第21話 初クエスト

 冒険者ギルドのロビーまで戻ってくると、人がまばらだった。


「午前中の早い時間は、クエストを受ける冒険者であふれるが、この時間は少ないな、ナットついてこい」


 グアーラの後をついて行くと掲示板がいくつも並んでる場所で立ち止まった。

掲示板の上には、FやEといったランクが付いているのもあれば、なにもついてないのがある。


「ここに依頼票が出てる。上に何も書かれてない掲示板は、常設依頼だからな、だれでも受けれるぞ、上にランクが記載されていれば、そのランクの依頼ってわけだ」


 何か面白そうなクエストあるかな?


「少し見て回っても?」

「構わん、お前さんならCランク以下なら何でも受けれるからな、決まったら教えてくれ。」


 Fランクから見て回る。Fランクは、街中のお使いクエストが多いな、掃除や探し物等のクエストが中心だった。


 Eランクも大して変わらないな、街中の運搬クエストが多いかな?街の周りに生えている薬草採取と討伐でゴブリンやホーンラビットなど弱い魔物中心か?


 Dランクになると、ちょっと離れた場所採取と討伐か、ウルフにオーク、キラーバード等多分Eよりレベルの高い魔物なんだろうと予想がついた。


 Cランクになると、護衛依頼が、ちらほらあった。○○日出発目的地は〇〇〇とか、記載されている。報酬額書かれてても、所要日数とかが分からないと受けようがない気がする。そのあたりは経験を積めばいいだけかな?

 討伐には、ファイティングカウの討伐があった。ファイティングカウとか闘牛っぽいと思いつつ。昨日の子はこいつにやられたのかも? とか思った。

 傷口の状況から見て被害を受けてからそんなに時間が経ってなかった事を考え近場だろうと判断し、今日はこれを受けようと決めた。


 最後に常設枠を見ていると、薬草採取系が非常に多い

ヒール草・マナ草・レッドラベンダー・ブルーミントの採取に、急募、夢見亭調理サポート、なんてのもある。緊急性の高いアルバイト募集か!なんて思ってしまった。


『ブルーミントとかレッドラベンダーとかこの辺じゃ自生してないのに~』

『何か条件あるの?』

『もち!ブルー系は基本的に寒い所、レッド系はその逆だね、イエロー系は砂漠とか荒野に自生していることが多いよ』


 ふむ、その辺考え無いと駄目か、とりあえず今日は、ファイティングカウ討伐だけだな。


「グアーラさん」

「決まったか?」

「Cの所にあるファイティングカウ討伐で、お願いします。」


 グアーラが、Cランクの掲示板から、ファイティングカウ討伐の依頼票をはがしてきた。


「あぁ、決まったら、こうやって依頼票をはがして、あそこのカウンターに持っていくんだ」


 そういって指さしたのは、昨日リアさんが居た右隣の窓口だった。やっぱりあの時予想したように、受注用の窓口だったか。グアーラが、依頼票を自分に差し出してきたので、受け取った。


「もしかして、その隣が、仕事が終わった後に行く窓口で?」

「あぁ、そうだ、仕事が終わったら、依頼票と冒険者カードと採集物や討伐部位を提示すればいい、ちなみにその隣が解体の受付だな、自分で解体出来ないときは、あそこに持っていく、素材をどうするかも聞かれるから、どうするかあらかじめ決めておくといい」


 解体は、神の手使えば一瞬で終わるからな……縁のない窓口だろう……。


 とりあえず受注窓口に、依頼票を持っていき、窓口に居るお姉さんに声をかけた。

 

「すいません、これを受注したいんですが」


 窓口高くない?自分の身長とほぼほぼ変わらないんだけど……


「かしこまりました……、ぇ?」


 冒険者カードと自分を見比べている。5歳のCランク冒険者じゃ信じてもらえないってやつかな?


