第176話 飯

あれから東に進み続けているが、特にこれといった事はなかった。

「腹が減ったな。」

(宿場町で休息でも取りますか?)

「宿場町の飯ってうまい?」

商人も食べるぐらいだから不味くはないと思うけど。

(味覚は人それぞれですから何とも言えません。ただ金額によって食事の質は大きく変わります。)

「世の中、やっぱ金か。つくづく救いがない。」

(だから宗教が存在するのでしょう。)

モルテ教みたいのとかね。俺的には金を信仰する宗教があってもいいと思うけどな、絶対に信徒になる。

「そういや、アレクたちはもう迎えに来たのか?」

(まだみたいです。マルスが学園に残っているのを確認済みです。)

「マルスも可哀想だよなぁ。あいつ友達いないんだろ?」

(もはや兄に対する敬意が感じられませんが、概ねそのとおりです。)

「概ね、ってどういうことだ?」

(マルスに話しかける生徒もいるのですが、同じクラスの伯爵家の生徒が手を回して二度と話しかけないようにしています。彼よりも階級が高い生徒もクラスに居るには居るのですが、見てみぬふりをしてますね。)

彼、…男か。それにしても哀れすぎるな、もうイジメじゃねえか。エルバドスって家が浮いてるのが原因だろうか。

「可哀想に。俺じゃなくて本当に良かった。」

(アレナの願いは残念ながら達されませんでしたね。)

「俺が達してるからいいじゃないか。」

(では認めるのですね?、フレイ達が友達ということは。)

「ああ〜、やっぱり無しで。あれはただの知り合い。友達じゃない。」

(アレナが泣きますよ。)

「知らね。」

(ハァ…。まあ、こういうのは巡り合わせですからね。人の力ではどうしようもありません。)

「同感だ。」

親ガチャとかその最たる例だろ。そもそも生まれてくること自体が自分ではどうしようもないからな。

(…ところで話が急に変わって申し訳ないですが、速報です。)

「戦争系はやめてほしいね。俺の生活に諸に影響がでる。」

(戦争にまつわる話ではありません。二日前の深夜未明、マーテル公国の都市がモンスターに襲われて壊滅しました。)

ヒュウ~、反対方向でよかった。マーテル公国は災難だな。

「それは単独のモンスターか?」

(現場に残された痕跡や生き残った者の証言によると、どうやら複数のようですね。)

複数で良かった。単独だったらその脅威度は大幅に跳ね上がるからな。

「じゃあモンスタースタンピードが起こったってことか?」

(それが不可解なんです。本来、人を襲うことのない魔物が含まれていたとの証言が挙がっているんですよ。)

「…たまたまじゃないか? モンスタースタンピードだったら紛れていてもおかしくないだろ?」

俺はそう信じたい。そうであってほしい。

(いいえ、魔物は人の気配がするとその場から離れます。モンスタースタンピード時も同様です。まして城壁のある都市へ突き進むことは考えにくいです。)

「…人為的ってことか?」

(その可能性が最もつじつまが合います。)

人工知能にそんなこと言われたら、それが正しいとしか思えなくなってくる。

「モンスターを誘導するとか可能なのか?」

(魔法で追い立てれば可能ですが、付近にそのような痕跡は確認できませんでした。しかし、古代の魔法具を使えば可能かもしれません。彼らは恣意的にモンスターの数を調整していたようですから。)

「凄いな、そんなこともできるやつがあるのか。…そりゃ組織とやらが狙うわけだ。うまく使えば大陸の覇権すら握れるかもしれないんだからな。」

俺も裏から操れるなら覇権はほしい。こう、何というかロマンがあるよな。

(そうですね。しかしそんな魔道具をすんなり見つけられるはずがありません。そうだとするならば、考えられるのはあの帝都の宝物庫の襲撃しかありません。)

「!?、…そう繋がってくるのか…………、じゃあ首謀者は第3皇子たちか?」

まさかの帝位争いですか、そうですか、そうですか、…うん、俺の知ったことじゃない。

(私はそのように結論付けました。)

「確かに言われてみれば笛みたいなやつを投げ込んでいた奴がいたな…。」

(はい。おそらくそれで誘導したのでしょう。)

「ほんとぶっ飛んだ奴らだな。絶対、関わりたくない。」

モンスターを誘導するとか禁忌だろ? 俺ですら知ってるわ。ギルドが知ったら帝国の存亡の危機になりそうだな。

(以上が報告です。)

「…はぁ、ご苦労。とりあえず昼飯だ。次に宿場町があったらそこに寄ろう。」

(了解。)


