【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明

プロローグ

第1話 プロローグ

「ごめんなさい…… 本当にごめんなさい」

「すいません」


 気づけば周りは、真っ白な空間にいた。


 そこには、白髪で白い獣耳の女の子が土下座し、その横で、黒のポニテの女性が深々と頭を下げていた。


 ん?


◇◇◇◇◇◇


想い出


 自分の名前は秋津直人。救急センターや脳外科で、医師をしていた。


 今から50年前、当時35歳の時、彼女である茜君を交通事故で失った。その日の夜、家に帰ると玄関前に、小さな真っ白な子犬?がいた。


 子犬が帰って来た自分に気づくと、よちよち感もまだ残るような足取りで自分の方に寄ってきた。


「ク~ン……」


 とても悲しそうに鳴く子犬、子犬を見ていると、彼女を失って絶望のどん底に居る自分でも、保護してやらなきゃという気持ちに駆り立てられる。


 それと同時に、彼女が亡くなった。その日に生まれたてのような子犬と会ったことに、なにか運命的なものを感じた。


 もしや、彼女の生まれ変わりなのだろうか?と、とりあえず子犬を抱き上げ、家の中に入った。


 子犬は、自分の言う事をはっきりと理解しているような素振りを見せ、しつけがいらない状態だった。


 名前は、どうするかな?

 真っ白だから、ユキとかシロだろうか?彼女がいたら、“もうちょっと可愛い名前をつけろ!”と言いそうだと思った。


 良い名前が、ぱっと思いつかない、しっくりくるのが思いつくまで、ちび助で良いかと思った。


 それからというもの、懐に子犬を入れて、色々なところツーリングに行ったり、キャンプに行ったりとするようになった。


 一方仕事は、彼女との想い出が残る救命救急に居るのはつらく、脳外科へ異動を希望した。


 不思議なことに、外科へ移動してからは、手術に立つたびに、彼女が、後ろから抱き着いてきたときのような安心感と同時に、感覚的なものが鋭くなってくる。


 その状態で、手術をすると、不思議と直感的に最善の一手が分る。


 自分の中では、亡き彼女が力を貸してくれてるんだろう、と思うことがあった。


 その結果、どんなに絶望的な確率の手術でも、高確率で後遺症が残ると言われる手術でも最高の結果で、手術を終えるようになった。


 患者や患者の家族達からは、『神様』と呼ばれるようになった。


 やがては、他では治らなかったから、自分に治してほしいと、全国からだけではなく、海外からも患者が来るようになった。


 そして、時々夢の中で、今にも消えそうな少女の声で「ごめんなさい…… 本当にごめんなさい」という謝罪の声だけの夢を度々見ることがあった。



◇◇◇◇◇◇


 今日は、茜君が亡くなってから、ちょうど50年目の命日であり、ちび助と会って50年だった。自分も85歳か、ずいぶん長い月日が流れた。


「ふぅ~、もう茜君が亡くなって50年か、短いようで長かった。」


 定年退職し、買った山のプライベートキャンプ場での夜、満天の星空の下で、ちび助を見ながら言った。


「おまえは、出会った時から一向に大きくならないな、ずっと子犬のままじゃないか」

「ク~ン」


 こいつは本当に、大きくならない、出会ってもう50年たつのに、永遠の子犬のままだ、おかげで、ずっと保護欲が湧く、いつからか本当の娘のように接している。


 何度か調べたがそんな犬は存在しない、ちび助の正体はなんなのだろうなと思っていた。


 それでも、こいつが居なかったら、彼女を失って失意のどん底にいた自分は、ちび助が居なければ、仕事復帰まで時間を要しただろう、ちび助には感謝しても感謝しきれない。悪魔だろうが何だろうが、自分の最期の時まで面倒をみると決めていた。


「さて、そろそろ頃合いか? ちび助、ご飯にしようか、お前の好きな燻製肉のカレーだ」

「キャンキャン!」


 こいつは本当にカレーが好きだな、具無だろうが何だろうが、カレーであればものすごく喜ぶ、カレーの次に好きなのが燻製肉だ、カレーと燻製肉のセットの時は本当に飛び跳ねる。


