第11話 女伯との出会い
街の奥にその家はあった。
市場――といっても露天が並ぶ広場を通って、細い路地に入る三人。迷路のようなその突き当りに目指す先はあった。
「ここです」
いかにも重そうな扉をノックするヴィンツェン司祭。反応がない。もう一度、何かの韻を踏んだようなノックをする。
少しの沈黙の後、ゆっくりと扉が開いた。
暗い空間――ぎしぎしと床が鳴る。下男らしき老人がわれわれを二階にいざなう。
古びた階段を登ると、目の前には大きな扉が鎮座していた。
「お久しぶりでございます。ヴィンツェンでございます。お嬢様」
そう大きな声で名乗るヴィンツェン。中から、なにやら女性の声がする。それを了承と判断してヴィンツェン司祭は扉を開け放つ。
今までの寂れた印象とは全く異なった雰囲気の部屋。床には羊毛の絨毯がひかれ、壁は赤みがかった色で統一されている。
その中に椅子に座った少女が一人。長いドレスのような服を着て、こちらをじっと見つめている。
「ベアトリクス女伯。お久しぶりにお目にかかります。女伯の念願が叶うときが来ましたぞ」
じろり、と三人を見つめる少女。年は――フィリーネと同じかそれより下かもしれない。しかし、『女伯』と呼ばれているところを見るとかなりの身分の女性なのだろうか。
「私はゼンケル女伯ベアトリクスと申す。名乗りを許そう。それ」
偉そうだな、と思いつつも貴人にたいしての礼を欠かす訳にはいかない。私は一歩下がって名乗る。
「わが名はレオール=クロンカイト。オストリーバ王国の副国王にして、オストリーバ王国騎士団長であります。どうかご懇意に」
うむうむ、と少女はうなずく。
「よくわからんが、礼儀正しく古き良き名乗りじゃ。満足であるぞ」
ばかにされているような気もしたが、真面目そうな彼女の様子を見るとそうでもなさそうだった。
「長かったの。この都市に隠れ住んではや一年。ようやく、城に戻れるときがやってきたのか」
私とフィリーネがよくわからない顔していると、ヴィンツェン司祭はこほんと咳払いをして説明する。
「嫡男がいなかったゼンケル伯爵領を御年二一歳、女性のみで爵位を継いだベアトリクスさまだったが、親族によりその地位をおわれ現在ではこのような都市の傍らに隠棲を余儀なくされているのです」
女性が後を継ぐとこもできるのか、と私は疑問に思ったが女王の例は古今東西いとまがない。また、親戚同士の後継問題というのも同じく。
「あの教皇を僭称するベルトルド二世を倒し、正当な地位をベアトリクスさまにお戻し仕様ではありませんか!」
部屋に響き渡るヴィンツェン司祭の声。フィリーネはあっけにとられたような表情を浮かべていた――
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