それからしばらくセキトバを走らせて最寄りの宿場町に滞在する。

正直、宿場町では泊まりたくない。町全体が外壁で囲われてないから不安になる。それに武器を持っている奴らが多い。俺が女だったら貞操に危険を感じるレベルだ。


セキトバから下馬し、取り敢えず町を見て回ることにする。

「らっしゃい、らっしゃい、安いよ。」

「さぁ、寄った寄った。」

「これなんかどうだい?」

「ちと、高すぎるな。」

「そんなことないですぜ。」

「テメェ、何ぶつかってくれとんじゃ。いてまうぞ、ワレェ?」

「うるせえな、筋肉達磨。二日酔いなんだ、大きい声を出してくれるな。」

「…殺す!!」


なかなかの活気だ。だが、コミュ症にはちときつい。それに物騒すぎる。帝国は治安が良かったんだな。

(ここは入場料とかないんだな。)

(はい、入場も何もありませんからね。しかし各領主は役人や騎士を派遣し、様々な形で宿場町から税を徴収していますよ。)

(まぁ、放ってはおけないよな。積み重なればかなりの税になりそうだし。)

(そうですね。実際、都市に発展した例もあるぐらいですから。)

(へー。ならちゃんと危ない奴らも取り締まってほしいよな。)

(…そうですね。)

〈宿場町は冒険者や傭兵が多くて荒れやすいのですが、やはりご自分で気づいてほしいですからね、まだ言わなくていいでしょう。〉

パールとそんな会話をしながら歩いていると、気になる店を見つけた。

「おっ、牛鍋か。ここにもあるのか、どこが発祥なんだろうな。」

(諸説ありますが、帝国の南西部と言われています。牛の名産地ですから。)

(ふーん、いつか本場の牛鍋を食ってみたいな。)

しかし店に入るとなるとセキトバが邪魔で仕方がない。 

どこか置いておける場所はないか? 

……おっ、あそこに預けるか。 


馬を連れた人たちが小屋に預けているのが見え、俺も追随する。

「坊っちゃん、あんたも馬を預けたいのかい?」

「ああ、頼む。」

「なら銀貨1枚だ。」

「分かった。」

財布から取り出し渡すと、番号の書かれた木の札を渡してくる。

「そいつをなくすなよ。馬を返せなくなるからな。」 

店の男はそう言いながらセキトバの首に番号が書かれた輪を巻きつける。

「了解した。ではこれで失礼する。」

まだ並んでいるお客もいるので早々に立ち去る。

(さて邪魔者はいなくなったし、ゆっくり昼飯を食えるな。)

(お忘れかもしれませんが、セキトバにも餌は必要ですからね?)

(道中でそのへんの草食わしときゃいいだろ。あんなのに金を使いたくない。)

(…貧乏くさいですね。金持ちだというのに。)

パールが俺に聞こえるギリギリの声で囁いてくる。いやらしいやつだ。


それから先程見つけた牛鍋店に行くが、そんなに混んではいなかった。お昼時を過ぎているから当然だな。

「いらっしゃいませ。1名様でよろしいでしょうか?」

「ああ。」

サービスがいい。値段もかなりするんだろうな。

「メニューが決まりましたらお呼びください。」

早速メニュー表を開く。

やっぱりここは王道の大牛鍋かな。いや、でもこっちの焼飯も気になる。

「すまない、メニューが決まった。」

腹が空いた俺はメンタル最強。コミュニケーションなど余裕でこなせるわ。

「はい、お伺いします。」

「大牛鍋一つと焼飯一つ。」

「…かしこまりました。しばらくお待ちください。」

ふふ、食べたいものを食べるのが旅の醍醐味だ。問題は全部食いきれるかだが…、時間を掛ければ、まあ大丈夫っしょ。


注文を終えたところで周りを見渡す。

店には二組の冒険者パーティらしき集団と護衛を引き連れた商人らしき人達がいた。特にすることもないので身体強化で話を盗み聞く。まずは四人組の冒険者パーティからだ。


「王都まで遠いわね。あとどのくらいかしら?」

「このペースじゃ、二週間ぐらいかな。」

「そうね、それぐらいはかかりそう。道中でお金も稼がないといけないからね。」

「はぁ、指名依頼も厄介よね。つまらない依頼ばかりで、もううんざり。」

「まあまあ、ありがたいことじゃないか。初心者の時なんてご飯を食べるのでさえ苦労したんだから。」

「それはそうだけど…。」

「まぁレースの気持ちも分かるけど、今はそんな辛気臭いことは忘れて牛鍋を楽しもうじゃないか。滅多に食えないんだぞ?」

「おうよ、アルスの言うとおりだぜ。」

「…それもそうね。」


…つまらん会話だ。期待して損した。商人の方はどうだ?


