他ガ為ノエトセトラ

初月・龍尖

他ガ為ノエトセトラ

 

 むかしむかしおおむかし、ある男が死にました。

 男は箱庭職人でした。

 男の作る箱庭は引く手あまたでした。

 命の尽きるその時まで男は箱庭を創り続けました。

 しかし、最後の作品は完成を迎えることなく男は息絶えました。

 創りかけの箱庭に残されたのは命を吹き込まれた勇気ある者とその敵である大サル。

 大サルは叫びました。

「セカイを破壊出来ないなんてこんな所にいたくない」

 勇気ある者は叫びました。

「セカイを護る事のできないこんな所にいたくない」

 大サルが箱庭を飛び出しその後ろを勇気ある者が続きました。

 大サルは別の箱庭に入り込み破壊の限りを尽くしました。

 勇気ある者は大サルを追って箱庭を護りました。

 

 

 破壊者である大サルはいくつもの箱庭を渡り歩きそのちからと配下を増してゆきました。

 それを追う勇気ある者もいくつもの箱庭を渡り歩きました。

 ふたりの辿った路は交易路となりいくつもの箱庭を繋ぎました。

 箱庭が繋がれば繋がるほど大サルのちからと勢力は大きくなりました。

 一方、勇気ある者は決断を迫られました。

 ちからを、勢力を増す大サルに対して大きなちからを持つのは勇気ある者ひとりだけだったのです。

 それでは大サルに勝つことはできない。

 そこで勇気ある者はそのからだを砕き今まで通ってきた箱庭に流星のように降らせました。

 そのおかげで勇気のちからを宿す者が多くの箱庭で産まれました。

 勇気のちからを得た者は”勇者”と呼ばれました。

 最初は小さなかけらだったちからを勇者は自らを鍛え自分自身のちからへと昇華しました。

 何度も襲い来る大サルからの刺客を退け、別の箱庭と交易しそれぞれの箱庭は成長をはじめました。

 勇者は次の勇者へとちからを引き渡し鍛え続けました。

 大サルも黙って見ていた訳ではありません。

 勇気ある者のちからを宿した赤子をさらい自らの血で育てました。

 勇者たち率いる軍勢と大サルの軍勢はついにぶつかりました。

 それは血で血を洗う大戦争となりました。

 

 

 箱庭職人の男が死んで誰もいなくなったはずのアトリエから笑い声がしました。

「箱庭が繋がって楽しいモノが見られた。死んだかいがあったってもんだ」

 放置された創りかけの箱庭の中で死んだはずの男が酒杯を掲げて細やかな祝宴をあげていました。

 男の目の前には勇者たちと大サルの最後の戦いが映っていました。

 

 

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他ガ為ノエトセトラ 初月・龍尖 @uituki

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