吉作落とし2022

相沢泉見




 気が付くと、穴の底だった。

(一体、どうしてこんなことになったんだ……)

 橋場友秋はしばともあきは、息を呑みながら自分の周りを見た。

 今いるのは、とても狭い空間だ。三十五歳を過ぎ、やや肉がついた己の身体の周りを、高さ十五メートルほどのじめじめした土壁が取り囲んでいる。


 足元に広がっているのは、ほぼ円形の半畳に満たないスペースだった。

 つまり、ここは細長い筒状の空間なのだ。水こそないが、井戸の底のような場所と思われる。

 顔を上げると、高い位置から微かな光が注いでいた。この筒状の空間の出入り口だ。差し込んでくるのは自然光ではなく、人工的なあかりのように感じる。

『思われる』だの『ように感じる』だの……推定ばかりになってしまうが、それは致し方ないことだった。

 橋場は今、自分がどこにいるのか分からない。なぜこんなところにいるのかも分からない。


 ざっ……ざざっ……


 最も分からないのは、頭上から砂が降ってくることだ。

 目を凝らすと、周りを取り囲む土壁の上の方に、一か所小さな穴が開いていた。湿り気のあるべったりとした砂が、その小さな穴から途切れることなく噴き出してくる。

 脛から下は、すでに降り積もる砂の中に埋もれていた。


(一体どうなってるんだ! 俺はなぜ、こんなところにいるんだ!)

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