第22話 サークル歓迎会
開始の音頭を取ってくれた人はやはりサークルの代表者だったらしく、彼女がみんなの注文を取りまとめて店員さんに伝えた後、俺たちは指定された席に移動した。
天使と別れてしまったのは少し残念だが、ここに来たのは友人作りのため、なるべく多くの人と接することは悪くないだろう。
基本的にテーブルごとで交流を図る設計になっているらしいので、俺もそれに従うことにする。
……まあ、そんな気はしていたのだが、見事に俺のテーブルには女子ばかりが集められた。というより、一年生で男子と一緒になった女子はいないっぽい。先輩方が男子を狙っているのがわかる。
それぞれのテーブルで自己紹介タイムが始まる。うちも一人の先輩が進行してくれて、各自、自己紹介を始める。
「それじゃあ、自己紹介! 私は文学部二年の
「はいはーい! わたしは教育学部二年、
「法学部二年、
「明らかに配席間違ってるでしょ! ナオさんばっかじゃないですか!」
なんでこの三人を同じテーブルに着かせたんだ! そしてなんで三人とも下の名前で呼ばせようとするんだよ!
「そう言われてもねー。名前も配席も私たちが決めたわけじゃないしー。そんなことより、あなたの番だよ!」
「……工学部一年の神田遥です。タダ飯を食べに来ました」
「あはは! 正直者だね神田くん。それにしても君、ちょっと
「セクハラですよそれ」
「えー、いいじゃん! 女同士なんだしさ!」
「だったら僕を女の子扱いしてくださいよ」
「僕っ子。いい。すごくいい。キュンときた」
まずいなあ、肉食系しかいないよここ。先輩方の目が皆揃ってギラギラしてる。ひとまず距離だけは確保する。
「おっ。ドリンク届いたよ! それじゃあ神田さんには、はい!」
「いやこれお酒じゃないですか。僕が頼んだのはコーラですよ」
「あはは、ごめんごめん。間違えちゃった!」
絶対わざとだ……俺はもしかしたら、サークル選びを間違えたかもしれない。
「神田さんはさ、身長も高いし前からバスケしてたの?」
身長が高いというのは女子としては、だ。俺の身長は男子の平均のそれだ。
「いえ、授業でしかしたことないですし、先ほど言った通りタダ飯目的なので興味もないです」
「私も興味ない。一緒。仲間だね」
「じゃあなんで所属してるんですか……?」
「楽しいから。それだけじゃ、ダメ?」
そんな理由でサークルに所属することも可能なのか。高校までならありえなかったことだ。
俺はカルチャーショックを受けながら、「ダメではないと思います」と適当に返す。
「ほら、神田さん! タダ飯目的ならたくさん食べないと! なに食べる? わたしのオススメはねー」
「あ、お任せしてもいいですか? 先輩のオススメを食べてみたいです」
「おー可愛いこと言うね! おっしゃー先輩に任せて! すみませーん!」
一つのメニューを共有して注文を考えるのは面倒だと思い、注文を先輩にぶん投げると、先輩は喜んで注文するために店員さんを呼び出す。
「ねえ、神田さんって彼女いるの?」
「それを言うなら彼氏では?」
「だって神田さん、かっこいい系なんだもん! この世界、数少ない男子を争うより、かっこいい女子と付き合う女子なんてたくさんいるからね」
それは……仕方のないことなのかもしれない。もしかしたら、この世界では同性婚が許されているかも……いや、どうだろうか。出生率は増やしたいだろうし、男同士で結婚されたら政府としては目も当てられない。
「それで、どうなの?」
「彼氏も彼女もいませんよ。それと僕の恋愛対象は男です」
「えー、なんでさー。女子同士もいいよ?」
「教えてあげる。女子同士の良さ。おいで?」
「大丈夫。私たちがリードしてあげるからさ!」
「結構です!!」
じりじり近寄ってくる先輩たちを強く拒絶すると、唇を尖らしているが、案外素直に三人とも退いてくれた。
さて……他のテーブルはどんな感じだろうか。
左隣のテーブルを見てみる。
天使さんがいるところは女子だらけで、賑やかにやっている。彼女の性格だ、どんなメンバーでも盛り上がるだろう。
反対側を見てみると……おっ、男子がいるテーブルだ。彼の容姿は、茶色に染めた短髪の好青年だ。一見盛り上がっているように見えるが、テンションが上がっているのは女先輩ら三人で、その男子は先輩らの勢いに少し気圧されている。
「有紀くぅん。有紀くんは、年上は好きじゃないのかなぁ?」
「はぁ、筋肉質な体。素敵! やっぱり力強さが違うのよねー」
「えへへへへよく来てくれたね歓迎するよサークルに入らなくてもいいから私と繋がろうよ色んな意味で」
「あ、あはは……」
彼は苦笑を浮かべるだけで、抵抗しようとしない。あれだけ囲まれてしまったら、抵抗する気も起きなくなってしまうのだろう。
俺のテーブルの先輩らも「あらら」と声を漏らしながら、隣のテーブルを見ている。しかし止めようとはしない。もしかしたら、隣の先輩らの方が年上なのかもしれない。
そういえば、隣のテーブルの先輩らの一人は音頭を取っていた人だ。やはりサークルには権力というものがあるのだと思い知らされる。
どうしたものかと考えていると、料理を手に持った店員さんがやってきた。
「お待たせしましたー。ポテトチーズ餅、ポテトサラダ、フライドポテトをお待ちのお客様ー」
ポテト系頼みすぎだろ。
心の中でツッコミを入れるが、誰も皿を受け取ろうとしない。うちのテーブルの先輩も反応していないことから、うちの注文ではないらしい。その被せ具合は被らないのか。
店員さんは困惑した様子で、料理皿を持ったままキョロキョロしている。
申し訳ない気持ちになり、とりあえず俺が受け取ろうと思い立ち上がる。
「すみません、僕が受け取ります」
「あ、ありがとうございます! これ三皿同時に持てますか……?」
「う、うーん……お姉さんも持てていますし、頑張ります! けど、ちょっと協力してもらっていいですか?」
「っ……は、はい! なんでも言ってください!」
「いやそこまで張り切ってもらわなくても……えっと、ゆっくり僕の手に移してもらって……」
店員さんに慎重に自分の手へ皿を移してもらい、無事三皿持つことができた。
「ありがとうございます。それでは」
「あ、は、はい! わたしこそありがとうございます!」
すごい感謝された。めっちゃ困ってたもんなあ。新人さんだろうか。良いことをしたみたいで気分がいい。
しかし、目下の問題がまだ残っている。先輩らに囲まれてしまっている男子学生のことだ。
もしかして俺は今、突破口となる武器を手に入れたのでは? そう考えた俺は、皿を持ったまま隣のテーブルに突撃する。
「センパーイ。このポテト盛り盛りセット頼みましたかー?」
「あん? あぁ、私たちのだ。来てたんだ、ありがとう」
「そこらへんに置いといてー。……あれ、君かっこいいね。一年生? ……女?」
「はい。一年生で女ですよ」
「男じゃないならもういいよ自分のテーブルのところに戻ってそんなことより有紀くん私と一緒に抜け出そうよいいこと教えてあげるからさ」
男ではない俺に用はないみたいで、冷たくあしらわれてしまう。
その冷たい態度に、流石の俺も恐怖を覚える。特に最後の人からは狂気を感じる。あまり関わりたくはない……が、俺がなんとかしないと有紀ってやつはこのまま先輩らの餌食になってしまう。同じ男として、見捨てるわけにはいかない。
俺は勇気を出して、このテーブルに居続けることを決意する。
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