第29話 ばれた

 宿を出ると、月が真上近くにある。


「ちょうど約束の時間位だな、戻ろうか」


 アルフ達との集合場所に戻ってくると、アルフ達は、まだ来ていなかった。住宅を囲う柵に寄りかかりながら、アルフ達を待っていると。


「なぁナットよ、おまえさん使徒じゃないのか?」


 グアーラの的を得た発言にびっくりした。


「何でそう思うんです?」

「そうだな、一つ目は、お前さんの医術の腕と知識だ、この世界に生まれる前に、ここよりはるかに文化の進んだ世界で医術を身に着けたんじゃないのか?これまで使徒には2人と会っているが、彼らは皆、この世界よりもずっと発展した世界から来たと言っていたからな、ナットもそう言った世界で医術を学びこの世界に来たと考えるのがしっくりくるんだよ」

「そうですか、」

「二つ目だが、お前さんとドライアドの関係だな、小さいころから一緒と言ってたが、それは生まれた時からじゃないのか?そしてお前さんの側に居るのは大精霊だろ。じゃなければ、先のミントの成長の件が説明がつかないからな。」


 人前で、神の手発動させるものじゃないな、神の手というのはばれてないようが、ヒスイの存在がばれた。


「上位精霊とかの可能性は考えないんです?」

「ないな、ドライアドたちは基本植物の育成を助けるが、さっき見せたような一瞬で育成させるような力はない、大精霊は基本的にあり得ないって思える力をもっているからな」

『ばれたね~あの成長速度は私でもできないんだけどね~まぁ、彼も神に連なる者だし話しても大丈夫だよ。アルフ達が近くまで戻って来ているから、宿に戻ってからがいいと思うよ~』

「アルフさん達が近くまで戻ってきてるらしいので、続きは後で良いです?」

「大精霊の力か、了解」


 しばらくすると、アルフ達が戻ってきた。


「お、待たせちったかな、旦那ら、そっちは何かあったか?」

「いや、何もなかったな」


 アルフの問いに対してグアーラが答えたが、侯爵一家の件は話さないのか。


「そっか、俺らの方も何もなかった、話を聞くとここ2~3日は、何も起きてないらしいな、ギルドに戻るか」


 個人的には、娘さんが窓から飛び出して奇声を上げていたのが今回のクエストの発端な気がしている。


「あぁ、今回の報酬だが、俺らはいらんからお前さん達で分けてくれ」


 グアーラが突如報酬辞退の話をした。“俺ら“はと言った辺り自分も報酬辞退という事だろう、まぁお金に困ってないからいいけど。


「いいのか?ただ働きになっちまうぞ?」

「構わん、先に宿に戻らせてもらうぞ」

「あぁ旦那が構わないなら構わないが……」


 アルフが何か気にしている様子だった。


「ナット、宿に戻るぞ」

「ほいほい」


 アルフ達と別れ、宿の自分の部屋に戻ってきた。戻ってくるなり先の話の続きをしたいのか話しかけてきた。


「さて、続きを話してもらおうか、ナットは使徒なんだろう?」


 ヒスイから話しても大丈夫と言ってたし話すか。


「そうですよ、ネア様の加護をもっています。」

「やはりか、もう一つの加護は、武神か戦神だろ?」


 そこまで想像できるものなのかな?


「戦神ですね、何でそう思ったんです?」

「そうだな、以前会った2人も強かったが、おまえさんの強さは2人と比べても段違いだからな、その年齢で、居合と縮地両方使いこなすのは異常だ、前の世界で両方を極めていたなら納得できるが、そうではないなら、この世界に来てから身に着けたという事だろう、戦いの面でおまえさんは異常なんだよ。」


 阿修羅様の加護で、結構早くスキルが身に付くからな。


「はぁ、なるほど」

「それでだ、お前さんに聞きたい事がある。」


 これまでの話とは違う内容なのだろうか?

 グアーラの表情が真剣なものになった。


「おまえさんが居た世界で、人は空を飛べるのか?」


 空を飛ぶ、飛行機や気球でだろうか?


「えっと空を飛ぶ手段はありますが、空を飛びたいんですか?」

「あぁ、浮遊大陸に戻る手段が無くてな」


 浮遊大陸、そんなものが存在するのか、行ってみたいかも!


「浮遊大陸って大陸が空に浮かんでるって事ですかね?」

「そうだ、秋津の近くに浮遊大陸があるんだが、俺はそこに戻るための手段を探している。」


 戻るか、故郷か何かなんだろうか?


「えっと、人が生身で空を飛ぶ手段は無いです。」


 以前会った使徒からは何も聞いていないのだろうか?


「そうか……」


 ため息をつき、凄くがっかりした表情になった。


「生身で飛ぶ手段がないだけです。もしかしたら魔法があるので生身で飛べるようになるかもしれませんが」

「それはナットが居た世界では、魔法は無かったのか?」

「そんなものありませんよ、代わりに科学というものが発展してますけどね」


 医学もその一種になるだろう、自分は、高所恐怖症の為、空を飛ぶとか興味が無い。


「ほう、空を飛べる可能性があると?」

「えぇ、ありますよ」


 アイテムボックスから紙を出し、紙飛行機を作り飛ばした後、浮力・揚力・推進力について説明した。


「魔法でその3つを生み出せれば飛べると」


 魔法で何処まで出来るのかが不明だから確実な事は言えないけど空を飛べる可能性は大いにあり得ると思う。


「可能性ですけどね、風魔法をうまく使えばいつか飛べるんじゃないですか?」

「ふむ、いいヒントを貰った。」


 手っ取り早く空を飛ぶなら、気球が現実的なんだろうか?

 まぁ本人が生身で飛ぼうとしてるならそのままでいいか……


「この話はこれで終わりだ、明日の件だが、朝一で冒険者ギルドに行くぞ」

「冒険者ギルドが待ち合わせ場所なんです?」

「いや、アヴェナラまでの配達依頼なんかがあるか確認だな、護衛系の依頼を受けるときは必ず、他にも出来るクエストがあるかどうか確認するといい」

「なるほど、無駄なく活動するためですか」

「そうだ、明日の朝ギルドに向かい確認する。その後、侯爵が泊まっていた宿にいく。」

「わかりました。」

「よっし、寝るか、俺は部屋に戻るが早く寝ろよ」

「わかりました。」


 それを聞くと、グアーラが部屋から出て行った。


『ヒスイ、女の子の様子は大丈夫そう?』

『うん、普通に話出来てるみたいよ、ただまぁ瘦せ細っちゃってるから歩行とかに支障があるみたい』


 あ~そこは対応しておけばよかったかな、明日からしばらく一緒だし、その時対応するか、よっし今日はもう寝よう。そう思いベッドの上に飛び込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る