第92話 影の中

庭の隅に、夏の影が落ちた。風のざわめきと雲の旅、掌に満ちる光。幼児の記憶はまた一つ遠くなり、人恋しさが無性に募る。今は会えないあの人が、落としていった影法師。夏になるたび匂いを放ち、忘れることすら許してくれない。あの日捲ったページの続きに何が書いてあっただろう。影の中で思い出す。

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