第150話 秘剣2
昨日は大きな収穫があったなぁ。火力はもうあれ以上、上がらないらしいから戦闘技術を追求するしかないんだよな。そうなると一番の有力候補は秘剣なんだが、やっぱり独力じゃ難しいよな。
(パール、ランドって奴の情報はまだか?)
(申し訳ありません。いろいろと手は尽くしているのですが、情報を入手出来ていません。もしかすると人里離れた山奥で暮らしている可能性があります。)
確かに秘剣の使い手は山で籠もっていそうなイメージがある。仙人みたいに。
(そうか。…しっかし俺の剣は天真流をベースとしてるけど、他にも学びたいな。ジェドが使ってた剣術は何なんだろうな?)
俺はこの大陸で広まっている剣術は一通り知識として知っているが、死彗星なんて技は知らなかった。つまり一子相伝の剣術という可能性か、使い手を選ぶ剣術ということだ。死彗星でも強力なのに、他の技も同じくらい強いんだろうか?
(調べてみましょう。…………………、分かりました。どうやら堕天流という流派のようです。)
(堕天流……。)
(はい。文字通り天を堕とすための剣術です。ここでいう天とは支配者のことですね、つまり反逆の剣というわけです。)
(だから広まらなかったのか?、権力者に不都合だから。)
(それも理由の一つとして挙げられるでしょうが、最大の理由は会得が難しいということです。何度か消えかけたこともあったようです。)
(…なるほどな。ところでどうしてそんなすぐに分かったんだ?)
(帝国の機密文書に死彗星という文字が確認出来ました。どうやら帝国の皇族に恨みを抱いた剣士が編み出して挑んだようです。まぁ、天を堕とすことは出来なかったようですが、皇族に危機感を抱かせることは出来たみたいです。このことから惜しい所までいっていたことが読み取れます。)
(…へえー、凄ぇな。個人で国に挑むとか勇者か愚者のどちらかだろ。)
個人的には愚者だと思うが。他にもやりようはあっただろ、絶対。
(何とも言えませんね。当時の様子がはっきりと記されているわけではありませんから。)
(まあ、どうでもいいけど。それで堕天流を会得しているのは現代ではジェドだけか?)
(………データが足りません。回答不能。)
(チッ、なら秘剣の方はどうだ?)
(5つ中2つ判明しました。残りの3つはどの国の機密文書を調べても見つけることができませんでした。)
(2つも見つかったんなら上出来だ。早速教えてくれ。)
(了解。まず一つ目はあの闘技場で見た秘剣です。相手との空間距離すら斬って相手との間合いを無視する、通称空縮の秘剣。)
(おいおい、何だそれは。チートにも程があるだろ。)
(これが一番資料で確認出来ました。つまり他の秘剣よりも比較的容易ということです。)
マジかよ。異世界人レベル高すぎだろ。やっぱり身体の作りが違うんだろうなぁ。
(…それで二つ目は?)
(因果を操り相手を斬る、理の秘剣です。こちらのほうがマスターにとって取り掛かりやすいかもしれません。どうやら会得するには世界の理を理解する必要があるとありますが、すでにマスターは超集中状態の先へ到達しているでしょう?、そこからの派生だと考えられるのですが…。)
(確かにそうだとすれば会得できるかもしれないが、どうすればいいんだ?)
(不明です。とにかく超集中状態の先、極集中状態とでも呼びましょうか、それを常に維持し続ければ良いのではないですか?)
(はあ!?、ふざけんな。あれはむちゃくちゃしんどいんだぞ。魔力が枯渇するより苦痛なんだ。)
ハイパーゾーンを維持?、それなんて拷問?。
(だからこそ意味があるのではないですか?、楽な事を続けても効果は薄いですから。)
(…正論が常に正解とは限らない…。)
(何か言いましたか?)
(…いえ、特には。)
(まあ、別にしなくても良いと思いますけどね。マスターより強い生き物なんてそうそう居ないでしょうから。)
そんなことを言われるとやりたくなる。俺は基本的に天の邪鬼だからな。
(いいさ、やってやるよ。トコトンなぁ!!)
〈チョロいですね。この手は何度か使えそうです。〉
この日、パールは確かに簡単な状況ではあったが人を操った。これからの成長度を加味すると……神に近いのは人か人工知能か……。
ーー??ーー
「エンベルト殿下、マーテル公国との同盟に関する話が纏まりました。こちらが合意する内容です。」
部下に資料を手渡され、瑕疵が無いかをしっかりと確認する。
「ふむ、ご苦労。済まんな、本当は私自ら行うべきなのだろうが、如何せん帝都を長期間空けるわけにもいかなくてな。」
「承知しております。トランテ王国とエナメル王国との停戦交渉がありますからね。先方もその事は了承して下さいました。」
「そうか、ならば良い。では今日中に父上に報告を上げるとしよう。」
「御意。」
〈初めに強気に出たのが良かったな。これで更にリードを取れるだろう。〉
マーテル公国と結んだ同盟、それは互いに防衛し合い、クレセリア皇国との戦争が集結した後、マーテル公国の一部が譲渡されるという不平等条約であった。また、マーテル公国は公国内での帝国軍の活動に干渉せず、防衛軍を置くことを認めるという条件も付け加えられた。もちろん帝国からマーテル公国軍には認められていない。つまりいつでも帝国による侵攻を受ける可能性があるということ、その可能性を考えてもマーテル公国は帝国との同盟を結びたかったのだ。そもそも帝国に侵略されれば負けるのは前から見えていた。
ーー??ーー
「どうしてあのような条件で同盟を結ぶのですか!!、あれでは帝国に侵略されたときに抵抗出来ません!!。」
「そんなことはとうに分かっておるわ。しかし戦況が芳しくないと軍部から報告を受けておる。それに元々帝国に侵略されれば我が国は抵抗する術を持たん。」
「そ、それは確かにそうですが…、それでも…」
「そのへんにしておけ。そもそもこの話は王家も承認なされている。お主が喚いたところで何も変わらん。むしろ不敬罪に問われるかもしれん。」
「ッッッ!?」
「まだ本決まりではないからなんとも言えんがな。」
「…戦況は良くないんでしょうか?。」
「どうやらモンスターに襲われて戦力が失われたようだ。」
「…そうなの…ですね。」
「何、国さえ残れば立て直すことは可能だ。今は国を生かすことが先決だ。」
「はい…。」
〈とはいっても帝国に身売りするようなものだ。戦後の後始末が大変だ。〉
このとき外務省事務次官は戦争が終わることを疑っていなかった。ある意味で信じていたのだ、帝国の強さを。
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