 皿に、カレーライスをよそい、その横に燻製肉のスライスをトッピングして地面に置いてやると、凄い勢いで食べている。


 ちび助の口の周りがなぁ、そんなことを思いながら自分の分を食べていると、急に目の前が暗くなった。


◇◇◇◇◇◇


 真っ白な空間


「ごめんなさい…… 本当にごめんなさい」

「すいません」


 気づけば周りは真っ白な世界に、白髪で、白い獣耳の子供?が土下座し、その横で、黒のポニテの女性が深々と頭を下げている。


 ん?と思っていると、ポニテの女性が、頭をあげた。


「急に、ごめんなさい、順を追って説明しますね。私の名前は、ネアと申します。創造神をやっています。実は……」


 その後、茜君が、土下座をしている女の子がきっかけで交通事故に遭ったこと、そして、ネアと名乗る創造神が創る世界に転移していることを聞いた。


 なんだろう職場の人に勧められ、暇つぶしに読んでいた。Web小説に酷似している気がする。この先の展開を期待せずにはいられなかった。


「もしかして、自分もそちらに行くことが?」


 すると、創造様が、少し申し訳なさそうに頭を下げた。


「はい、案内するのが遅くなり大変申し訳ございません。」


 彼女ともう一度会えることがとても嬉しかった。それと同時に土下座をしている女の子の雰囲気が、ちび助と酷似していることが気になった。


「一つ質問していいだろうか?」

「はい、なんなりと」


 自分は、土下座をしている女の子を見ながらネアに聞いた。


「この子は、もしかしてちび助?」


 自分が、ネアに聞いた瞬間、女の子がびくっとした後、フルフル震えはじめた。


「はい、あなたが、ちび助と呼んでいた。子狼ですよ」


 やっぱりかと思ったと同時に、子狼?とも思ったと同時に、女の子を思いっきり抱きしめていた。


「今まで本当にありがとう、君のおかげでずいぶん救われたよ」


 女の子を抱きしめたとき、彼女は泣いていて、涙でビショビショだった。ずっと声を殺して泣いていたのだろうか?


「ごめんなさい……、本当にごめんなさい……、あなたから、茜ちゃんを奪ってしまったこと本当にごめんなさい……」


 なんだろう、きっと償いの気持ちで、自分の所に来てくれたのだろう。


 そして彼女自身、茜君を事故に遭わせてしまった事をひどく悔いている事が痛いほど伝わってきた。


 サバサバした性格の茜君の事だから、“起っちゃったことは仕方ない”と考えて直ぐ許しそうだなとか思った。


 茜君は基本的に過去の事は、あまりこだわらないタイプの女性だったなとか思った。


「自分と、こうして会っているということは、既に茜君にも会って謝罪したんじゃないかな?」

「はい……」


 自分は、泣いている彼女の顔を見た。


「茜君は君を許したんじゃないかな?だったら自分も許すよ。」

「ありがどうございまず……」

「そのうえで、今まで自分の側に居てくれてありがとう。本当に君に救われた。」

「わだじには、それしか……」


 気づけば、自分も泣いてるのに気づいた。


「それでもだよ、もし君さえ良ければなんだけど、今度は、茜君の側に居てやってくれないだろうか?」

「ぇ?」


 女の子は、泣き止み、真っすぐと自分の方を見た。


「今まで自分を支えてくれていたように、今度は茜君の側に居てもらうことはできるかな?」


 多分だが、茜君の事だから、どんな世界に転移しても、何とかなっているだろうと思っているけど、旅は道連れ世は情けって言うしね。


 女の子はネアのほうを向くと、ネアが1度頷いた。


 どうやら、OKが出たようだ、よっしこれで心置きなくお願いすることができる。


「んじゃ、ちび助茜君を頼んだよ!」

「私、ちび助じゃない、メグって名前がある……」


 もう女の子は泣いてはいなかった。まぁ、涙でビショビショだが。


「メグちゃんか可愛い名前だね、よろしく頼むよ」


 メグちゃんが、力強くうなずいた。それを確認して自分はネアの方を向いた。


「もし可能ならだが、茜君が転移した年から30年前に転生させてほしい」


 ネアは、頭に“?”が浮いたような表情をしていた。


 どうせなら好きな子には、かっこつけたいし! 