「帝国での商売はどうでしたかな?」

「そうですなぁ、帝国では税が統一されていてわかりやすかったですな。やはり皇帝陛下の御威光が隅々まで照らしているようです。」

「そうでしょう、そうでしょう、私も驚いたくらいですからな。それに比べてマルシア王国ときたら…。あまり大きい声では言えませんが、それぞれのお貴族様が独自の基準を設けておられる。正直、商人にとっては暮らしにくいですな。」

「全くです。最近は東部諸国連合からも物資を巻き上げておりますからな。どうなることやら…。」

「一寸先は闇とも言いますからな。…それでですな、前々から思っていたのですが、帝国を本拠にしようと考えているのですよ。やはり法が統一されているのが好都合でしてな。」

「…ふーむ、私も少し考えてみますかな。」

それからも色々な商売についての話があった。

結構いい話が聞けたな。…どれ次はあの冒険者パーティのお話を伺うか。

そう思ったところで飯が運ばれてくる。

「お待たせしました。どうぞごゆっくり。」

「どうも。」

手を合わせて、いただきますをしてから食べる。

「上手い…、宿屋の飯より上手い。」

バカにしてすまんかった、正直舐めてた。やはり飯は飯屋だな。

そして牛鍋を食べだあとは気になる焼飯にも手を出す。

「…うめぇ!! なんだこれ?」

味は焼きおにぎりで、米とは違うパラパラした穀物が使われている。

懐かしい味だ。ちょっと泣きそう。

(そんなに美味しいんですか?)

(ああ、人生の幸せを感じる。生きててよかった。)

こっちで幸せを感じるのはうまい飯を食ってる時ぐらいしかないからな。深く考えたら病みそう。


それから全てを食べ終え、吐きそうになりながら動けないでいるとガラの悪い奴らが入店してきた。

何でこのタイミングで来るかな? 絶対に俺に絡んでくんなよ、マジで動けねぇから。


俺がそんなことを思っていると、男性の店員が声をかける。

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

すげぇ、気丈に振る舞ってる。俺なら無理だ、絶対に声が震える。これが社会経験の差か。

「あん? …クク、何名に見える?」

素直に答えてやれよ、社会不適合者め。

「…7名様ですね?」

「おおー、合ってる合ってる。偉いねぇ、ぼくちゃん。」

店員はその言葉を気にする素振りも見せず、席に案内する。

「…チッ、つまんねえやつだ。」

「情けねえな、相手にされてねぇじゃねぇか。」

「ちげぇねぇ。」

「「「「ガハハ」」」」」

ええ…、笑う要素なくね? ツボが分からん。というか、こいつら山賊じゃないのか? 血はついてないけど鎧が赤いんだが。


俺が男たちにバレないように観察していると、そそくさと商人たちと一組の冒険者パーティが勘定を支払って去ってゆくのが見えた。素晴らしい危機管理能力だ。

(俺も早く去りたいけどお腹がいっぱい過ぎて動けない…。)

(あんなに食べるからですよ。少し残せばよろしかったのに。)

(もったいなくてさ。それに完全に食えないわけでもなかったから。)

まぁ、まだ若いしすぐに消化されると思う。問題はアイツらが問題を起こさないかどうかだ。


「よー、姉ちゃん。とうだ、俺たちと一緒に飯を食わねぇか?」

!!、…ちょっと目を離した隙にこれだ。油断も好きもない。しかもさっき文句ばっかり言ってた女の冒険者に絡んでる。絶対、ろくな事にならない。

「お断りよ。そもそももう食べ終わるし。」

「なら俺達が奢ってやるからさ。」

そう言いつつ、男たちがテーブルを囲みだす。

「嫌って言ってるでしょ。しつこいわね!!」

「あんだと!!」

急速に空気がピリつく。矛先が俺に向かないことを祈る。

「おいおい落ち着けよ、アン。…済まないが、俺達はもう店を出る。あなたたちとは食べられない。」

「あ?、テメェは黙ってろ。俺はこの女に聞いてんだ。それともなんだ、こいつはテメェの女か?」

「…そういうわけではないが。」

優男がそう言うと女が露骨にがっかりしているのが見えた。

なるほど、そういうことか。でも果たしてその気持ちは本当に愛かな? 少し切っ掛けがあれば崩れる程度のものじゃないのかな?

