第28話
遊園地内には色んな飲食店があるが、できるだけ値段が控えめなところにした方がいいだろう。
「ピザでいいかな」
汐見が言う。確かにピザならそれほど値段は張らないだろう。
「じゃあ、ピザの店を探しますか」
店はすぐに見つかった。案の定、他の店よりも値段が安い。店内が空いているので中で食べることを告げ、注文を済ませる。
ピザ一切れとポテト、ドリンクのセットを頼んだ俺は、先にテーブルを探しておいた。番号の書かれたリモコンを手渡されているので、商品の準備ができたら呼んでくれるだろう。
どうやら汐見も同じものを頼んだようだ。
やがてリモコンが小さく振動し、商品の準備ができたことを知らせる。
商品を受け取った俺は、確保しておいたテーブルに座る。汐見もすぐにやってきた。
「それじゃ、いただきます」
2人してピザにかぶりつく。チーズが気持ちいいぐらいに伸びて二人して笑い合う。
食事を取りながら、汐見が言う。
「お昼からはどこへ行く?」
「そうだな。この3Dのアトラクションとかおもしろそうじゃないか」
乗り物酔いする危険はあるが、汐見が好きそうなものを提案してみる。
「私は大歓迎だけど、藤本くん大丈夫なの」
「大丈夫だ。もしまた三半規管をやられたら、その時はまた膝でも貸してくれ。そのご褒美があれば頑張れる」
「もう、エッチなんだから」
「冗談だよ」
汐見が苦笑する。スマホで遊園地のホームページを開きながら、汐見が提案をしてくる。
「あとはこのホラーハウスとかおもしろそうじゃない? あなたの恐怖度を測定しますだって」
「ほ、ほう。確かにそれはおもしろそうだな。要するにどれだけびびったか測定されるってことだろ」
「藤本くんって実は結構ビビりな気がするな」
「そんなことはないぞ。そう言っている汐見こそビビりなんじゃないのか」
「だったらどっちがビビりか勝負しよっか」
「ああ、いいぞ」
午後からの方針を決めた俺たちは昼食を終えた後、ホラーハウスへ向かう。
ホラーハウスは面白い試みの所為か、80分待ちと書かれていた。
「やっぱり人気あるね」
「恐怖度測定なんておもしろいものがあるんだ。そりゃ混むだろうよ」
そんなことを話しながら、待ち時間を過ごす。
80分待ちと言われると長い気もするが、お喋りしているとあっという間に感じるから不思議だ。すぐに俺たちの番が回ってきた。
入口の前で腕輪を渡される。なるほど、これで脈を図って恐怖度を測定するわけか。
準備ができたところでホラーハウスに足を踏み入れる。
中は真っ暗で進路がぎりぎりわかる明るさだった。注意事項で走るなと言われているので、ゆっくりと歩いて進む。
入ってすぐ、墓地が待っていた。青い火の玉が飛び交い、雰囲気がある。
「どこで驚かせてくるか楽しみだな」
「そんなこと言って、本当は震えてるんじゃないのかな」
墓地のエリアでは特に驚かせてくるようなことはなかった。次のエリアは古びた寺社だった。
何かの呻き声が聞こえる。
「何の呻き声だろ」
汐見が震える声でそう言う。
「妖怪とかじゃねえの――」
次の瞬間、俺は固まった。なぜなら物陰からいきなり何かが飛び出してきたからだ。明らかにホラーハウスの仕掛けだった。だが、声を出さずにやり過ごすことはできた。
「きゃああああああああああああああああああああああああっ!」
だが汐見は悲鳴を上げて俺に飛び付いてきた。胸が腕に押し付けられ、その感触を味わう。
ホラーハウスのお化けよりも卑猥なことを考えている自分に辟易しながら、俺は汐見に言う。
「大口を叩いたわりにはビビってるじゃないか」
「だって、思ったよりも雰囲気があって怖いんだもん」
汐見はそう言うと俺の腕を掴む力を更に強めた。
