【短編】美人教師に「バラされたくなかったら言うことを聞きなさい」と脅されてからドロドロの関係になってしまった。
渡月鏡花
第1話 とある進路相談室で
こんにちは。
さっきのクラスルームぶりだね、赤星蓮<<あかほしれん>>くん。
あれ、どうしてそんなに距離を取って座るのかな?
もしかして……副担任である私——青倉さくらに急に呼び出された理由に何かやましい心当たりでもあるのかな?
『そんなことはありません』って、即座に必死になって答えると、余計に怪しく見えるよ。
ふふふ、そんなに堅くならないでよ。
とって食べてしまうわけじゃないんだから……。
ほら、さあ私の隣に座って。
ふふ、緊張しているのかな。
もっと気楽にしていいんだよ。
私と君はそんなに歳だって変わらないでしょ?
だからね、2年A組のクラスのみんなと同じように、私のことは友だちくらいの距離感で接してくれて構わないからね。
むしろ君と仲良くなれたらすっごく——嬉しい。
変に遠慮なんてしなくていいんだよ。
下の名前で呼んでくれて全然いいからね。
じゃあ、試しに『さくら』先生って呼んでみてよ。
それにほら、今だったらこの進路室には私と君しかいないんだよ。
だからなお一層のこと、私のことを『さくら』って気軽に呼ぶことできるでしょ?
『先生は今年24歳?で、俺は17歳だから、7歳差はあるだろ』って?
あーあー聞こえない。
そんな年齢差のことなんて、ちっとも知らないんだから。
こほん、そんなことよりも、本日、今日、この日、7月21日(木)18時に、この場所——進路室にわざわざ君を呼び出した理由について知りたくない?
へー。
『都合の悪い時だけ、話題を変えるな』だって、そんな生意気なこと言うんだー。
だったら、私の方からも君——赤星蓮くん。
ううん、蓮くん。
君に聞きたいことがあるんだよね。
あれ、なんで急に立ち上がったの?
まるで都合の悪いことでもしちゃって、現場から立ち去ろうとしたところで、急に刑事さんに職質をされてしまった人のような焦った顔をしているよ?
ふふ、それともこれまで隠してきた悪事を暴かれそうになっている容疑者の方が適切な表現なのかな?
まるですぐにでもこの場から立ち去りたいかのように見えるんだけど……。
とりあえずのところは、何も悪いことなんてしていないんだって言うんだったら腰を下ろしなよ。
そうそう。
大人しく私の話を最後まで聞いてくれれば何も起こらないから安心してよ。
こほん。
それでは気を取り直して、本題に入るね。
昨晩の21時に誰かがね、2年A組の教室にこっそりと忍び込んだらしいんだよね。
実は帰りのホームルームでその話は伝えなかったけど、今朝、職員室ではその話題で持ちきりだったんだよね。
だって、ちょうど今日が期末試験の最終日だったでしょ?
試験で忙しかったこともあったから、『警察に言って不法侵入の問題に発展して、大ごとにはしたくないんだ』って、校長先生が愚痴を言っていたの。
それに、ほら、この学園一応、名門の中高一貫校として有名でしょ。
だから、ブランドに傷をつけたくないんだと思うよ。
まあ、私も日和見主義なところもあるから、余計なことはクラスのみんなに言わないことにしたんだよね。
だから今日までは、とりあえず期末テストに集中することになったんだけど……。
でも……校長先生のことだから、明日はどうだろうね。
もしかしたら、ホームルームを潰してでも、急きょ全校集会を開くかもしれないね。
そして『生徒の誰かが期末試験中に夜の校舎に忍び込んだ。テスト問題を盗み出そうとした犯人に心当たりのある生徒はいないか?』とかなんとか、大ごとになってしまうかもしれないね。
そのような状況を踏まえてなんだけれども……君に確認したことがあるんだよね。
昨夜、校舎に忍び込んだ人に何か心当たりはないかな?
あれ、君、大丈夫……?
いつもはキリッとした端正なお顔が、今では真っ青になっているよ。
それに、心なしか呼吸も早くなってきているね。
このテスト期間、ずっと夜遅くまで勉強して無理をしちゃって、熱でも出てきちゃったの……かな?
