第8話

 戦争が行われたフィールドから捕虜の回収車が出て数時間後、パラミシアの街に到着した。

 ちなみに負傷者は別の車でマトカが運営する病院に運ばれている。負傷者は治療が行われてからの捕虜収容となる。


 空には月が上り、雨雲はすでに去っていた。回収車は窓が塗りつぶされている。運転席と後部座席の柵もカーテンで目隠しされ、どこをどう走ったのか、街並みはどんなものか捕虜には見えないようになっていた。


 パラミシアの街は、夜でもカラフルと分かる色に満ちた街で、木組が特徴的な、メルヘンチックな家が並んでいた。出窓には花が飾られ、道路は石畳になっている。街灯はレトロな作りで温かな明かりを灯していた。

 川に沿って並木があり、車はその道をゆるゆると走った。人の姿はどこにもない。まるで空っぽの玩具箱のようだ。


 天使の像が可愛らしい噴水のある広場まで来ると、2台の回収車は1階が駐車スペースとなっている大きな建物に停車した。駐車スペースでしばらく待つと、作動音がして、地面が下がっていく。地下に降りているのだ。

 下降装置が完全に停止すると、車は再び走り出す。数分走ってまた停車する。と、待ち構えていたパラミシア兵が後部ドアを開けて、順番に捕虜を下ろし始めた。

 

 2台に分乗していた捕虜を、男女別にして2列に並ばせる。男は5人。女は7人だ。その時になって、ロットワイラーはレイと再会し、ルナはカリーナの存在を知った。

 ルナの前に並ぶカリーナは怯えているのが傍目に見てわかるほど、ブルブルと震えている。


「男はこっちだ」


 パラミシア兵の1人が言って、レイ、フェン、カロスを含む5人を連行していった。

 カロスは憚ることなく、連行される間、キョロキョロと辺りを見回していた。1番後ろを歩く、パラミシア兵がそんなカロスに気付く。


「お前らの穴蔵とは違うだろ」


 マシンガンを小脇に抱えて、そう声をかける。


「相当入り組んでそうですね~」


 臆面もなくカロスは答える。あるいは楽しそうとも言えるその様子が気に食わなかったのか、パラミシア兵はマシンガンをカロスに向けた。


「キョロキョロしてないで、さっさと歩け!」


「バカ、目立つな」


 パラミシア兵には怒鳴られて、カロスの後ろを歩いていたフェンにも小声で注意された。


「了解~」


 果たしてカロスがどちらに返事をしたのかはわからなかった。

 細い通路といくつかの小部屋を下って男たちが連れて行かれたのは、鉄の扉が並ぶ牢獄エリアだった。

 壁や通路は補強はされているが、土のままだ。湿っぽいのかうっすらとモヤがかかって見える。


「こっちだ」


 パラミシア兵に先導されて男たちは進む。途中、開けた空間があり、そこの壁の片側だけが鉄で覆われており、手錠が取り付けられていた。レイたちはそれを横目に、素直にパラミシア兵に従った。通り過ぎる扉からは、人の息遣いが漏れ聞こえている。


「止まれ、パラミシアホテルのスイートルームに到着だ」


 先頭のパラミシア兵が言うと、最後尾のパラミシア兵がヘッヘと笑った。


「1人ずつだ」


 扉を開け、1人目のドックタグを引き出し、ポケットから取り出した端末で読み込む。


「よし、次」


 順番にドックタグが読み込まれ、カロスの番になった。ドックタグが乱暴に引き出される。


「ふん、ホセ・マルチネスか」


 タグが読み込まれ、カロスが部屋に入ろうとすると、後ろで待機していたパラミシア兵がそれを制止した。回収車に乗り込む時に腰のポケットからプロテインバーのゴミを探り当てた男だ。


