第1話 用水路から異世界へ!(全裸で)

どうやらここは異世界らしい。

ゲリラ豪雨で増水した用水路に落ちて流された俺は、溺れながら意識が途絶えた。死ぬ。死んだ。そのはずだった。


「どこだココ」


気づくと、広大な草原を雄大に流れる大河の川岸に流れ着いていた。

雲ひとつない晴天に、爽やかな風が吹き抜ける。

生きてたよ。


「あのドブ川から流されて、こんな所に流れ着くか?」


だるい。ずぶ濡れの体を動かしい上がる。河原に寝転ぶ。

??

全裸である。

服は?

完全にすっぽんぽんである。

あれか?裸一貫はだかいっかんここからやり直せ、という神のおぼしか?

空をながめる。高高度を飛行するドラゴンが見える。

地平線には魔物の群れのシルエットがうごめく。

あー、これ。異世界?ファンタジックなやつ。

武器になりそうな持ち物は…ナシ!

装備は…全裸!


ひょっとして魔法が使えるかも。


「ファイア!」しかし何もおきなかった。

「ステータス!」何もおきなかった。


物理で殴るタイプかも。軽くシャドーボクシング。

むっちゃ貧弱なふにゃふにゃパンチ。間違いなく物理タイプではない。


…強力なモンスターが闊歩かっぽするデンジャラスゾーンに、装備も魔法も「なし」で挑めと?フルンで?

こんなとこに説明もナシで放り出すって、ちょっと神様どういうこと?

転生の前説は?せめて初期装備くれよ!


水に濡れてて体はべちゃべちゃだ。

濡れた体に風が吹きつける。

体が冷えたせいか、やたらと眠い。

あー、これ。死んだな。死ぬやつだ。結局また死ぬのか。

幻覚が見えてきた。

あ、これ走馬灯そうまとうってやつだ。

ケンちゃん…ヤマさん…なんで走馬灯にお前らが出てくるんだ。

最期くらい、きれいどころが出てこいよ。ふざけんな。

クッソ、こんなんで死ねるかよ!死にたくねえ!

俺は気力を奮い起こし、果てしない地平線に向けて、叫んだ。


「おい!神様だか何だかわからんが、俺をここに送り込んだヤツ!

こんな何もない大平原にズブ濡れ全裸で放り込むんじゃねえよ!

見てるんだろ返事しろぉ!」


「はーい!」


遠くから返事が聞こえる。女の声…転生の女神様ってやつか?


「お待たせしました!」


上から声が聞こえる!上空か!

天を仰ぐと、ホーキに乗った魔女が空から降りてきた。

なんか思ってたんと違う。


***

脚注 「全裸」

転送されてくるとなれば、やっぱ全裸ですよね!

デデンデンデデン!

服は現地で調達する!

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