佐波黒陽介は行きたい

 平日でもショッピングセンターは賑わいを見せていた。ここは俺たちが通う高校の通学路からそう離れていない場所に建てられているためか、同じ制服を着た者が散見する。

 ここの地域は他に高校生が帰り道に寄れるようなスポットがないから必然的に利用者が多くなるのかもしれない。


 例に漏れることなく俺たちも遊び目的でやってきたわけなのだが、室内に入って分かれ道に差し掛かったとき、一歩後ろを歩いていた汐見から質問がくる。


「で、どこへ行くの?」

「…………さぁ?」


 ハッキリとした返答が俺の口から出てこず、汐見は少々呆れたような表情を浮かべる。

 だって、こういう放課後にクラスメイトと一緒に遊ぶみたいなキラキラ青春っぽい経験全然ないから、本当に困っている。

 普段アイツらはどこに行っている、なんて情報が耳に届くこともないからこれからの目的地を考えることができない。


 どうしようかと頭を掻いていると汐見がもどかしそうに口を開いた。


「じゃあ私が決めるわ! えっと……参考書とか見に行く?」

「行かない。てかそれ何が楽しいんだよ」

「え、勉強方法とか進路のこととか、友達と一緒に話したりしない?」

「しない」


 そもそも俺には友達自体いない。


「これがダメなら……あとは……食材売り場とか」

「は?」

「今日の夕食について――」

「もうお前引っ込んでろ」


 提案を遮ると彼女は何か怒り始めた。だが俺をなめてもらっては困る。俺が一体どれだけ先生から叱られて、どれだけそれを無視し続けたか……。今更、一人の生徒に臆することはない。

 とは言いつつも、汐見の誘いを断り切れていないから今ここにいるわけなんだが。


 とりあえず汐見のセンスに任せるのは良くないと理解した。

 そういえば彼女も友達がいなくて遊びに行けなかった口だったな。もし誘われていたとしても勉強を優先していたに違いない。そりゃこんな奇想天外な場所を思いつくわけだ。


 かく言う俺も経験がないために全くマニュアルが分からない。


 そして残り一人。天都だ。

 汐見にどこへ行きたいか尋ねられても意思表示をしなかった彼女にもノウハウがないと見た。まず、昼休みに教室から離れてひっそりと一人ぼっちで食事をしているところから友達もいないと分かる。


 ……俺たちって案外似た者同士なのか?

 三人寄れば文殊の知恵と言うが、同類が集まったところで相乗効果は発揮されずいい案はでない。そうか……これが三人寄ってもモンキーの知恵か……。


「相手の意見を否定するのなら、佐波黒くんも意見を出しなさい」


 くだらない事を思い付いていると汐見から提案を強要されてしまった。


 だが、ない。

 こういうのはお互いの行きたい場所を赴くままに行けばいいのだろうが……。あぁそうだ、俺が行きたい場所を言えばいい。もちろん自宅は却下されるので、それ以外で。


 彼女らへの斟酌なしに、俺個人で行きたい場所を言えばいいんだ。

 ここで考えあぐねていてもどうしようもない。俺は彼女らに向き直って言った。


「ゲーム見に行く」

「ゲーム? ゲームセンター?」

「違うそっちじゃない。ゲームソフトとかゲーム機売ってるところだ」


 ゲームセンターは騒がしすぎてとても居れたもんじゃない。聴覚機能が衰えてしまう。


 俺が行き先がそこでいいか目で尋ねると、天都は相変わらず目は逸らしつつも首肯した。汐見はというと同意はするものの、新たに質問をしてきた。


「どうしてゲームショップ?」

「俺が行きたいから」

「……あっ、それだけ?」


 汐見は遅れて反応し、俺は頷く。


「ゲーム……。私はあまり……ううん、全然知識がないわ」

「良かったな、新鮮な体験ができるぞ」


 若干嫌みたらしく言うと、汐見は頬を膨らませる。


 それに構わず、二階へ上るため近くのエスカレーターに乗ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る