ほら、ここにお水があるから、とりあえずはこのペットボトルでもどうぞ。
ふふ、美味しいでしょ?
あ、そういえば、それ私の飲み掛けのものだったんだけど、お口に合ったようで良かった。
あれ、今度は真っ赤に染まったね。
ふふふ、なんで急にあたふたとしているのかなー?
あ、もしかして……私との間接キスにドキドキしちゃったのかな?
ふふふ、かわいい。
『何を企んでいる、俺を脅しているのか』って?
もちろん、可愛い生徒にそんなことするわけないでしょ。
でもね、君によく似た姿の人が昨晩、なぜか教室に忍び込んだのよね。
私の見間違いだったのかな。
あ、だったら別の生徒にも確認をしたほうがよさそうだよね。
『——っ』
あれ、なんで君がそんなにも悔しそうな表情を浮かべる必要があるのかな。
ふふ、ちょっと追い詰めちゃったかな。
安心してよ、君が忍び込んだなんてことは誰にも言わないよ。
その代わり……忍び込んだ理由を教えてほしいかな。
あれ、黙り込んじゃったね。
君は都合が悪くなると黙り込むのかな。
へー優等生で誰からも慕われる君でもそんな反抗的な目をするんだね?
端正な顔が台無しだよ……?
それとも、もしかしてこっちの荒々しい雰囲気が君の本当の顔なのかな。
ふふふ、そんなに怒った顔しないでよ。
さっきも言った通りだけど、安心して。
君が昨晩校舎でしていたことは誰にも言わないからね。
『忍び込んだことは悪いと思っています』だなんて陳腐な謝罪の言葉が聞きたいわけじゃないんだよね。
なんで夜の校舎に忍び込んだのか、とりあえずはその理由を知りたいかな。
あ、悔しそうに下唇を噛んじゃって、今にでも出血しちゃいそうだね。
ほら、深呼吸でもして、落ち着いてよ。
さあ、吸ってー吐いてー。
もう、せっかく和んでもらえると思ったのに、そんなに鋭い視線を向けないでよ。
『証拠はあるのか』だなんて、よくもこの状況で開き直ることができるね。
もしかして、君って相当ズレている人なのかな。
まあいいや。
ねえ、2年A組の教室に誰にも見つからずに忍び込めるだなんてそんなことどうして思ったの?
っぷ……。
ふふふ、ごめん。
『もしかして、あの時、教室にお前もいたのか』だなんてそんなおバカな質問が、2年生のトップクラスの秀才から返って来るとは思わなかったから、つい笑ちゃった。
そんなに不貞腐れたような顔をしないでよ。
そっか……でも、君でもそんな意地っ張りな表情するんだね。
いつも教室では相談役や冷静なところばかり見ていたから……ふふ……先生、少しドキッとしちゃった。
『いいから、質問に答えろ』だなんてそんな声を荒げないでよ。
ちゃんと答えるから、焦らないでよ。
ふふ、よしよし。
良い子良い子。
あーせっかく、君の頭をなでなでしてあげたのに……叩くだなんて……ぶー。
痛かったんだよ……?
別にそんなに勢いよく手で払い除ける必要ないでしょ。
もう……乱暴なんだからー。
『御託はいらないから、本題に入ってくれ』か……はいはい。わかりました。
コホン。
あの時——君がこっそりと校舎に忍び込んだ時点で、私は2年A組の教室にはいなかったよ。
でも……教室の向かい側にはいたんだよね。
あー今私のことを『お前』って呼んだ。
私、その『お前』呼びは嫌だなー。
そんなおざなりな呼び方じゃなくて『さくら』先生ってちゃんと呼んでよ?
『すみませんでした、青倉先生』か……やっぱり下の名前では呼んでくれないんだね。
案外、君は意地っ張りなんだね?
