賢者が放った苗と人々
仲仁へび(旧:離久)
第1話
――賢者は知りたいと思った。
――遠く果ての出来事を。
――だからそのために、行動した。
世界の歴史を記録しよう。
遠い果てに生きる賢者が、ある日そう言った。
その賢者は、知的好奇心を満たすために、様々な世界に大樹の苗を放つ。
その苗が、一つの世界へたどり着いた。
たどりついた一つの苗。
それを見つけたのは、双子の子供。
幼い少年と少女。
その苗は、二人の子供によって、陽の光の具合がちょうどよい場所へ植えられた。
双子は交代で苗の具合を見て、水を与え、肥料を与え続ける。
二人の献身によって苗はすくすくと成長。
それは何百年も、何千年もかけて大樹へ育った。
はじめは。
とても弱々しい小さな芽。
儚く消えてしまいそうな苗だった。
それが、何百年、何千年もの時間をかけて、たくましい大樹となった。
ある双子に植えられたその木は、長い間様々な人々に世話をされてきた。
巨大な木の影が増えていく。
陽を優しく遮るその影の中に村ができて、町ができ、都市ができていったからだ。
だから大樹は、色々な時代を見てきて、色々な人々に接してきた。
人の時代は絶えず変化する。
人と人が笑いあい、肩を組み。
楽しく生活している時代もあれば。
人と人が罵り合い、憎み。
激しく憎悪し命を奪い合う時代もある。
人は強くて弱い。
一面では語れない多様な存在だった。
大樹はそんな、様々な面を見せる人々を、愛していた。
だからいつからか、守りたいと願うようになった。
欲にまみれた時代があって、その時代に大樹のまわりにあった他の木々が伐採されて、燃やされ孤独になっても。
科学の力が大地を汚染し、人々がその土地から離れていっても。
その大樹が、人への愛を忘れる事はなかった。
激動の時代が過ぎ去った後。
大樹は、かつての双子に出会う。
生まれ変わった双子に。
長い時の生が辛くはなかったか、と問う双子に大樹は返した。
確かにそんな時もあったが。
命を繋いでくれてくれてありがとう。
と、そう思っていた。
やがてその大樹に寿命がきた。
枯れゆく大樹は、双子に見守られながら、永遠の眠りについた。
大樹は苗となり、再び賢者の手に帰っていく。
多様な人の世の物語を、その身にひめて。
賢者が放った苗と人々 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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