第13話

エーデル様と話した後、ゲルゲンさんと衣装の生地の打ち合わせも含めて宿屋で報告会をした。多分彼女は領主様とちゃんと話はするだろうけど、友達として何か援護射撃できればと思ってそれとなく嫌がっていると匂わせておいた。

ゲルゲンさんは、お見通し感の有る生ぬるい感じの目で私を見て微笑んで聞いていた。気持ち悪い…と思っても口にできないので、しっかりお口チャックだ。

生地を染める職人さんについては、案の定いい人を知っているらしく、明日紹介してくれるらしい。出来れば、タフタみたいな生地で淡いアクアマリンカラーが良い。ウェディングドレスにぴったりの生地だし、織り方を練習してもらえばオーガンジーもいけるかしら?それなら、染める前に生地屋さんから行きたい。この世界の生地屋さんって、手織り?機械ないもんね…ん~どうしようオーガンジー加工とか大変かなぁ。でも、申し訳ないけどオーガンジーとタフタ欲しい。あるかしら?気になるぅ~!

私の心の中の身悶えなど一切知らぬ存ぜぬのゲルゲンさんは、明日のスケジュールを伝えて宿屋を出て行く。夕飯には少し早い時間の、中途半端さよ。

平成生まれの孫に歌ってやった人魚姫の歌う歌を鼻歌で口ずさみながら、手慰みに昨日買ったばかりの糸で手持ちのハンカチに小さな人魚姫の刺繍をして時間を潰した。

小さな頃人魚のお姫様が初恋だった隆司も子供が生まれて、今頃は立派な中年になっているだろう。小さなひ孫だったはずのあっくんは、中学生くらいだろうか。男の子じゃ、お姫様の刺繍は嫌がるだろうなぁ。とりあえず、出来たら宿の食堂で給仕係をしている娘さんにでもあげよっと。

とりあえず、折角エーデル様とお友達になったのだし、色と生地には妥協したくない。たとえ、三か月後に使われないとしても…

どうせなら滞在予定の5日を満足いくまで延ばしても良いかな?まだ多少の金銭的余裕はあるし…でも、流石にあんまり長いと心配されるか。まだ、成人前だしねぇ。ぐぬぬ…あと1年がネックだったなぁ。

手を動かしながら考え込んでいた私のお腹は、容赦なく時間の経過を教えてくれる。ギュルル~っと鳴るお腹を抑えて食堂に降りると、いい匂いに刺激されてお腹が食事を催促してくる。目が合った給仕係の娘さんに、容赦なく笑われてしまった…うぅ…


翌朝、食堂に降りるとゲルゲンさんがタイミング良く現れて、私は人攫いよろしく連れ出された。

「まだ、朝ごはん食べてないのにどこ行くんですかぁ!お腹すきましたぁ!」

「少しだけ我慢して下さい、リア。私だって、お腹すいてますよ。恨むなら、明け方に使いを寄越してきた領主様を恨んで下さい」

腹減らしの師弟2人で愚痴りながら領主様の馬車に揺られて到着したのは、昨日も訪れた領主様のお屋敷。

「朝早くから、すまない。リア、昨日娘と何を話した?」

馬車から降りるなり、屋敷の門まで出てきていた領主様に詰め寄られた。

「突然何で、そんなことをお聞きになるのです?エーデル様の思いを、私が簡単に話す訳にはいきませんよ?出来れば、早急にご本人とお話をして頂きたいとは思いましたけども…」

「それが出来れば、そうするさ。姿が見えないんだ。君を訪ねて行っては、いないんだな?昨日の話の中で、思い当たるところは無いか?マクシアス殿の家にも使いは出したが、行っていないそうなんだ」

「そう言われましても………エーデル様との話の中で出たのは、乗馬がお好きだと言う話くらいしか関係ありそうな事は、ありませんけど…エーデル様とお二人で出かけた思い出の場所とかは、ありませんか?結婚の迫った女性は不安定になるものですし、考え込んで突発的にお出かけになったのでは?」

「……………アレの母親の墓には、2人で遠乗りに出かけたことがあるが…行ってみよう。悪いが、付き合ってくれ」

エーデル様が心配だから、行くけどさ…なんだかなぁ…領主様がバタバタと馬車に乗り込むのを見てから、ちらりと見上げたゲルゲンさんも私と同じ複雑な表情をしていた。

領主様から聞いた所によると、エーデル様は領主様に話を聞いて欲しいと願い出たが、領主様は領都の近くに現れた魔物騒ぎに駆り出されて話が聞けず、明け方に戻ってみたらエーデル様が行方不明。それで、私達が急遽呼び出されたらしい。

何はともあれ、今はエーデル様の無事を切に祈る。

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