第33話 嫌な予感前編
翌朝、テントを出ると。天気はあまりよろしくない、分厚い雲が上を流れている。撤収準備をはじめ野営地を後にした。
野営地を出発し、しばらく走っていると昨日とは違い、すれ違う人が全く居ない事に気づいた。
昨日同様に馬車の周囲を走っているが、ラーネバン方面からジャッスエイに向かう人が本当に居ない。
御者席に居るグアーラに聞くために、並走しながら聞いてみた。
「グアーラさん、ラーネバン方面からの人が全く居ないですけど、よくあるんです?」
「いや、ありえないな、この通りは商隊が良く通るはずなんだが」
何らかの異変が起きているのだろう、日が頭上を越え少し傾き始めた頃、ヒスイが話しかけてきた。
『ナット、あっちの方にブラッディディアがいるよ~』
そういって、進行方向左側の森の中を指さすヒスイ、ディアって事は鹿の魔物だろうか?
『離れた場合、馬車が襲われる可能性は?』
『今の所はないね~今一番近くに居て、襲ってくる可能性のある魔物が、ブラッディディアだね』
なら大丈夫かな、ブラッディディアとやらを狩るか。
「グアーラさん、ちょっと離れたところにブラッディディアが居るみたいなんで討伐してきても?」
「構わんが、後でちゃんと合流しろよ」
グアーラの許可がでた、縮地を使って、急ぎ森の中にはいる。ヒスイの誘導で森の中を突き進んだ、すると突如視界が開け森から平原にでた。そしてその先に1頭のブラッディディアらしき魔物がいた。体高が2mあるであろう、大きな鹿だ、赤黒い角と赤い目が特徴的だな、足元の草を食べているようだった。近寄ろうと少し動いた瞬間、ブラッディディアがこっちを見たので動きを止める。
『あの子小さいね~子どもだね~彼らは動くものに対して攻撃的になるから気を付けてね~』
2mそこらで子どもなのか、ジーっとこちらを見ながらモグモグしているブラッディディア、再び地面の草を食べてる時に、移動開始するも、直ぐにこっちを見たので、動きを止める。だるまさんが転んだをやってる気分だ。
『おかしいなぁ、ブラッディディアって、この平原よりもう少し南のラーネバンの街の近くが生息地なんだけど、それに群れで行動する魔物なんだけどあの子は1頭だけだねぇはぐれかな?』
そんなことはどうでもいい、モグモグ終わっても視線を外してくれないので動けない。
『もうすぐ馬車が森を抜けてくるよ~早く片付けないとターゲットが馬車に変わるかも』
それはダメな奴だ、仕方ないさっさとやろう、そう思って動くと、ブラッディディアが、
「びぃぃぃぃぃ~っ」
耳鳴り?と思えるような鳴き声をあげた。
『あぁ~ばれちゃった。』
まぁもうばれてもいいけども、かつては母が使っていた槍をアイテムボックスからだし、縮地を使いつつブラッディディアに接近し、喉元へ突きを入れようとすると、ブラッディディアが頭を下げた。頭上からブラッディディアの角が降りてくる。
いったん後ろに回避したところに今度は突進をしてきた。すかさず横に回避すると。ブラッディディアの側面には無数の傷がある。
『この子手負いだね、この傷は武器で負った傷かなぁ?自然に付くような傷じゃないよねぇ』
確かによく見ると鋭利な刃もので斜めにはいった傷や槍の様なもので突き刺された傷もあった。
神刀に持ち替え再び突進の構えを見せたので、それに合わせて斬ろう。突進してきたブラッディディアに合わせて、右に回避しながら抜刀、断つのは命をイメージし斬る!
ブラッディディアが横を通過した直後、ドスンと大きな音が聞こえた。後ろを見ると、ブラッディディアが横たわっていた。
神の手を使って解体しようと思ったけど、その前にこの傷の原因が気になり、傷の原因となった記憶を探した。
記憶を見て見ると、夜明けの草原を角の有無関わらず数頭のブラッディディアの群れの中にいる場所から始まった。しばらくすると、森の奥から、緑色の小さな人型と、茶色い豚面の様々な武器を持った人型の魔物集団に襲われ、角の無い個体は逃げ、角のある個体たちが、人型の魔物の群れに立ち向かっていくシーンが見える。この個体もその群れに勇敢に立ち向かうも、仲間から逃げろと言われているようで、戦いたいのに群れの大人達に促され戦いの場から逃げ出し、自分と会ったあの場所に居た事が解った。自分と遭遇したときは逃げきれないならと諦め逃げずに攻撃を仕掛けてきた事が解った。
さてどうしたものか、なんか大きな問題に突っ込みそうな感じではある。緑色の小さな人型と、茶色い豚面の様々な武器を持った人型の魔物に関しては赤ちゃん時代のヒスイの世界ツアーの時に見ている。ゴブリンとオークだ……
『なぁヒスイ、緑色の小さな人型の魔物ってゴブリンとか言ってたよね?』
『だねぇ、そういやまだ直接見たことないよね~何かあった?』
『わからんけど、茶色い豚面はオークだったよね?』
『そうだよ?どうしたの?』
『その2種の魔物って連携とるの?』
『そんなわけない、彼らは縄張り争いする仲だよ』
彼の記憶と矛盾する、ブラッディディアの群れに襲い掛かってきた連中は明らかに連携していた。
『例外はないの?』
『無くはないかなぁ~けれど滅多に起きないよ』
非常に嫌な予感がする。
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