第92話 盗み

(パール、俺っていくら持ってたっけ?)

(大金貨1枚、大銀貨7枚、金貨4枚、銀貨3枚、銅貨2枚分の価値ですね。)

(白金貨に全然届いてないな。そんなんじゃ闇オークションで何にも買えないんじゃないか?)

(そうですね。少なくとも白金貨20枚は欲しいですね。)

(全然足りてないじゃねぇか。どうっすかなぁ?、どっかの国の宝物庫から盗むか。)

(宝物庫にはお金は置いてないんじゃないですか?)

(確かにそうだな。じゃあ、大商会の金庫を盗むか。)

(発想が人でなしですが、他には貴族から盗むかぐらいしか大金をすぐに得る方法はありませんね。)

(なら貴族にしとくか。さすがに平民から巻き上げるのは気が引けるからな。)

もともと、一般市民だし。

(マスターにもそういう感覚があったようで安心しました。)

(それより早くリュウの素材を売りたいんだが、いろいろ手続きとかめんどくさそうだからな。…闇オークションで売れないかな?)

(売れると思いますよ。おそらく手続きも簡単でしょうから。)

(捜査の手が入ったら困るもんな。じゃあ、そこで売るか。あと金は財務大臣から奪うか、莫大な利益を上げてるだろうし。)

(了解です。いつ向かわれますか?)

(明日だな。今日はもう時間が中途半端だ。それに明日は朝の稽古もないしな。)

(分かりました。)

魔法の練習をし、夜ご飯まで時間を潰す。


翌朝、ご飯を食べ終わり、金を奪いに行く。

(パール、財務大臣ってことは帝都で暮らしてるのか?)

(はい、どうやら息子が治めているようです。)

(金はやっぱり、メデラウにあるのかな?)

(おそらくそうでしょう。帝都で貯める意味はありませんから。)

(確かに。じゃあ、メデラウまで案内してくれ。)

(了解です。)

風魔法で飛び上がり、パールの後を追いかけていく。

しばらく飛んでいると、

(そろそろです。あれがそうですね。)

(すげえな。帝都にも負けてないんじゃないか?)

なんかすごい密集している。絶対車は無理だな。

(うーん、どれが領館だろうな。いろいろあってわからんな。)

(聞き込みをするしかないですね。)

いやー、知らない人に話しかけるのはきつい。なんか精神的にすげぇ疲れんだよな。

ていうか、そもそもすぐわかるじゃねぇか。

(衛兵が門の前に立ってるところだ。)

(…そんなに話しかけたくないんですか。すぐにそんなこと思いつきませんよ。)

(俺をなめんな。伊達に11年も生きてねぇよ。)

(そうですか。)

幻術で姿を男の姿に化け、裏路地に転移する。

表通りに出るために歩いていると、薄汚い子供や、ホームレスがいた。

ひどいな、帝都よりも多い。

この世界は持つ者と持たざるものとの差が大きすぎる。

孤児とかだったら生き抜くのは難しそうだ。

大通りを歩きながら、パールと会話を交わす。

(ひどい光景でしたね。)

(そうだな。だが、どうしようもない。)

(どうする気もない、の間違いでは?、マスターがその気になればなんやかんや解決しそうな気がします。)

まぁ、自分の治める街に浮浪者とかはいてほしくないからな、そりゃ。

仕事とか供給するようにはするさ。だが、

(俺は人のために頑張りたくない。人が俺のために頑張ってほしい。)

俺は博愛精神あふれる人間ではない。でもこう思ってる人は多いんじゃないか?

皆、口に出してないだけで。

(とんでもない人ですね。それ以上、満たされることを求めますか?)

(そうだ。俺って傲慢で強欲なんだ、知らなかったか?)

(知ってますけど…。)

(欲こそが人間の原動力だと思っているからな。欲を失ったら無気力になるだろ?)

(そんなことないんじゃないですか?)

(かもな。でも惰性で生きることだけは避けるべきだ。常により良いものを求めないと、あとは墜ちていくだけだからな。)

(…そのために必要なのが欲だと?)

(ああ、欲こそが原動力だと少なくとも俺は思う。)

(そうですか…。)

(まぁ、一意見だと思っとけ。ただ俺が今まで生きてきた中で得た見解だからな。また変わるかもしれない。)

(全然そう思ってる口調じゃありませんよ。)

そりゃ、前世合わせたら25年以上生きてるからな。変わらんだろ、たぶん。

(ん?、おいあれは教会か?)

(そうです、あれはセントクレア教の教会ですね。)

当然、この世界にも宗教というものがある。特に、セントクレア教とエルフィー教の二大宗派が大陸に広まっている。

(セントクレア教って何を信仰してんだっけ?)

(マスター、さすがに常識ですよ。)

しょうがないだろ、宗教って胡散臭いイメージしかないから。

(ド忘れしただけだ。)

(セントクレア教は愛を信仰する宗教です。どんなに人間が醜い存在であっても愛が存在するということを信仰している宗派です。象徴として聖女が存在していますよ。現聖女はマスターの一つ年上です。)

(さいですか。)

へ~、愛を信仰するとか平和でよろしいな。

でも俺には合わない。

そもそも信じてる時点で現実にはないと思ってるようなもんだ。

(反応薄いですね。)

(興味ないんだ、宗教自体に。)

(そうですか、ちなみにもう一つの方は…)

(おっ、着いたぞ。)

結構警備が厳しそうだな。さすがに悪いことをしている自覚はあるらしい。

(どうされますか?)

(とりあえず、こっそり侵入するぞ。)

(了解。)

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