第42話 マルスのパーティ

あれからしばらく経つが、領内の警戒体制は相変わらず維持されている。

無駄なことしてるなぁ。まあ、元凶は俺が嘘をついたからなんだけれども。

(マスター、古竜の肉をすべて燻製にしました。これでしばらくは持ちますがちゃんと食べてくださいね。)

俺は帰ってから古竜の肉を焼いて塩をつけて食べたが、ほっぺたが落ちそうなほどおいしかった。

焼き肉のタレと白ご飯があればもう最高だっただろうな。

あれは前世と合わせても一番おいしかった。もし古竜が強くなかったら乱獲されて、今頃絶滅してるだろうな。

(わかってる。あんな過ちは二度と犯さない。)

(ほかのことも反省してほしいんですけどね。)

(来世に期待だな。)

そうパールに告げながら俺の脳裏には恐ろしい未来予想図が広がる。

まてよ、もしかして来世も記憶があるんじゃないか?

それはさすがに嫌だぞ。くそ、ここにきて最大の懸案事項が発生するのか。

自分じゃ確かめようもないのが腹立たしい。

まぁ、いい。もしそうなっても、俺は俺の生きたいように生きるだけだ。

そう固く決意して朝食を食べに向かう。

家族と挨拶を交わして席に着くとアレクが話し始めた。

「今日から10日後に、学園に入学する貴族の子供たちが主役のパーティがある。今回の場合はマルスだね。古竜の問題はまだ解決されてないが、いつまでも動かないわけにはいかないということで開催されるようだ。」

(マスター、罪悪感はないんですか。みんなマスターの噓に振り回されてますよ。)

(騙される方が悪い。そもそもあの時、古竜を生かそうと思えば生かせた。つまり、俺が見逃していたらこの状況は本当だったかもしれない。なら古竜がいないだけましだろ。)

(見事な開き直りですね。いつか痛い目を見ないことを祈ります。)

(はっ、人工知能に祈ってもらうほど落ちぶれちゃいねえよ。)

「マルス、今回はちゃんと皆と交流するのよ。」

「わかってますよ、母上。」

マルスが少し口調荒く答える。

おお、ちょっと切れてる。おもしれぇ、笑いそう。

「そういうわけだから明後日に出発するよ。」

前回の失敗を活かしてるなあ、いいことだ。

同じ失敗を繰り返す奴にいい未来はない。

午前中の稽古と昼食を済ませた後、今日の予定について話す。

(マスター、今日はどうするんですか?)

(そうだな、魔法の練習かな。4属性の同時行使を極める必要があるし、古竜と戦った時に黒槍を展開したが、それを応用して剣を作って使えるか試す必要もある。やることは山積みだ。それと当分依頼はなしだ。SS級のやつと遭遇するわけにはいかないし、本部に証言を求められるかもしれないからな。)

(了解です。)

(なあ、今日の朝さ、マルス、ちょっと切れてたよな。普通に笑いそうになったわ。)

(ひどいですね。あなたの兄ですよ。)

(だから笑ってるんじゃないか、たとえ不快になったとしても心の中で罵るぐらいにとどめるべきだろ。次期貴族当主なら、それぐらいはできないと。)

(仕方ないですよ、まだ11歳なんですから。)

(年齢は理由にはならねぇよ。おそらく上級貴族の子供なら余裕で対応していただろうし。あの幼さは欠点になるぞ。今回のパーティでどういう方向に成長するか決まるな。)

(マスターにしては気にしますね?)

(マルスに何かあれば、俺にも火の粉が飛んでくるかもしれないからな。)

(介入しないんですか?)

(めんどいから嫌だ。いざとなればさよならだ。)

(見捨てるんですか、家族を。)

俺は記憶をもって生まれたせいか、この世界の家族を他人として認識してしまっている。こればっかりはどうしようもない。

(俺もなるべく見捨てたくないさ、そりゃ。でも俺に危害が及ぶなら選択肢としてはありだ。)

(はぁ、ろくな死に方しませんよ。)

それは困る。おれは大往生したいんだ。

(そうならないように頑張るさ。)

パールとそんな会話をした後、人気のないところまで転移して魔法の練習に励んだ。



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