第11話
「お初にお目にかかります。フローリアと申します。本日は、お招きありがとうございます」
習ったばかりの対貴族用の深いカテ―シ―をして、領主様にご挨拶。金髪男性の見事なロングストレートヘアの天使の輪に目を奪われて、一瞬固まったことは内緒だ。
「よく来たね、フローリア。初めまして、ここアングドリア領の領主、アレクサンドル・ヨハン・アングドリアだ。領都は、楽しめているかい?」
領主様は、ベロを嚙みそうな御名前だった。優し気な口調に貴族然としたにっこりとした微笑みを浮かべていても、私は騙されない。目が笑ってなくて怖いから。完全に品定めしてるでしょう?露骨すぎるよ、領主様。八十数年生きた前世含めても、ダントツの露骨さだよ…
「ありがとうございます。では、早速ですが、ご用件をお伺いできますか?」
品定めの目に圧倒されながらも何とか笑顔を張り付けて、骨は拾ってくれと後ろのゲルゲンさんに祈りながら問いかけた。
「ふっはっ!根性が座っているね、フローリア。ワザとらしく値踏みをして、悪かった。これも後ろの優男の指示なんだ、許してくれ。さぁ、話をしよう。座って」
グルリと後ろを振り返ると、何食わぬ顔でそっぽを向いているゲルゲンさんの口元が、ヒクヒクと痙攣していた。
ため息をついてから、思い直して深呼吸に切り替えると、薦められた席に教えられた作法で座って、淹れられたお茶を昨日教えられた通りに領主様の飲んだ後に口を付けた。
「リア、よくできました。美しい所作だったよ。ここからは、多少の粗相は気にしなくていいよ。頑張ったね」
ふわりと頭にゲルゲンさんの手が振ってきて、私の頭をそっと撫でた。
「……わかりました。一言だけいいですか?」
「なんだい?」
「意地悪が過ぎたら、手数料踏み倒してやる」
「ふふふ…ごめんよ。勘弁してくれ。でも、聞いてくれないかい?領主が悪いんだ。さっきのは、領主の嘘だったんだよ?」
首だけをグルリと動かして、領主様の方を見ると口に手を当てて震えている金髪男性がいた。
「おっさんどもめ…」
私の小さな深く唸るような声が聞こえたかは兎も角、私はお茶を一気飲みしてお代わりを所望した。
領主様の希望は、端的に言って3つ。
1つ目は領主様の長女の3か月ほど後の結婚式の衣装づくり、2つ目がその長女と「友達」になってほしい、3つ目が「友達」として結婚式に出席するために当日まで領都に居て欲しい、と言うものだった。
1つ目は、もちろんお受けする。でも、その後の二つは言われて出来るものじゃない。採寸もしたいし会わせて欲しいと伝えると、長女の部屋に案内された。
どんなお嬢様がいらっしゃることやら…
部屋の扉を開けると、父親譲りの美しいストレートヘアの金髪少女がいた。
「あなたがフローリアさんね?どうぞ、お入りになって。こちらへお座りください」
勝手に開いていた私の口が閉まる前に、完璧なお嬢様スマイルで案内された。
案内をしてくれた女性が、お茶を給仕してから部屋を出ると、別の意味で開いた口が塞がらなくなった。
「……はぁ…ごめんなさいね。突然で驚いたでしょ?いきなり呼びつけるとか、何様よ?って、思うわよね?私の結婚だって、勝手に決めて。ほんと、いけ好かない男だわ。あんなのが父親だなんて…やってられない。確かに、ゲルゲンさんの見せてくれた衣装絵は素敵だったし、私もこんな衣装が着たいとは言ったけど。何を勘違いしたのか、ドレスが気に入らないからごねてると思ってるのよ。結婚したくない理由がドレスなんて、どう考えてもあり得ないでしょう?そう思わない?この領は、あんな男に治められてるなんて不幸だわ。さ、どうぞ飲んで頂戴。いいお茶なの、味は保証するわ」
扉が閉まってからお茶を飲むまで、マシンガンの様な話し方だった。
とりあえず、呆気にとられた口を閉じるためにお茶をひと口頂いた。確かに、香りのいい美味しいお茶だった。
「初めまして、お嬢様。私の事は御存じなようですが、お名前を伺っても?」
「…ごめんなさい。私は、アングドリア領領主アレクサンドル・ヨハン・アングドリアが娘、エーデル・アレクサンドル・アングドリアと申します。以後お見知りおきを」
お手本の様な綺麗なカテーシーと共にさらりと流れる髪の美しさに、一瞬意識が飛んだかと思った。
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