「大丈夫だ、そのカードは、そいつ本人のだ、後でリアかマスターに聞くといい」


 グアーラが、後ろからフォロー入れてくれた。


「畏まりました。受注確認しました。」


 窓口の人が何か事務作業をし、依頼票と冒険者カードを返してくれた。


「これで受注完了だ、休憩しなくて大丈夫か? このままいくか?」


 このままって言おうとしたとき、視界に依頼票が掲示された掲示板のある方とは反対側の壁の掲示板が気になって寄ってみた。そこには、1枚1枚に凶悪そうな人相が描かれている、その下には罪状と、報酬額が記載されてる。


「こいつらは、冒険者ギルドが手配している賞金首だ、殺人・人攫い等違法な事をするとこいつらのようになるからな、乗るようなことするなよ」

「しないですよ」


『一番左の眼帯の男、ファイティングカウの生息地の手前にある岩山の洞窟に潜んでるよ』


 ついでにやってこいってか?

 ヒスイの言う眼帯男のを見ると、隻眼グライ、罪状が、殺人、不法人身売買と書かれてる。報酬が大金貨5枚だそうだ。見つかれば討伐すればいいか。


「行きましょう。」

「わかった。南門から外にでるか」

「はい」


 冒険者ギルドを後にし、そのまま南門をくぐり、街の外にでた。


「現地までは、馬車を使ってもいいし、徒歩で行くのも構わない。目的地によっては、馬車なんてないが、今回は、ラッタン行きがあれば行けるが、ラッタン行きの馬車はないな、歩いて行くか」


 のんびり行くのも良いけどせっかくなら、ランニングとか兼ねて移動するのもありだよなと思った。


「トレーニングがてら走りません?」

「いいが、討伐前にへばるなよ?」

「大丈夫です。」

「子どもは元気があって良いな、では走ろうか」


 そう言って、走り始めた。とりあえずグアーラの速さに合わせよう。




 どれだけ走っただろうか?

 1時間位走った気がする。右手にはごつごつとした岩山が見え、左側と後ろを振り返っても、街は見えず、森が一面を覆っている。だいぶ高い所まで来たかな。


『右前方の岩場の影から眼帯男がこっちを見てるよ。』


 ここらか、ファイティングカウの生息地はまだ先か、


「ふぅ……こんなにぶっ通しで走ったのは久々だ、おまえよく息切れしないな……」


 追いついてきたグアーラが肩で息をしている。


『あ、逃げた!』


 む!グアーラが合流したからだろうか、とりあえず逃がすわけにはいかないので追いかけよう!


