SS 安部
ワシは安部広信。
大企業に勤めるしがないサラリーマンだ。
趣味でキャンプをしている。その趣味が行き過ぎてしまった結果が、ワシの今の生活状況なのだが、車も家もガレージもキャンプ用品で溢れ返っており、寝ても覚めても キャンプの事しか頭には無い。
妻と離婚してから、どのくらい経っただろうか、妻と別れた直後は慰謝料などで金欠になっていたが、そこは大企業に勤めており高給取りだったから、一年後には元通りのキャンプ狂いに戻っていた。
バツイチになった事で、結婚していた時より趣味にお金を使うことも出来ており、ガレージの改装にも金を注ぎ込むことが出来た。
ガレージの改装を計画していたのと同じ頃に、元上司から魅力的な提案をされてしまう。あの上司は、何処でワシのガレージ改装計画を知ったのか、知り合いの工務店に見積もりを出した次の週には電話がきていた。
「もしもし、安部君、チロシです。覚えてるよね」
覚えてるも何も、十年以上は貴方の元で働いてきましたから、声を忘れるはずないですよ。
「だよね。ちょっと小耳に挟んだんだけどさぁ、安部君の家のガレージを改装するの?俺も手伝おうか?俺の手伝いをしてくれたら、俺が建ててもいいけど」
えっ、チロシさん、それは何か裏があります?
「無いよ、何にも無いよ、あるとすれば安部君の趣味に関しての事かな」
私の趣味に関して関係があると言えば……
「そうキャンプだよ。キャンプ俺にキャンプの仕方を教えて欲しいんだ。それも一人前になった後も、俺の手伝いをしてくれると助かるんだよね」
少し待って下さい。話を詳しく聞かないと判断が出来ません。
「安部君、詳しくは後日に会ってから話をしようか」
そうして頂けますと助かります。
~*~*~*~
そんな、そんな破格な条件で、この見積り書が現実になるのですか?
「そうだよ安部君、役員を辞めたとは言え、親族経営の色を強く残している会社だからね。俺が少し無理を言っても大丈夫なんだよね」
くっ、ワシが考えて引いた図面より、こっちの図面の方が素晴らしい出来だ。
「そして、その図面を基にして作ったのが、この建築模型だよ」
ぐうの音も出ないとはこの事だな。逃げ道が、逃げ道が無くなる。
「これが建ったら素晴らしいだろうね」
そりゃ、楽しいでしょう。自分で考えてた物ですからね。素材から図面まで、全て自分でやったのに、この人は親族の力を使い、ワシの苦労を嘲笑うかの様に、ワシの考えた上を行く。これが金持ちと平民の力の差なのか……
分かりました。これを参考にして、ココとココに追加で部屋を作らせてくれれば、私はチロシさんに協力しますよ。
「それって、予算オーバーにならないかい?」
チロシさんなら余裕でしょうに。
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