大神(冒頭抜粋)

水嶋 穂太郎

第1話 プロローグ(のみ)

 昔々あるところに――


 神木(かみき)村という名の小さな村があったとさ


 そこは美しい桜の木々に囲まれ――


 その一本一本を神さまの木として祀る静かな村じゃった



 ……じゃがこの神木村には、ある一つの悲しい風習があった


 古い祠に棲む怪物、『ヤマタノオロチ』を鎮めるため――


 毎年、祭りの夜に、若い娘を生贄として捧げていたのじゃ


 山ほどもある大きな体に、丸太のように太い八本の首――


 血のように赤い目は、見るだけで呪われると言われ――


 ……誰一人としてこの怪物に逆らう者はおらんかった



 その生贄の祭りが近付くと――


 決まって村外れに現れる一匹の白いオオカミがおった


 『白野威(シラヌイ)』と名付けられた雪のように真っ白なそのオオカミは――


 山や森へ向かう村人を遠巻きに付け回したり――


 皆が寝静まった夜に村の中を歩き回ったりするので――


 生贄を品定めするオロチの使いとして気味悪がられておった



 村人の中には、この白野威を追い払おうとする者もおり――


 『イザナギ』という剣士は自慢の剣術で何度も挑んだのじゃが――


 白野威は風のように素早く、傷一つ付ける事が出来んかった



 そして……ついに忌まわしい祭りの夜がやって来た


 生贄を召し取る合図の、白羽の矢が――


 天を貫き、村のある家の屋根に突き立てられる


 ……それは『イザナミ』という神木村、一、美しい娘の家じゃった


 イザナミに密かな想いを寄せていた剣士イザナギはこれに怒り――


 今年こそヤマタノオロチを退治すると決心を固めて――


 イザナミの身代わりとなって、オロチの棲む祠へと向かうのじゃった



 冥府へ続くかのような暗闇を湛えた、オロチの根城『十六夜(いざよい)の祠』


 イザナギが、その洞穴の前に立つと――


 目を真っ赤に光らせた八本の首が、舌なめずりをしながら現れた


 何年も生贄を召し取って生き続ける怪物、ヤマタノオロチじゃ


 イザナギは弾かれたように飛び出し、オロチに斬りかかった


 月明かりも乏しい中、必死で剣を繰り出すイザナギ


 ……しかし鋼のようなオロチの体には傷一つ付ける事が出来ない



 やがてイザナギは万策尽き――


 がっくりと膝を突いてしまった


 絶体絶命の、その時じゃ


 一匹の獣がイザナギを庇うように躍り出て――


 オロチの前に、立ちはだかった


 闇の中で、薄ら光を帯びた白い体――


 それは神木村の外れに住み着いていたあの白野威じゃ


 白野威が牙を剥いてオロチに飛び掛かると――


 オロチも八本の首をもたげて喰らい付く


 二匹の人ならぬ物は、もつれ合うように猛然と争い始めた



 ……じゃが、その戦いは何とも不思議な光景じゃった


 オロチが白野威に向かって火を吐くと、突風が吹いてこれを押し返し――


 オロチの鋭い牙が白野威に迫ると――


 突然、大木が生えて、これを遮った


 不思議な力に守られて、オロチと互角に戦う白野威


 じゃが……、それでもオロチの力には敵わない


 白野威は全身に傷を負い、白い毛並みは真っ赤に染まっていった


 白野威は疲れ果て、もはや立っているのがやっとじゃった



 オロチの牙が、ふらつく白野威を追い詰める


 それでも白野威はオロチに背を向けず――


 最後の力を振り絞り、天に向かって遠吠えをした


 すると……空を覆っていた暗雲が、忽(たちま)ち消え失せ――


 月明かりを浴びたイザナギの剣が金色の光に輝き始めたのじゃ



 それまで岩陰で機会を伺っていたイザナギは――


 剣に導かれるように立ち上がった


 そして傷だらけの両腕に最後の力を込めると――


 オロチに向かって、猛然と飛び掛かって行ったのじゃ


 イザナギの手の中で踊るように翻(ひるがえ)る金色の剣


 その眩い光が煌めくたびに、オロチの首は次々と宙に舞い――



 ついにこの怪物は、自らの血だまりの上に崩れ落ちた


 長年、村人を苦しめた元凶が、最期を迎えた瞬間じゃった


 ……戦いが終わった頃には、辺りはすっかり白んでおった


 白野威はオロチの毒が全身に回って、息も絶え絶えじゃったが――


 イザナギはそんな白野威を抱きかかえ村人の待つ神木村へと帰って行った



 村へ着く頃には、白野威はもう自分で動く事も出来なんだ


 村人たちが見守る中、村の長老が優しく頭をなでてやると――


 白野威はそれに応えるように、小さくワンと鳴き……


 ……そして眠るように事切れたのじゃった



 ……こうして神木村にやっと平穏な日々が訪れた


 村人たちは、白野威の立派な働きを称え――


 村の静かな場所に社(やしろ)を建て、そこに白野威の像を祀った



 ……そしてイザナギの振るった剣を『月呼(つくよみ)』と名付け――


 十六夜の祠に供えていつまでも平和を祈り続けたという


 永遠に変わらぬ、平和な日々を……





 ところが物語はここでは終わらん


 実はこのお話には誰も知らない続きがあるのじゃ


 白野威とイザナギの活躍から百年の月日が過ぎた頃じゃった


 それは、アッという間の出来事で、村人は誰一人、気付かなんだそうな




 @ @ @


 応援コメントやお星さまは、「大神」に対するものとさせていただきます。


 プロローグでこんだけ面白そうなんだから、本編はどうなんでしょう。

 ワクワクが止まりませんな!


 続きが気になった方はぜひ、大神をプレイしてみてください。



 公式:

 https://www.capcom.co.jp/o-kami/

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大神(冒頭抜粋) 水嶋 穂太郎 @MizushimaHotaro

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