第42話 孤児院と2人の手配者
食堂と思しき所に通されると、多くの子どもたちが席についていた。そして子供たちの前には一切れのパンとスープのみがあった。
「ナット様、お皿を取ってきますのでしばらく待ってもらっても?」
「あぁ、どうぞ」
なんで様付けなんだろ?
見た感じ、赤ちゃんとよんでも差し支えの無い子もいる。上は12歳くらいかな?
日本が飽食と言われていたけど、ここまで来ると本当に違う場所に来たと実感する。
『この街の権限って侯爵がもってるか知ってる?』
『もってるでしょ、ここは彼の領地だし』
建物の無い周辺の土地があれば何かできるだろうに。
『この周辺の土地ってミアンの所みたいに薬草園つくれる?』
『ん?薬草園作の?出来るよ』
あとは侯爵との交渉とギルドに常設依頼枠に薬草採取系があるかどうかだ、多少なりでも収入が出来れば今よりはまっとうな食生活が送れるだろう。
時間が必要だし侯爵を送ったらもう一度ここに来よう。
シスターミランダがお皿を持ってきたので焼きモロコシを乗せ子どもたちに配っていった。
てっきり、サンディあたりが姿を見せるかと思ったが、冒険者カードを見せたから逃がしたか?
『ヒスイ、もしかしてサンディって』
『うん、さっきシスターが地下に行くように促してたよ。ナットが冒険者カードを見せたからかもね』
やっぱり、まぁいいや今回は子ども達の生活改善に力を注ぐとしよう。
シスターミランダに促され、席に着き子ども達と一緒に夕飯を食べた。
夕食後、鬼人族の子がヒスイを気に入ったのか話しかけている。その間シスターミランダと話をして子どもたち1人1人を診て健康状態チェックした。怪我をしている子がいればカットバンやら包帯を巻いて傷口が見えなくなったら神の手を使い怪我を完治させたり、骨折しちゃんと対応しなかったのだろう、変な状態で骨がくっついている子には正常な状態にしたりと様々な治療を施した。
「これで全員大丈夫ですかね?」
「そうですね子どもたちはこれで大丈夫です。ナット様もしよろしければ、もう1人怪我人を見ていただけますでしょうか?」
あれ、まだ怪我人いるのか?
「かまいませんよ、どちらです?」
「ついてきてもらってもよろしいですか?」
ん?ここにはいないのか?
シスターミランダの後について行くと、厨房の床板で隠された階段を降りて行った。
『地下に居るクリフトの所だね』
鬼人族の子と遊んでたと思ったが、ヒスイはいつの間にかいつもの肩の上に戻ってきていた。
『怪我してんの?』
『うん、左腕がぼっきり!右足がざっくり!』
骨折に裂傷か?
地下にある一室に着くとベッド上で横になっている男とそのベッドの傍らで看病している女性がいた。どちらもジャッスエイの冒険者ギルドの手配書で見た2人だった。
『クリフトとサンディで間違いない?』
『うん』
彼等がか、実際に見たらやっぱり殺人をするような人には見えない。
「院長先生なんで!」
看病していた女性がこっちを見て言った。
「ナット様もしよろしければそちらに居る子も診てもらえませんか?」
「いいですよ」
触れるついでに彼の記憶を覗いてみるか、ベッド上の男をみると寝ているのか近づいて腕を触れても何の反応もなかった。
神の手を発動させ記憶を覗くと、殺人を犯したときの記憶があった。
雨が降る薄暗い外での事、先ほどいた鬼人族の子どもを攫おうとしている7人の男たちと、サンディが視界の中にあった。鬼人族の子を守るため人攫いと戦い数人斬り殺していた。そして、記憶の最後には何者かが背後から襲い気を失うまでが解った。なぜこれで手配されるんだか、これで手配されるとか納得できない。
裁かれるべきは相手だろうに、なにか権力が動いているのだろうか?
人攫いの男たちの裏には、力のある人物がいたのだろうか?
とりあえず左腕と右足を治療した。彼らは突き出すべきではないと思った。
「これで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。」
シスターミランダは素直にお礼を言って来たが、サンディの方は感謝の気持ちもあるだろうが、冒険者である自分がここに居る事で訝しげな表情を見せていた。
「サンディさんですよね?」
自己紹介もしていないのに名前を出したからか彼女を直ぐに一歩引いて身構えた。
「えぇ、なんで私の名前を?やっぱり冒険者ギルドの……」
「そうですね、2人の事は手配書で見ていますが、正直鬼人族の子を守るためにやった事ですよね?」
「そうだけど、なんであなたがそれを知っているの?シスター?」
サンディはシスターミランダの方を見たが、シスターは首を振って返していた。
「ナット様には精霊様が付いています。もしかしたら精霊様のお力ではないでしょうか?」
「精霊……」
このままじゃ話が進まなさそうだと思った。
このまま2人を日の当たらない生活させるのはダメだと思った。
ならば、今思いついた事を実行できれば2人とも死んだことにできる。
「経緯はどうでもいいです。自分は2人を罰する気は無いです。」
「そう……」
「2人は今までの姿と名前を捨てる気はありませんか?」
「ぇ?それはどういう……」
「別人となって改めて生活を送る気はないですか?という意味です。彼が目を覚ましたら話し合ってください。」
シスターミランダとサンディは、何を言っているの?とでも言いたそうな表情を見せた。
「数日後また孤児院にきます。それまでに決めておいてください。シスター出口まで案内してもらっても?」
「わかりました。」
「ちょっと待って!別人ってどういうこと!」
口頭だけじゃそうなるか、実演して見せよう。ということで、2人の前でナットの姿から一瞬で秋津直人の姿になった。
「こういう事です。別人になれば冒険者ギルドから追われることもないでしょ?」
サンディとシスターミランダは絶句していた。ナットの姿にもどり絶句中のシスターに声をかけた。
「シスター?」
「失礼しました。案内しますね。」
「おねがいします。」
シスターミランダに出口まで案内してもらい孤児院を後にした。
気づけば辺りは真っ暗になっていた。宿に帰るか~
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