第34話 嫌な予感後編
嫌な予感がぬぐえない
『例外というのは?』
『まずはダンジョン内だね~ダンジョンコアの制御下だから、ダンジョン内の魔物同士が争わないようになってる。でもブラッディディアがいるようなダンジョンに、ゴブリンとオーク両方が居るのはあり得ないよ』
“まずは”と言ったか、WEB小説なんかであるスタンピードという言葉が頭をよぎる。
『もしかしてだけど、そのダンジョンから地上に出てきた場合、連携とったりする?』
『うん、地上に出てきてもダンジョンコアの制御下にあるはずだからね~』
ビンゴ!
『ヒスイ悪いんだけどさ、あっちの方向で何か起きてるか見てくれない、草原と森の境目あたり』
ブラッディディアが逃げてくる前に居た場所辺りを指さしてお願いした。
『ん~?いいよ~』
しばらくしてヒスイからの返事があったが。
『ん~あっちの方向にある、ラーネバンの街まで見たけど大きな異変はないかなぁ』
予想外の答えだった。気にしすぎか?
『ヒスイ、自分の記憶見れたよね?』
『そりゃ繋がってるからね』
『んじゃ、こいつの記憶を見せるから、感想を教えて』
ブラッディディアの死体に触れながら、神の手を発動させ先ほど見た記憶を再生すると。
『あっ、スタンピードの前兆!』
『やっぱりか』
『さっき大きな異変は無いって言ったけどさ、小さな異変はあちこちにあった。このあたりも含めて、ラーネバン近くに動物・魔物が全く居ない、ゴブリンたちが食糧調達をしている感じかな?ラーネバン北のダンジョンから溢れ出る!』
それは大きな異変だと思うんだが、大小の差は人それぞれだから突っ込まないでおこう。
『さっき、前兆って言ってたけど、猶予はどれくらいあるの?』
『ん~わからない1日もないと思うけど……』
ブラッディディアの死体を回収し急ぎ馬車に戻る。進むにしても戻るにしても決断を急がなきゃならないだろう。
『ヒスイ、馬車の位置を教えて!』
『うん!あっち!』
ヒスイの指さす方向に急ぎ走った。しばらくすると、森から平原に出てきた馬車を見つけた。急ぎ馬車に戻ると気づいたグアーラが。
「どうした?」
「馬車を止めて!ラーネバン北のダンジョンから魔物があふれるかも!」
「なんだと?メイドよ」
「っは、はい!」
街道沿いの開けたところ馬車を止め、グアーラが御者席から降りた。
異変に気付いた。侯爵夫妻が馬車から降りてきた。
「何があったんだね?」
「ナットからこの先ラーネバン北のダンジョンから魔物があふれるかもと」
「ほぉ、ラーネバンはまだ先だろ?なぜわかるのだ?」
どう説明するべきか?
「ナット、クライは信用できる奴だ、おまえさんの本当の正体を話してもいいと思うぞ」
「本当の正体?」
使徒だと明かせという意味だろう、たしかに自分もそれが信用を得るのに一番手っ取り早いとおもう、仕方ないか……
「侯爵様、自分は、使徒だと言ったら信じますか?」
「ぇ?」
そりゃ、驚くよね、何か信用させる何かを
「クライよ、夕べのミントの1件を思い出してみろ、」
「そう言えばそうですね……」
侯爵よりも、夫人のリーアの方が先に答えた。ここまで明かしたなら、神の手を隠す必要もないな。
「せっかくなので娘さんを連れてきてもらってもいいですか?使徒としての力を見せますよ。」
メイドさんに抱かれてミーナが連れてこられた。ぐったりしている。まだ、体力が戻っていないのだろう、隠す必要がないなら遠慮は無用、キャンプ用のベッド、コットを取り出し組み立てる。あっけにとられている4人をよそに。
「その上に寝かせてもらっていいですか?」
「はい」
ギシッっと言う音と共に、ミーナが寝かされる。おでこに手を当て神の手を発動させ状態を診る。見た目でもわかる栄養失調、脚気(かっけ)の兆候も見られるな。とりあえず、各種臓器や筋肉等すべて健康的な状態にさせる。
ガリガリだった少女が、健康的な少女に変化していった。グアーラに、アヴェナラ侯爵夫妻にメイド4人共驚きを隠せないようだった。
「これが自分の使徒としての力です。」
ミーナは、自力で起き上がり自分の手足を確認している。
「ありがとうございます!」
今まで声って聞いたことあったっけ?と思ってしまった。綺麗な声をしていた。
「もしや、ドライアドは居ないのか?」
グアーラが質問してきた。これだけの事をやったら、ヒスイがいなくても出来そうだよね。
「いますよ」
『しかたないなぁ~』
ヒスイはそれだけ言うと淡く光りだした。
「どうかな?これで私が見えるはずだけど~」
いつものテレパシーみたいな話し方じゃない、声として耳に届いてる。
「そいつがドライアドなのか?」
クライの問いに対して、不機嫌になるヒスイ。
「そいつか~無礼な人間ね、使徒とお前たちの関係はわかってるよね?ネア様の依頼でこの世界に来ている使徒、その大・親・友をそいつ呼ばわりってどうなの?お前の領土の植物がすべて枯れてしまえばいいのに」
ヒスイは、大親友という部分を強調している。
ヒスイが怒ってる。ヒスイの発言に対して、侯爵夫妻とメイドとグアーラまでもが土下座した。
「大変申し訳ございません。」
「次は気を付けなさいよ!」
クライの謝罪に対して、偉そうなヒスイ、なんだかなぁ……
「ヒスイ、本題からずれてる。」
「あぁそうだった」
ヒスイは、思い出したように我に返った。
「ヒスイが、ラーネバン北のダンジョンから魔物があふれる兆候があると言っていますが、進みます?引き返します?と聞きたかったんです。」
正座状態のまま上体を起こし、クライが続けた。
「グアーラ、どう思う?私は夜通し進みラーネバンの街で迎え撃つべきだと思うが」
「だが、間に合わなかった場合、最悪街の外で迎え撃つことになる可能性もでてくるが」
着く前に遭遇する可能性も0ではないのだろ。
「グアーラよ、ラーネバンの冒険者で対応できると思うか?」
「思わんな、城壁はあるが溢れる量によっては、ラーネバンは滅ぶだろう」
ラーネバンの冒険者とかじゃ対応できないのか?
「ラーネバンの冒険者で対応できない理由ってあるんですか?」
「あぁ、ラーネバンの冒険者は、ダンジョン攻略組と、新人冒険者しかいないんだよ、ラーネバンダンジョンの魔物は人型限定で稼ぎは良いんだが、攻略組は多くないからな、4~5人パーティが8~10組しかいないだろう。他は低ランクの依頼が多いから新人が多いんだ。」
ラーネバン防衛も前提に考えると進む以外に選択肢がなくなる?騎士団とかないのか?
「そうなんだ、騎士団とか兵士たちは?」
「居ても少ないだろう、停戦直後だからな、前線から各地に戻ってる途中だろう、街の防衛には最低限しかいないはずだ。」
最悪のタイミングだな……
「ラーネバンに救援に向かう選択肢しかないな、今夜は休憩なしだ、このままラーネバンまで駆け抜けるぞ!」
こうして、ラーネバンまでの強行が決まった。空からは大粒の雨が降り出した。
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