の修復を施した。全員の修復後娘さんの身体の修復をした。


「これですべての人が終わりましたかね?」

「あぁ、覚悟は決まっている。さっさとやってくれ」


 子爵は死ぬ覚悟を見せている、さぁ首を斬れ!と行った感じだった。


「命は取りませんよ、せっかく娘さんが回復したので最期に一緒に過ごされてきたらどうですか?」

「良いのか?」

「えぇ構いませんよ」

「そうか感謝する。」


 それだけ言うと子爵は部屋を出て行った。


 子爵と会ってみての印象は貴族特有の暴慢といった感じは無かった。ちゃんと民を優先させ自分たちは最後に並んだりと娘が一番大事と考えている1人の父親と言った感じだった。このまま奴隷として生活させるのは正直かわいそうな気もするが、鬼人族の子どもを誘拐指示したのも事実だ自分は医師であって裁判官でもない、侯爵が言っていたように2人を侯爵家に連れていくかそういうのは慣れてる人に託すか。


 どれだけ経っただろうか、自分は部屋から出れるバルコニーで星をながめながら星空写真撮りたいなぁとか思いつつぼーっとしていたら背後から扉が開く音がした。


「すまない、待たせた。」

「いえいえ」

「それではやってくれ」

 

 そう言ってどかっと床に座り込んだ。


「それじゃあ失礼して」


 髪の毛1本貰い、神の手発動させ、子爵のダミーの肉体を作り上げた。


「これは……」

「それに寝るときの服を着せてもらっても?」

「あぁ……」


 子爵自身でいそいそと着替えさせた。そして自分がベッド上に運び寝かせた。


「第2王子とのやり取りの証拠ってあります?」

「ある、こっちだ」


 そう言って本棚から数枚の紙をもってきたので受取アイテムボックスに入れた。


「ありがとうございます。それじゃ手を借ります」


 そう伝えて、子爵の手首を掴み神の手を発動させ男爵の時と同様退化させ赤子にした。


「これからポーンタナ男爵と一緒にアヴェナラ侯爵の元に連れて行きます。」

「ダァダ」


 赤子化したせいか何言ってるのかわからない……


 元子爵の赤子にバスタオルを巻きしっかりと抱きかかえた。さてランベル奴隷商の所に行って男爵も回収していくか、バルコニーに出て縮地を使い子爵家を脱出し、奴隷商に向かった。

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