それから先もホラーハウスを進んでいくと、次々とお化け役が現れた。その度に俺は固まり、汐見は悲鳴を上げるを繰り返した。
そうして出口が見えてきた所で、ようやく一息吐けた。
あとは出口付近にいる落ち武者の人形の所を通過すればゴールだ。
「やっと終わりだね」
「短いようで長かったな」
そう言って出口に向けて踏み出したその時、俺は咄嗟に嫌な気配を感じ取った。誰かに見られているようなそんな感覚だ。周囲を見渡し、どこにお化け役が潜んでいるのか考える。だが、結局先を行く汐見に遅れを取るわけにいかず、お化け役の位置を特定できないまま出口へと進んだ。
すると案の定、落ち武者の人形の所を通過しようとしたところで、異変は起こった。なんと人形が動いたのだ。抜刀し刀を振り下ろしてくる。驚いた汐見が再び抱きついてくる。
「きゃああああああああああああああああああああああああっ!」
悲鳴を上げる汐見。俺はなんとか声を出さずに堪えることができた。
ホラーハウスから外に出て、ようやく俺たちは恐怖から解放される。
出口で『恐怖度結果表』というのを配っていた。腕輪を渡し、『恐怖度結果表』を受け取る。
「それじゃあどっちが恐怖度高いか見せ合おうか。高い方が負けだからね」
「おいおい、あれだけ悲鳴を上げてたのに汐見の負けに決まってるだろ」
「ふ、ふ、ふ。それはどうかな」
なにやら自信ありげに不敵に笑む汐見。
「それじゃせーので開こうよ」
「ああ、いいぞ。せーの」
そうして互いに『恐怖度結果表』を開く。汐見の恐怖度は70。俺は……120だった。俺の負けかよ。
「はい私の勝ちでした。残念だったね藤本くん」
にやにやと笑う汐見は満足そうに頷いている。
「なになに。あなたはチワワです。恐怖で固まって動けない。声は出さないけど内心凄くビビっていますだって。藤本くんそんなに怖がっていたんだ」
「むしろ汐見はなんでそんなに低いんだよ。あんだけギャーギャー叫んでたのに」
「叫んでたことがむしろ良かったんじゃないかな」
「てか、内心そんなにビビってなかったのに俺に抱きついてきてたのかよ」
「……あ。それは言わない約束だよ」
なにそれ可愛い。
「それじゃ、罰ゲームなにしてもらおうかなー」
「罰ゲームありなのか」
「もちろんだよ。じゃなきゃ勝負する意味がないんじゃないかな」
どちらにせよ、敗者である俺に何かを言う権限はない。大人しく裁定が下されるのを待っていると汐見がにやりと笑って言った。
「今から1時間、私と手を繋いで回ること」
「え、それが罰ゲーム。恥ずかしいわ」
「いいじゃない。氷岬さんとはあっさり手を繋いだくせに」
「それを言われると弱いな」
口ではそう言うが、内心は汐見と手を繋げることに俺の胸は高鳴っていた。
これは罰ゲームじゃなくてご褒美だ。
「恥ずかしくなきゃ罰ゲームにならないんじゃないかな」
俺は口ごもりながらもにょもにょと言葉を紡ぐ。
「わ、わかった。じゃあ、ほら」
「うん……」
汐見はそう言うと体を震わせて顔を赤く染めた。
「私まで恥ずかしい。これは藤本くんの罰ゲームって言うより2人の罰ゲームだね」
「そうかもな。それで、次はどこへ行く?」
「そうだね。さっき言っていた3Ⅾのアトラクションに行ってみようよ」
それから俺たちは時間の許す限りアトラクションを楽しんだ。
日が落ちて、園内もそろそろ閉演の時間が近付いてきた。丸一日遊んだのでへとへとだ。汐見はまだ元気が有り余っているようだが。
あとは本日のメインディッシュ。観覧車に乗ることだけだ。俺はそこで汐見に告白する。
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