 だから、胸を張れる何かを成し遂げてから会いたい!

 50年会えなかったんだ、+30年なんざ誤差だ、居合や合気道などの経験が活かせるなら、それこそ最強と呼ばれる称号を目指すのもありだな!そんなことを考えていると、そういえばこの先どんな世界なのか聞いていないな……、web小説基準で考えていた。


「ところで、どんな世界なんですか?」

「剣と魔法の世界です。君の知識を基にするなら、中世位の文明といったところでしょうか? ちなみに魔法はありますが、治癒や回復魔法がないので、君の知識と技術は大いに役立ちますね」


 ん、治癒魔法って、剣と魔法のファンタジー世界には定番じゃないのか、そうなると、医療が発達しているのか?


「医療レベルは、結構あったりするんですか?」

「いいえ、最も進んでいるところで、12~13世紀位でしょうか、まだまだですね」


 12~13世紀か、色々と発展していく頃だけど各臓器の働きについてはどうだったんだろうか?とりあえず、いろいろ間違った知識も混ざっているレベルと思っておいた方が良さそうだな、薬もあまり期待できないかな?


「薬とかは、薬草が主体ですよね?」

「そうですね、あなたの予想通り、薬草が主体ですが、複数の薬草をかけ合わせる事で、様々な病気に対応できる薬は出来ますよ」


 ほぉ、伝説のエリクサーとかも出来るのかな?


「もちろんです」


 この時気づいた、この創造神様は人の心を読んでいる!