まあ、今はそれでもいいよ。
でも……ふふ、すぐに呼ぶことになると思うけどね。
『青倉先生は、何をしていたのか』だって聞かれても……単に、今日の世界史の期末テストの最終チェックをしていただけだよ。流石に勝手にテスト問題を自宅に持ち出すことはできないからね。
だから、試験問題の最終チェックをしてから、気分転換のために深夜の校舎を見て回っていたの。そうしたら、面白い——こほん、誰もいないはずの教室に人影を見つけちゃったんだよね。
そう、君が教室から何かを持ち出している光景を見てしまったんだよね。
『今日の世界史のテストの勉強のために、試験範囲のプリントを持ち帰るのを忘れたから、取りに来ただけ』ね……そんなことだったら、友だちにスマホでもコピーでもして、共有して貰えば良かったでしょ。
『クラスメイトに弱みを見せたくない』か……。
うーん、君はちょっと頑張りすぎなんじゃないかな。
私が言うのもおかしいかもしれないけど、もっと、友だちを頼ってもいいんじゃない?
ほら、もっと肩の力を抜いて、ほら、私が肩でも揉んであげるからね。
『や、やめろ』だなんて、そんなにうぶな反応しないでよ?
そんな姿を見ると……私、少し食べたくなっちゃう。
う、うん、単なる独り言。
なんでもないから、気にしないで。
聞こえなかったら、それでいいの……今はまだね。
話を戻すよ。
そもそも、忘れ物に気がついた時点で、学校に電話すれば良かったんじゃない。
きっと残っている先生か警備員が出てくれるでしょ。
しっかりと事情を説明して、取りに来れば良かっただけなのに……なんで君は変に行動力があるのかな……まあ、そんなところもかわいいんだけど。
ううん、最後の言葉は聞こえなかったなら、それでいいの。
ほんとに君は肝心なところでぬけているんだね。
ごめんごめん、揶揄っているわけじゃないよ。
そんなことよりもここからが本題かな。
はい、君にはちょっとだけ罰を受けてもらいますっ。
これは命令ですっ。
『教師が生徒を脅すのか』だなんてそんな人聞きの悪いこと言わないでよ。
私はただ君ともう少しだけ仲良くなりたいだけなんだよ。
だって、君はいつも私のことを避けるでしょ?
君のその態度が……少しだけ、ムカつくんだよね。
自分で言うのもおかしいけど、私、君たち男子高校生から憧れられている存在だってことくらい気がついているんだよ。
『自意識過剰の勘違い教師』か……ふふ、そんな口を聞いていられるのも今のうちだけだから、水に流してあげる。
そうだね……今年に入ってから、5月くらいだったかな。
君の一番の友だち——山田くんからも告白されたことなんだけれども——
あれ、その驚いた表情……もしかして、何も知らなかったみたいだね。
へー君でも親友から隠し事されているんだね。
誰からも信頼されているように見えて、案外、君も距離感を保っているってことなんじゃないのかな。だから、そんなに落ち込んだため息をつかないでよ。
え?『とりあえず、話を続けてくれ』って言ったのかな。
うん。そうだね。
そもそも……新人としてこの高校に着任した6月くらいだったかな。
一度だけ、君にも卒業した3年生の男の子が私に告白しているところ見たことあるでしょ?
あの時のこと、忘れただなんて言わせないよ?
君がちょうど屋上のベンチから起き上がったところで、ばっちりと目が合ったの知っているんだからね。
それなのに、君ときたらそれ以降何故だか、よそよそしくするんだもの。
だから——お仕置きです。
誰にも『君が夜の校舎に忍び込んで、テスト用紙を盗み出した』だなんてことは言わないであげる。
へーあくまでもしらを切るんだね。
でも、『決して、テスト用紙は盗んでいないっ!』だなんて君の言葉を誰が信じるんだろうね。
だって、私が何のためにこのスマホで動画と写真を撮ったと思う?
こんなの今時の技術ならば、簡単に合成できちゃうんだからね。
『それが教師のやることか、犯罪だ』なんて、君が反論できる立場じゃないでしょ?
君だって、十分、犯罪を犯しているじゃない。
夜の校舎に不法侵入しているんだもの。
ああ、その苦痛に歪んだ君の顔……好き。
私——君の端正な顔をぐちゃぐちゃにしたかったんだよね。
ふふふ、これから末永くよろしくね……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます