催眠術かけたら妊娠した話
初月・龍尖
催眠術かけたら妊娠した話
「ライターの火を見ててくれよー」
女がさんにん集まって姦しいと言うくらい男がさんにん集まってもうるさいのには変わりない。
適当な理由をつけて集まってはバカなことをする。
それがさんにんの楽しみだった。
そう、楽しみだったのだ。
今日まで。
「おおお!」
横で見ていた
「確かめてみるか。織手、右手を挙げて」
南指世の命令に対して織手はゆっくりと右手を挙げた。
それを見て南指世と刈羽は顔を見合わせ、慌て始めた。
「マジか、マジでかかったのか。えっと、解く方法、解く方法……」
南指世は解除方法を求めて本をめくり始める。
刈羽はいろいろと織手に質問をして遊び始めた。
好きな食べ物からはじまり浴びせるように質問を続け好きなエロ漫画のシチュエーションに辿り着いた時、横から手を三度叩く音がして気が付いたら南指世の顔が刈羽の目の前にあった。
「刈羽? 大丈夫か?」
「あ、ああ。織手の催眠術は?」
「たぶん解除できたはずだ。織手、聞こえるか?」
南指世の声に織手はうめき声をあげた。
「う、気持ちわる……」
そう呟いて織手はよろよろとトイレの方に歩いて行った。
「副作用かな」
「気分的な問題だろ」
すっきりした顔をして戻ってきた織手は「先に帰る」と言ってさっさと帰っていった。
その夜から織手は異様に口がさみしくなった。
なんとなく食べ続けていたいと思った。
朝食を、昼食を、夕食を、夜食、間食。
際限なく食べ続けた。
体重はあまり増えなかったがその代わりにへその辺りがぽこりとふくらみ始めた。
ただの食いすぎだろうと軽く考えていた織手だったが家族からしたら見過ごすことができないほどの食事量になっていた。
過食症を疑われ強制的に病院を受診させられた。
血を取られ身体を輪切りされ下った診断は”想像妊娠”だった。
子宮のない男がどうやって想像妊娠へと向かったのか先生からいろいろと質問されたが織手本人はどうにも心当たりがなかった。
日に日にふくれてゆく腹となんとなく張っている胸。
閉鎖された病室に隔離された織手は面会を謝絶されひとりもんもんとしていた。
自分が愛おしいのだ。
自分自身を性的な対象として見ていると理解した時、大きく叫んで暴れてしまった。
そのせいで暴れないように器具で動きを制限された。
ふくらんだ腹から立った自分のアレを見ることはできないけど織手の感覚的にはアレは立ちっぱなしのはずだ。
しばらくして乳首からは母乳と思しきものがたれるようになった。
それもまた織手のアレへ燃料を注入することとなった。
点滴から栄養を取り母乳をたらし立ちっぱなしのアレは白い液を流し腹はどんどんとふくれてゆく。
誰か止めてくれと織手は叫んだ。
発狂するたびに鎮静剤を打たれ、時間は非情に流れた。
十月十日。
いつから十月十日なのかわからないけれども織手は出産の時を迎えた。
子宮も膣も女性でないため持ち合わせていない織手はどこから出産するかその答え合わせはある朝唐突に起こった。
織手が目が覚ますと腹はぺしゃんこにつぶれており裂けたアレが目に入った。
なぜか痛みはまったくといっていいほどなかった。
そして、腹の上には幼女が丸くなっていた。
その幼女には織手の推しキャラの面影があった。
織手と推しキャラが子作りしたらこうなるだろうなと妄想した幼女。
幼女の頬に手を当てるとあたたかくぷにぷにとした感触が返ってきた。
織手は幼女の名を呼んだ。
いつも妄想の中で呼ぶ名だ。
目を覚ましてほにゃと微笑む幼女を見て織手も笑顔を作った。
幼女が見えるのは産んだ織手自身だけだった。
織手の男の証明であるアレは完全に機能を失い織手は病院の住人となった。
時が進み織手が成長すると幼女も成長した。
成長した幼女から織手は真実を教えられた。
ただ、織手はそれを受け入れられるほどの現実への興味をもう持ち合わせていなかった。
彼女とふたり静かに暮らすことができればそれでいい。
織手は愛する娘と共に閉じたセカイで静かに、静かに暮らしたいと考えていた。
たとえそれがフラスコの中でも構わない。
永遠に開かれることのない栓の閉じられたフラスコであったとしても。
催眠術かけたら妊娠した話 初月・龍尖 @uituki
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