「グアーラ後で追いつて!」

「ん?おい!」


 何か言いたそうだけど後、ヒスイが言っていた岩場をめがけて縮地を使って追いかける。

岩場まで来たら、一旦止まり辺りを見回すと、石がゴロゴロした山肌を走っている男が居た。


 再度縮地を使い、神刀をアイテムボックスから取り出し抜刀、斬るのは意識のみ、そうイメージして男を斬りつけた。


 意識を刈られた男は走っていた勢いもあり。盛大に転んだ、そうだよなぁ……

 走っている最中に意識がなくなったらそうなるよなぁ……

 見た感じ、あちらこちら怪我しているし、首の曲がり方がおかしい気もするが……

 治した方がいいのだろうか? そんなことを思っていると。


「お前は元気だな……疲れないのかよ、って……こいつは?」

「手配書にあった人」


 すると、グアーラがうつ伏せに倒れている男の確認の為か、仰向けにした。


「隻眼グライか。良く分かったな、こいつは気配を隠すのが上手くてなかなか捕まらんやつだったが……」


 肩の上でヒスイがドヤ顔を決めている。


「まぁ視線を感じたので、追ってみたんですよ。」

「なるほどな、首を落とすか」


 そういうと、グアーラは、どこからともなく大きな鉈を取り出し、容赦なく首を落とした。


「アイテムボックスに入れるか?」

「いや良いです……」


 流石にそんなものをアイテムボックスに入れるのは抵抗がある……


「そうか、そしたら俺のボックスに入れておくか、さてファイティングカウのいる草原まではあと少しだ」

「ほい」


 しばらく歩くと、周囲がゴツゴツした岩場から草原へ姿を変えた。生えている草の背丈が高い、50㎝位はある気がする。


「ここら辺の草原がファイティングカウの生息地だな、奴らの肉は旨いぞ、引き締まっていてな、岩塩を塗しただけでも美味しく食える」


 それは美味しそうだ、早く討伐して昼食にしたいところ。


「この時間帯は水場の近くで寛いでるだろうな、いくつかの水場に寄ってみるか」

『ん~ここから近いのだと、右前方をずっと行くと水場があるんだけど、そこで3頭寝てるよ』


 探す前にヒスイが居場所を教えてくれた。右前方ね、角度が不明だが適当に右前方を指さすと。


『もうちょっと左』


 言われた通り修正する。


『そそ、その方角』


 ヒスイのOKがでた。そのままグアーラに尋ねた。


「あっちの方に、水辺ってあります?」

「ん、大きくはないがあるな、何かあるのか?」

「何となく気配を感じると言えばいいですかね?勘の様なものが」

「なるほどな、グライの件もあるし行ってみるか」


 草むらに侵入すると、草が邪魔すぎる。


『歩きやすくしようか?』

『頼む』

『いつも通り、魔素貰うよ~』

『はいよ』


 ヒスイが淡く光りだすと、目の前の草たちが、歩きやすいように左右に倒れ始めた。一歩進めば、一歩進んだ先の草が倒れる。


 グアーラは、50㎝の草を隔てて斜め前を歩いてるせいか、こちらの変化に気づいていない。快適に歩いている自分に対して、草が鬱陶しそうに歩いているグアーラ、結局こちらの変化に気づかないまま進んでいった。


 ファイティングカウを見つけた。十数m先に茶色い山がみえ、近寄ると、巨大な牛が寝ている。こいつって、猫耳娘の腹を貫いた奴…… 記憶を覗いたときにみた奴と同一人物ならぬ同一牛物?だ。


「寝ているな、音を立てずに狩れるか? あいつら同時に2頭以上相手するのは骨が折れるからな」


 対象から目を離さずに、小声で話しかけてきた。


「了解」


 神刀取り出し、命を刈るイメージをし、縮地!殺!縮地!殺!縮地!殺!サクッと終わらせ、グアーラの元に戻る。


「おまえ……もう終わったのか?」

「終わったはずです」

「一瞬じゃないか……冒険者よりは暗殺者の方が向いてるんじゃないか……?」


 人斬りは進んでやりたくないな……


「なりませんよ……」

「そうか、まぁ選択肢の一つだと思うが」


 そう言いながら、グアーラは、草むらから出て、1頭1頭生死を確認している。


「何をどうしたら、無傷で死ぬんだか、暖かいから先ほどまで生きていたのが分かるが……」


 あぁ、死因になるような傷位つけるべきだったか、今後は気を付けよう……


「全部、右耳を切り落として、アイテムボックスに入れておけ、ラッタンウルフが居る可能性があるから注意を怠るなよ、奴らは死臭に敏感だからな」

『ラッタンウルフは、近くには居ないかな~警戒しなくても大丈夫だよ』


 本当に、ヒスイの索敵が素晴らしい!