…ちょっと試したいな。

「ならテメェは引っ込んでろ。」

「そういうわけにはいかない、同じパーティの仲間だからな。」

「そのとおりだ。さっさと席にもどれ。」

「ハァ? せっかく俺達が声をかけてやったっていうのによォ、いいから来いよ!!」

集団の中の一人が女の手を掴む。

「ちょっ!? 離しなさい!」

「グヘヘ、いいから来いよ。」

「そうだ、遠慮するな。」

「ヘヘ」

男たちは一人が女の手を掴んだのを皮切りに、一斉に手を伸ばして席に連れ帰ろうとする。

それに立ち上がる仲間たち。だが――

「テメェら!! 誰の店で騒いでやがんだ!! 叩き出すぞ!!」

店の奥から現れた包丁を持った白髪の大男。この中の誰よりもいかつい人相をしている。

「ヒッ、な、なんでもねえ。ちょっと話してただけだ。」

「あ、ああ、そのとおりだ。」

男たちは震える声で返答し、そそくさと座席に戻っていく。

(おっかねぇ。なんだ、あのシェフ、囚人上がりか?)

(どうでしょうか? ただ歴戦の戦士そうではありましたね。)

(あれくらいじゃないと荒くれ者の相手とか無理なんだろうな。)

それにしても宿場町は血の気の多い奴がわんさかいるな。ここに来るまでに戦っている奴もいたし。

(パール、もしかしなくてもだけど宿場町ってちょっと危険?)

(はい。)

(…もっと早く教えてほしかったなぁとか思ったり?)

(それではつまらないかと思いまして。)

それを言われたら何も言えない。確かにすべて知ってたら興ざめだし。


その後、ある程度動けるようになってから代金を支払って店の外に出ていく。しかし、途中で尾行されているのに気づいた。

気のせいだと信じてたんだがな、さすがに飯屋から出てからずっと同じなのはおかしい。

(はぁ、どうして俺を狙うかな?)

(その様子だと気づかれたようですね。)

(ああ。どうせいいとこの坊ちゃんが護衛もつけずに歩いていると思われてるんだろ。)

(迎撃しますか?)

(そうだな。セキトバを回収しないといけないからな、面倒なことに。)

(飼育する生き物を育てるのは飼い主の義務です。)

(フン、そんなこと言われなくても知ってる。)

パールとそう会話しつつ、裏路地へ移動する。

「出て来いよ、つけてきてるんだろ?」

すると物陰から出てくる出てくる、武器を持った八人の男たち。

「ほう、やはり気付いたか。」

「まあな。気配には敏感なんだ。」

「そうか。ならそんな鋭い坊主なら分かるだろ? さっさと金をよこしな。そしたら死なずに済むぞ?」

「お断りだ。俺の物は俺の物。何一つ譲る気はねぇ。」

「そうか。」

「一つ聞きたいことがある。どうして俺が飯屋に居ることを知ってた? 馬小屋で俺の情報でも聞き出したか?」

「何のことだ?」

男は否定しているが、顔がこわばっている。ビンゴだな。

「胸に手を当てて考えろ、ハゲ。」

「調子にのるなよ、ガキ!!」

俺の挑発に乗った男が斬りかかってくるが――

「ドシュ」

「ドサッ」

風の魔法剣で腹を貫く。そして血をまき散らしながら崩れる男。

「ペラペラしゃべる奴に限って弱いんだよな。なぁ、負け犬君?」

俺は倒れた男の顔面を踏みつけ、道中でたまった鬱憤も晴らす。

生きて帰す気はない。遺体は跡形もなく燃やせばいいだけだ。残念ながらこいつらがいなくても社会は回る。


「…バカ…な。」

「ボス!? 野郎、よくも…」

「な…、魔法剣だと!! 何者だ!?」

「こ、ころせ。」

「足をどけろォーーー」


次々と襲いかかってくる奴らを殺していくが、一人しぶとい少年がいた。俺が無造作に振るった魔法剣を見切ってかすり傷に抑えたのだ。

「よくも父さんを殺したな!! 絶対に許さない!!」

「ああ? 親が親なら子も子だな。ただの因果応報だろ?」

「お前に何が分かる!! 父さんは真っ当に働いてたんだ。でも、でも貴族に母さんを殺されて、父さんの商会も潰された!! そんなの許せるか!!」

…おおー、重そうなのが来たな。でもだから何って話だ。俺を襲った時点で、俺にとって襲ってきた奴に価値はない。

「なるほどな。それでお前たちは自分たちがやられたことを自分たちよりも弱い奴にやっているのか、卑怯だな。」

「なっ!!…」

少年は俺の言葉に動揺したのか、剣を振る腕が止まっている。

甘いな、ガキ。命のやり取りをするには幼すぎだ。

「半端な覚悟だから死ぬことになる。」

昏い嘲笑と共に魔法剣を少年の首に振り下ろす。


「スパッ」


宙に首が舞う。

「ふう、結構疲れたな。重い話もあったし。」

(…遺体処理しておきましょうか?)