「それ位は、できますよ」


 医者はもういいかな、何かを極める方向で行こう


「転生を承諾すると認識でよろしいですか?」

「お願いします」


 創造神様は、一度頷いて、笑顔で、


「それでは、いくつか質問しますね」

「はい」

「信仰とまでいかなくても、好きな神様は居ますか?」

「ん、神様というか仏様だった気がするけど、阿修羅様ですね」


 いつからか覚えてないけど、像を見てから力強さが気に入り、キャンプ時に薪を削って阿修羅像を作って時間をつぶすようになっていた。


「わかりました。それでは、阿修羅様お願いします」


 一度頷くと、横に白髪の茶褐色の肌で、イケメンの3面の顔と、左右各3本の腕を持つ人?が出てきた。


「驚くな人間、迷いもなく俺の名をあげてくれたことに感謝するぜ、それに、お前の彫った像を見せてもらったがなかなかいい出来じゃねえか!」


 イケメンなのに渋いおじさんの声だった。なんというか、迫力がある。


「え、あぁ」


 情けない反応をしたと我ながら思った。


「ックックック、おまえさん戦いの術にも結構精通しているな、俺の加護を大いに役立ててくれそうだな!頑張ってくれよ、俺もお前の様子を見させてもらうぜ!」


 そりゃ、独身だったし、有り余る余暇時間は、多くの趣味の時間に当ててきましたからね……、日本の武術は一通りやってみたし。


 すると、イケメンの神様は、右腕の1本を自分の額に当て、目を閉じ何かぼそぼそっと言うと、強い光が自分を纏った。


「これで完了だ。頑張れよ人間!」


 それだけ言うとイケメン神様が姿を消した。自分の変化が全く持ってわからないのだが……


「ふふふ、ステータスと念じてみてください」


 この創造神様また人の心を読んだか、とりあえず言われた通りに、ステータスと念じてみた。


―――――――――――――――――――――――――――――――


秋津 直人  人族  0歳


異界の神の加護

創造神ネアの加護


スキル

神の手・絶対健康・鑑定・アイテムボックス・言語理解・

サバイバル・木工・革細工・彫金・錬金・調理・刀術・体術


適正武器

全種


適正属性

全属性


―――――――――――――――――――――――――――――――



 目の前に現れた画面をみて思った。鑑定がある。そして神の加護があると問題ごとになるのではと……、挙句に神の手って……


「そうですね~、使徒と呼ばれると思いますよ、神の手は、対象は限定的ですけど、私と同じことができますよ」


 ドヤって感じで言われた。ただ、創造神と同等の事が出来ると言うのが凄く気になるが、とりあえずは、目立つって事かな、その手のweb小説読んでいて思ったのは、あまり良いイメージがない、力を利用されたりとかそんなイメージしかない。


「いくつか変えてもらうことは可能です?」

「いいですよ、変更ができるのは今だけですからね、まぁでも君の場合はそんなことないか」


 ん?なにか気になる発言だが……?


「なんか気になるが、そうですね、鑑定要らないので、鑑定を誤魔化せる鑑定偽装をお願いします。」

「いいですよ~他にも何かありますか?」


 ん~適正属性がなぁ……


「適正属性って、火とか水とかそういうのですかね?」

「そうですよ、すべての魔法が使えますよ」

「その全属性要らないので、熱の与奪操作と、水分の与奪操作と、大気の成分操作をお願いします。」

「ん~?全属性の方がお得じゃないですか?その内容は、医療絡みですかね?」


 まぁ医療というのもあるが、それよりも趣味の面が……、ふと、薬草を考えるなら、土魔法は覚えておいた方がいいのかな?とか思った。


「土魔法追加ですね、適正属性減らした分を何か他の事にしますか?」


他の事か、人としての限界突破とか成長しやすくとか?


「ん~君には、あまり必要なさそうですが、いいですよ、こんな感じで良いですか?」


 改めて、目の前のステータスを見ると


―――――――――――――――――――――――――――――――


秋津 直人  人族  0歳


異界の神の加護

創造神ネアの加護


スキル

神の手・絶対健康・鑑定妨害・アイテムボックス・言語理解・限界突破・

成長速度上昇・サバイバル・木工・革細工・彫金・錬金・調理・刀術・

体術


適正武器

全種


適正属性

熱、水分、大気、土


―――――――――――――――――――――――――――――――


 これで大丈夫だろうか?最後に気になるのは、神の手これだけだな……


「まぁ大丈夫です。」

「旅の相棒にどんな子が欲しいですか?」

「旅の相棒?」

「えぇ、茜ちゃんには、メグちゃんが付くけど、君にも何かね」


 あぁ、なるほど、そういう事か、どんなのが良いだろうか……


「お任せでもいいです? ぱっと思いつかないんですけど」

「いいですよ~、何か考えておきますね」

「それでは、最後に、こちらをお持ちください」


 そう言って手渡されたのは、立派な黒塗りの鞘に納められた刀だ、創造神様から、その刀を受け取った。


「これは?」

「私が友の為に拵えた刀です。その友から、君へと、その刀身は実体無き刃です。すべての物が切れると言っていいものです。その逆もしかり!例外があるとすれば、君と茜ちゃんの縁と、その鞘だけは斬れませんけどね、きっと君の役にたちますよ。それから君が持っていた物ですが、アイテムボックスに入っています。ですが、山などの土地に関してはごめんなさい、それだけは持ち込めないので、これから行く世界の通貨になっています。少し多めに入れておきました。」


 その友とやらは誰だ?刀を自分に託すような知り合いなんて居ないはずなんだが、そもそも縁が切れるものなのか?と疑問がわいたがとりあえずは、お礼を言った。


「ありがとうございます。」

「それでは転生しますが、心の準備は大丈夫ですか?」

「はい、お願いします」


 創造神様は、手を振って、メグちゃんは、深々と頭を下げていたのを目にした瞬間、


「ふふふ、本当に瓜二つ、よく似ている。」


 そんな声が聞こえ、意識が暗転した。


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