 討伐部位らしい右耳を切り落とし、アイテムボックスに3頭収納して、その場を撤退し草原手前まで戻ってきた。


「一瞬だったな……あそこまであっさり終わるとは思っていなかった。」

「まぁ何事もなく終わってよかったじゃないですか」

「そりゃそうだが、この分なら夕暮れ前に街に戻れるな」


 やり取りをしていると、“グゥ~”自分のお腹が鳴った。


「そりゃそうだな、おまえさん、朝食も食べてないだろ?」


 そういや、今日は起きてから何も口にしてないな……

 地球から持ち込んでるって事なら、アイテムボックスの中に、燻製肉やらご飯等、様々な食料品が入ってるはずだが……

 タッパーとかこの世界にないものを人前で出すのも躊躇う。


「そうですね」

「こいつでも齧っておけ」


 そう言って渡されたのは乾燥した肉? ビーフジャーキーみたいな見た目だ。


「オークの干し肉だ、何もないよりはマシだろう」

「ありがとうございます。」


 硬い肉だ……ビーフジャーキーも硬いけど、ここまでじゃない気がするんだけどな……

 帰りはのんびりジャッスエイまで徒歩で戻った。




 ようやく街が見えてきた。


「ふぅ、帰ってきたな」

「ラッタン方面は、人通り少ないんですかね?」


 往復で、馬車数台しか見かけず、自分らの様な冒険者とは多く出会ったが、大きな街道とは思えない状態だった。


「少ないな、ラッタンしかないからな、それに、ジャッスエイからラッタンいくなら、街道を北に抜けて鉱山都市ティファがあってな、ティファの地下道を抜けさらに北に行くと王都に続くんだが、その途中を右にいけばすぐだからな、そっちの方が安全だ、この道は、元々ティファの地下道が無かったころに使われていたんだよ、今じゃ、冒険者と大規模な商隊しかつかわんな」


 ティファの地下道か、どんなものなんだろうか、日本の観光地とかであった鉱山跡みたいなトンネルなんだろうか? 王都に行くときはそっちに行きたいな。


 街中に戻ってきたので、そのまま冒険者ギルドに報告にいく。依頼終了窓口に依頼票と冒険者カードと討伐部位を提出した。


「はい、クエスト完了を確認しました。こちらが報酬になります。」


 冒険者カードと一緒に、金貨3枚が差し出された。金貨3枚を受け取りグアーラの下に戻ると。


「初クエストお疲れさん、解体は依頼しなくていいのか?」

「大丈夫です。それよりお腹すきました。どこかで夕飯を食べましょう!おごりますよ!」

「クック、気持ちだけありがたく受け取るとしようか、その前に、手配書の件を済ませてしまおうか、まず、掲示板から手配書を取るんだ、そして、一番左の窓口にもっていく」


 一番左の窓口に持っていくと、近くにリアが居た。


「おや、2人ともどうしました?」

「あぁ、ナットがこいつをひっとらえたんでな、持ってきた。」


 グアーラが、リアの前に、手配書を差し出した。


「隻眼グライですか?」

「あぁ、首を持ってきてるがどうする?」

「そうですね、ついてきてください。」


 そう言って案内されたのは、ギルドマスターの部屋だった。リアを先頭に部屋に入ると。


「ん?どうした?」

「ナットがグライを捕らえたんでな、その検分をな」

「首か?」

「あぁ」

「そうか、ちょっとまっとけ」


 そう言ってギルバードが棚から、トレイの様なものを持ってきた。


「出してくれ」

「ほれ」


 グアーラがグライの首を出しトレイに乗せる。


「どうだ?」


 ギルバードが、リアに尋ねた。


「間違いありません、隻眼のグライです。」

「そうか、良く見つけたな……街の近くに居るのは分かっていたが、なかなか捕まえられなかったんだが、リア」

「はい畏まりました」


 リアが、首に手をかざすと、首が氷漬けになった。そんなことしてどうするんだろうか?


「これが報酬だ、ナットお前はすごいな、冒険者初日で大金貨5枚とか、明日も期待してるぜ」

「それじゃあ、ナット改めて夕飯食べに行くか」

「はい」


 ギルドマスターの部屋を後にした。ロビーまで降りてくると、グアーラが口を開いた。


「宿は決まってるのか?」

「いえ、決まってませんね」

「ふむ、それなら、夢見亭にいくか、宿も兼ねてるからな、飯は旨いぞ」


 あれ?夢見亭って、調理サポート急募って常設依頼が……

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