第132話 第2オペレーションZ

あれからフレイがどこに行ってたのかと聞いてきたが、適当に返事を返しておいた。それからみんなが寝静まった頃を見計らって外出する。

(やっと久々に羽を伸ばせるな。)

(まぁ、さすがに私も同情しますよ。毎晩、戦わされて。)

(ほんとそうだよな。立場が弱いと辛い。)

(でも権力を得るつもりはないんですよね?)

(もちろん。権力を得たら働かないといけないだろ?、働くのは嫌だ。)

せっかく楽ができるのに茨の道を歩む選択肢はない。

(働かざるもの食うべからずって言いますよね?)

へー、こっちでもそういう概念があるのか。

(残念ながら俺の辞書には存在しない。)

(欠落した言葉が多そうですね。)

(一言余計なんだよ。)

今回も空を飛んでフォーミリア王国の首都ガーレットへ向かう。一応念のためだ。

(さて道案内を頼むぞ。)

(了解です。)

しばらく飛び続けるが退屈なのでパールに話しかける。

(パール暇だ、何か面白い話をしてくれ。)

(そうですね。面白いかは分からないですけど、一つ小ネタがあります。)

(おっ、何々?、聞かせてくれ。)

(帝都には怪人が出るという噂です。)

(ほーう、面白そうじゃないか。具体的には?)

(貴族や店から大量の食材が盗まれるというものです。おかげで牛鍋店が休業して、従業員も解雇されたとのことです。)

…思いっきり心当たりがあるな。

(俺は知ってるぞ、犯人はお前だ!!)

(はぁ、そう言うと思ってましたよ。)

そんな会話をしていると首都ガーレットに到着した。上空から様子をうかがってみるとトランテ王国軍が首都に入っており、帝国軍が首都のすぐ近くの平原に待機しているようだった。

ふふ、これなら完璧に第2オペレーションZを発動できるな。さぁ、存分に戦いたまえ。

(マスター、報告し忘れていましたが実はエナメル王国も首都入りしています。)

(へー、なおさら都合がいいな。すぐには連携が取れないだろうし、できればヴァルクス商会を跡形もなく消してほしいな。)

(本当に人としてどうなんですか、それは。)

(そう言われると良心が咎めるが、仕方がない。なんせ俺のためだからな。)

死んだ者の死に意味を持たせることができるのは生者だけ。なら後悔しないように生きるのみ。

(まぁ、好きにしたらいいですよ。マスターに一生付き従うと決めてますから。)

…なんか照れるな。素で話せる奴はこいつぐらいだから。

(ならいつも通りいくぞ。)

(了解。)

幻術で姿をくらまし、首都に侵入する。それから帝国軍に向けて壁を超えるように火魔法を放つ。

とどけ、俺の思い。

「ドーン、ドーン、…」

断続的に地響きが鳴り響き、あたりも明るくなる。


ー-------------------

「なんだ!?、何が起きている?」

「シュバルツ様、首都から火魔法が飛んできました。」

「そういうことか、なら全軍に伝えよ。トランテ・エナメル王国軍を蹂躙しろと。」

「了解いたしました。」

〈血迷ったか?、まぁ何でもいい。大義名分はこちらにあるからな、父上にも弁解は可能。〉

ついに本格的な戦乱の幕開けである。

ー-------------------

「誰だ、火魔法なんて使ったのは!?、あっちは帝国軍だぞ。」

「分かりませぬ。もしやエナメル王国軍が放ったものでは?」

「だから私はエナメル王国軍を首都にいれたくなかったのだ。仕方がない、すぐに軍使を送れ。すぐに誤爆だと伝えるのだ。」

時すでに遅し。相手に攻撃の口実を与え、それを活用する者にとっては無意味である。

「了解です。」

すぐに壮年の男性が駆けていく。

ー-------------------

再び上空へ転移し、下の様子を眺める。

おお、反応してくれたな。さぁ、踏みつぶせ。少なくとも焼野原にはしろ。

一気に帝国軍が門になだれ込み、トランテ・エナメル王国軍と戦い始める。

(とうとう始まりましたね。)

(ああ。果たしてどうなるだろうか?)

(それは分かりませんけどね、大量の死傷者が出るのは確定です。)

(そうだな。俺はそれを分かっててもこの方法を選んだ。)

(自分の手を汚したくないからですか?)

(仰るとおりだ。だから俺は石を投げて火花を作った。そしてそれがたまたま油に引火しただけのことだ。)

(卑怯ですね。)

仕方がない、人を殺すのは目覚めが悪い。でも俺はリュウを何匹か倒したし、あれで救った命の分は好きにしてもいいだろ。

そう思うことでメンタルケアを施す。

(さて、目的は達成した。帰るぞ。)

(了解。)

最後にもう一度だけ下を眺めてから自分の部屋へと戻る。そしてベッドですやすやと眠るのだった。

ー-ー??---

「依頼は達成した。報酬をいただこう。」

「そうか。ご苦労だった。」

「ドシュッ」

「ガ、ハァ、な、なぜ。」

「ああん?、犯人がいないと捜査が長引くからな。感謝するぜ、てめぇの協力に。」

魔力で手を覆うように作った刃を暗殺者の腹へ突き刺す。

「よし、これでいい。すぐに見つかるだろう。さっさとズらかるぜ。」

その後、弟と部屋で合流する。

「俺の探知魔法では特に引っかからなかったがどうだった?」

「大丈夫だよ。ちゃんと周りに幻術を使ったし、それに監視してたから。途中でやってきたメイドは始末してちゃんと遺灰は風魔法で飛ばしたよ。」

「ならいい。今日は疲れたからな。さっさと寝るぞ。」

「分かってるよ、兄さん。」

帝位争いはさらに激化する。


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