(あっ、やってくれる? なら頼むわ。すぐにここから離れたいからな。)

(了解です。)

〈少年は本当は殺したくなかったでしょうに。すぐにマスターは抱え込みますからね。〉


…よくよく考えれば平民の中にも貴族に反感を抱いている奴がいてもおかしくない。もしその中にSS級冒険者のような規格外が現れたら、今の体制も変わるかもしれないな。そうなったとき、俺はどうしようか?

(…聖剣って確か避難船に積みっぱなしだったよな?)

(はい。聖剣がどうかなさいましたか?)

(いや、気になっただけだ。)

平民に聖剣を扱える奴がいたら渡すのも面白そうだと思ってたけど、こっちはやめておいた方がいいな。取り返しのつかないところまで行きそうな気がする。それこそ帝国が滅亡するところまで。


その後、セキトバを回収し、さらに東に向かう。

セキトバを受け取った時、馬小屋のおっちゃんが気まずそうにしていたことを報告しておこう。


ーー??ーー

「陛下、帝国に潜入していた工作員からの情報です。」

「とうとう来たか。どうやら天は私たちを見放さなかったようだ。それで内容は?」

トランテ国王は長年かけて帝国に工作員を仕掛けてきた。すべてはたった一発で状況をひっくり返すためだ。

「帝都で爆発事件が発生。被害は甚大、すぐには動けないだろうとの事です。」

「…帝国と不可侵条約を結び、マルシア王国へ侵攻する。それしかトランテ王国に未来はあるまい。」

「…」

「すまない。公安は政治不介入だったな。」

「いえ。」

「すぐに動く。長官、マルシア王国の諜報に力を入れろ。」

「御意。」

「帝国に潜入していた工作員はどうだ?」

「およそ半分が摘発され、これまでのような諜報活動は厳しいかと。」

「…そうか。ではまた時間をかけてゆっくり溶け込ませておいてくれ。」

〈無駄にはせぬよ、お主らが届けてくれた情報は。〉

「御意。」

長官が去った後、外務大臣を呼び出し、帝国と対話するように命じる。

「…なるほど、それなら交渉も纏まるでしょう。ですが貴族の方は大丈夫ですか?」

「今はどうしようもない。だが、余が決めたことをひっくり返させる気はない。」

「…承知いたしました。では、すぐにでも帝国に向かいましょう。」

「頼んだ、ベール外務大臣。」

「仰せのままに。」




ーー??ーー


「よく来てくれた、グレン少佐。」

「ハッ。」

かつて銀仮面としてのジンと戦った少年は成長し、軍に所属していた。

「君には第3師団へ移動してもらう。」

「…第3師団ですか?」

第3師団は主にマルシア王国方面を担当している。

「そうだ。詳しい命令は追って伝える。とりあえず君は自分の小隊を連れてロッテンカルロ師団長の指揮下に入るように。各地の駐屯地にはもうすでに連絡を送ってあるから補給の心配はしなくていい。」

「ハッ。」

〈どういうことだ。帝国の方が脅威だろ? 俺は使えないってことかよ。〉

帝国方面を主に担当していたグレンは不可解な辞令に不満を抱くが、命令には従えない。

〈頼むよ、グレン君。君はトランテ王国の希望だ。陛下も全力を尽くされているが、軍事方面にまでは手が及ばない。この国が飛躍するには君が欠かせないんだ。〉


ーー??ーー

「決戦はこの場所でいいだろう。」

「はい。…大丈夫ですかね?」

「問題ない。烏合の衆に負ける気はない。」

「いえ、そちらではなく…、陛下の方です。」

「…大丈夫であろう、陛下直々に命令くださったのだから。」

だが、オルガには確信があった。あの王では他の諸侯は抑えきれないと。しかし戻る気もなかった、同じことをする気にはならないから。

「ですよね。」

「我々は我々のことに注力していればいい。」

〈マルシア王国との同盟も考えた方が良いが…、陛下は許可してくださるだろうか?   私の躍進を妬みなさる時があるからな、気をつけなければ。〉


ーー??ーー

「はぁ、ここはどこだ? すっかり迷っちまったな。まぁ、なるようになるか。」

(秘剣。絶対にこの俺様が会得してやるぜ。俺様が最強なんだ!!)

帝都の闘技場の王、アレックス・アルマデアも武を極めんとしていた。大陸が燃えるまであともう少し。


ーー??ーー

グレン…96話当たり












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