SS チロシ
チロシは裕福な家庭に生まれ育ったせいか、贅沢な生活を送っていた。
実家から親から譲り受けた別荘へと引越し、そこで自由気ままに過ごしていたのだが、ふっと何を思ったのか親の会社の役員を辞めると、家に引き篭もるとエーチュウバーに転進してしまう。
親からは毎日の如く、電話がなるがチロシは電話にも出なかった。そんな事が半年も続くと、親も匙を投げだし、親族からは連絡が途絶えていた。
そして、役員をしていた時の直属の部下を休日にバイトで雇い、プロチューバーの活動を本格的に始めだし、キャンプチャンネルを開設する。
それまでチロシはキャンプなどした事がなかったが、役員を辞めてから既に5年の歳月が彼をベテランキャンパーに育て上げていた。
そして、あの日も部下で年上のバツ一の安部君と年下で愛妻家の安田君を引き連れ、キャンプの取材をしに遠くの現場まで取材に来ていたのだ。
チロシは役員を辞めたが、その会社の株の15%を保有している。だから、創設者一族の一員として、会社の人間を顎でこき使っていた。
15%の配当金だけでも生活は出来るが、贅沢は出来ないのだから、チロシも働かなければならなかったのだ。
年上の部下の安部君は若い時から、キャンプをする程の実力者だったのだ。その安部君の指導もあり、トライ&エラーを繰り返してチロシはベテランキャンパーに育っていった。
そして群○県の○○市にあるキャンプ場で事件は起こってしまう。
いきなり霧が立ち込め、直ぐに視界不良に陥ってしまう。安部君は「こんなの山では日常ですよ」と鼻で笑っていたのだが、その安部君の笑い声が急に消え、安田君の姿も消えていたのだ。
俺は霧の中で歩き回る危険性を安部君から聞かされていたので、その場で霧が薄くなるのを待っていたが、一向に霧は晴れる兆しはなく、どんどん霧が濃くなる一方だ。
チロシは焦りを覚えてか、安部君、安田君と部下の名前を呼んでいたが、二人から反応はなかった。
二人を探していたチロシの耳に、チョロチョロと水の音が聞こえてきたのだが、この近くには川や水場は無い。
チロシは水の音を聞くや不安に苛まれる。
そして、チロシは意識が薄れている事にも気が付かずに、その場に崩れてしまった。
そして……
気が付けば、そこは見知らぬ土地であった。
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