第三百十話 本気の一撃


「ルイン君、これからどうしますか?」

「できれば、単独で行動している魔物を見つけてほしいんですけど……頼めますかね?」

「もちろんです。今から案内しますのでついてきてください。……スマッシュさんはどうします?」


 寝転んでいるスマッシュさんに、ディオンさんは意地悪そうな顔でそう尋ねた。

 

「あっしは当分動けないでさぁ! この姿を見て、分からないんですかい?」

「もちろん分かってますよ。ただ、ここに魔物が来たら、逆に危ないんじゃないかと思いまして」

「…………そうでさぁ! ディオン! ルインの洞窟まで運んでくだせぇ」

「しょうがないですね。ツケですよ」

「何がツケですかい! ディオンの代わりにあっしが怪我したんですぜ!」


 色々と言い合ってはいるが、本当に仲が良いのが伝わってくる。

 俺は笑顔でその様子を見守り、ディオンさんと一緒にスマッシュさんを魔力溜まりの中へと連れて行った。


「いやぁ、本当に手がかかりますね。それじゃ行きましょうか」

「はい。お願いします!」


 ディオンさん先導の元、俺は一度拠点にしていた魔力溜まりの洞窟を離れ、魔物を討伐しに向かった。



 拠点を離れて約一時間。

 ワイバーンには最大限の注意をしつつ、一匹だけはぐれている魔物を探していると――ディオンさんがハンドサインで止まれの合図を出してきた。


「何か見つけましたか?」

「はい。この道の向こうの林にスカルナイトがいます。一匹だけのようですがどうしますか?」


 スカルナイトか。

 アンデッド系統の魔物で、二十九階層で戦った仮面の女王やミイラと同じ系統の魔物。


 確か、ランダウストのダンジョンでは、三十階層以降に出現する魔物だったはず。

 トビアスさんから聞いたのだが、ダンジョンのスカルナイトは強さが一定だが、ダンジョン外のスカルナイトは冒険者が魔物化した場合が多く、強さが一定じゃないらしい。


 身に着けている装備で、そのスカルナイトのおおよそ強さが分かるみたいなのだが……。

 流石に道の向こうの、更に林の中となると目視することができない。

 アンデッドはただでさえ戦い難いこともあり、かなり迷ったのだけど――。


「戦います。周囲の警戒をお願いしてもよろしいですか?」

「ええ、もちろんです。ピンチになったら逃走の手筈は整えておきますので、すぐに声を上げてください」

「分かりました。本当に心強いです!」


 ディオンさんは俺を颯爽と助けることのできる強さを持っている訳ではないが、逃がすことは容易にできる力の持ち主。

 これを“強さ”と呼べるのかは分からないけど、俺はアーメッドさん並みの心強さを感じた。


 俺の背後へと回ったディオンさんに合図を出してから、俺は道の向かいの林を目指して歩みを進める。

 ディオンさんが索敵してくれたため心配はないとは思うが、油断が一番危険なため、最大限の注意を払いながら林の中へと入って行った。


 林の中は木で日差しが塞がれているため暗く、見通しも非常に悪い。

 スカルナイトが出す、骨の音だけを頼りに林の中を進んで行くと……数十メートル先に本当にスカルナイトがいた。


 ひとまず木に隠れてやり過ごし、身に着けている装備を確認する。

 鎧が玉鋼の鎧で、盾が魔法を帯びている魔法の盾。

 剣は漆黒の……素材は分からないけど、とにかく凄そうな剣だ。


 確実に俺よりも良い装備をつけていて、元が名のある冒険者だったことが伺える。

 考えてみれば、『竜の谷』にいるスカルナイトだ。

 ワイバーンを倒してやろうという気概の冒険者しかいないはず。


 …………………………。

 ふー。


 一瞬、気持ちが逃げかけたが、自分を強く鼓舞して思い直した。

 一体のスカルナイトでビビっていたら、到底魔王の領土になんて辿りつくことは不可能。


 あのスカルナイト相手に、力試しを行ってやる気持ちで俺は一歩一歩近づいていく。

 ヘマしてもディオンさんがいる。

 そう思うと、体が大分楽になったのを感じた。


 近づく俺の存在に気が付いたスカルナイトは、すぐに剣と盾を構えた。

 やはりと言うべきか、その構え方は一切の隙がなく、強者の人間と相対している感覚。


 魔物となってどれほどの能力が引き継がれるのか分からないけど、武器や防具だけでなく、能力自体も引き継がれているのだとしたらかなり危険だ。

 スマッシュさんと戦った時のような力を加減して戦うのではなく、最初から全力で倒しにかかる。


 じりじりと距離を詰め合っていき、いつ攻撃を仕掛けても仕掛けられてもおかしくない位置まで近づいた。

 防御重視なのか、スカルナイトは盾を持っている左半身を前に出し、剣を持つ右半身は引いた状態となっている。


 攻撃へ移行する際は、右半身を前に出さなければ剣が出てこないため、突きだけに警戒していれば怖い攻撃はない。

 逆を言うと、こちらの攻撃を盾で弾かれてしまえば、無防備な状態で打ち込まれることになる。

 俺の方がかなりの賭けをすることになるが……この一週間でつけた俺の力を信じ、全力で打ち込みにかかった。


 【パワースラッシュ】のようなスキルはない、ただの力任せの袈裟斬り。

 溜めた力を全て解放させるように放ったその一撃は……空を斬り裂き、音を置き去りにし、そして――。


 スカルナイトの鎧ごと斬り裂いて、刹那の間にその純白に光る骨の体を両断したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る