「マルチネス、お前はこっちだ」


 カロスは手錠をつけられた不自由な手で、オールバックに固めた頭を掻きながら、従った。


「生意気なお前は、特別待遇だ」


 パラミシア兵はニタリと笑い、作業を進めた。

 最後の1人のタグを読み込み、牢獄に入れると、2人のパラミシア兵は、マルチネスこと、カロスを連れて、今来た通路を戻って行く。


「俺ぁ、早く女捕虜の房に行きてぇぜ」


 ゲヘヘっと下卑た笑いが響く。


「今日に限って男の担当なんてついてねぇな」


 ビジュアル重視のパラミシアで、決して戦場へは出されそうにない男2人がぶつくさと文句を言っている。


「仕方ねぇよ、今日はこのマルチネスをたっぷり可愛がってやろう」


 そう言って、先ほどからやけにカロスに執着を見せるパラミシア兵が小さな濁った目を向ける。

 一行は、先ほど通ってきた手錠が壁に取り付けられた空間に来た。薄暗くて見えにくいが、壁や床には血の跡が残っている。


「さあ、お前はこのアトラクションに乗れる幸運な1人だ」


 背の低いパラミシア兵は床に唾を吐くと、カロスの首を掴んで跪かせた。見下ろせるようになったカロスの顎をグイと掴んで顔を上げさせる。


「俺ぁ、お前みたいな顔した奴が大嫌いなんだよ」


 カロスの整った顔とパラミシア兵の醜い顔を見比べると、なるほど、コンプレックスを抱いても仕方がないと納得する。


「お前も、飽きねぇなぁ」


 相棒はタバコを取り出して火をつけた。煙を天井に吐き出す。

 ヘヘッとパラミシア兵は返事を返し、カロスの手錠に手をやった。そこからすっぽりとカロスの手が抜ける。一瞬、何が起きたかわからない様子で、パラミシア兵はその手錠を見つめた。カロスの手から音もなく、針金が地面に落ちた。異常な状態に気づかないまま、もう1人は肺いっぱいに吸い込んだ煙を天井に吐き出している。


 立ち上がる力を利用して、カロスは下からパラミシア兵の顎に掌底を喰らわした。鈍い音を立ててパラミシア兵が倒れる。その音でタバコを吸っていた兵士も気付いたが、既に遅かった。カロスに首を捻られ、骨が折れる音がした。


 カロスは倒れた兵の服を弄り、牢の鍵を探し出すと、仲間の閉じ込められた扉を開ける。と、既にフェンは手錠を外しており、レイの手錠の鍵を開けているところだった。


「さっすが~!」


 カロスが言って、口笛を吹くと、フェンはニッと口の端を持ち上げて笑った。一気に人相が悪くなる。メガネが無い分、余計に人相が悪くなっている気がする。


「私の遺伝子は関節から書き換えられている」


 見ると、フェンの手錠は鍵が開けられた形跡は無く、嵌められていた時の状態のまま地面に置かれていた。


「やっぱり、あなた方はSの……」


 共に連行された2人の一般兵が恐る恐る声をかける。手錠を外してもらったレイは彼らを見た。


「俺たちには別の任務がある。お前たちの面倒は見れないが、どうする?」


 一般兵は顔を見合わせた。


「どうするって言われても……」


「ここから出ても、オレたちだけじゃ脱出できない」


 2人の一般兵は到底、Sの3人についていけるとは思っていない様子だった。

 レイたちは2人を残して牢獄を出た。Sと違い、破格の身体能力も技術もない彼らは、牢を出たところで撃ち殺されるのがオチだろう。懸命な判断だと言えた。その先にカロスが受けるはずであった拷問が、彼らに降りかかろうとも、死ぬよりはマシなのかもしれない。


 * * * *


「お嬢様方はこっちだ」


 銃を構えたパラミシア兵が1列に並ばせたルナたちを連行する。男たちとは全く別の方向だ。


 ルナは気づかれないように辺りを観察しながら素直に従った。地下都市を建設した当初のままなのだろう。壁や地面は土のままで壁紙やタイルなどは使われていない。掘り進めたまま整えることもなく、通路や部屋には角と言うものがなかった。

 まるで巨大なアリの巣である。電気は通っており、裸電球が並んでさげられている。可愛くあしらわれていた地上の都市とはかなりのギャップがある。


 カリーナは怯えて、足がうまく動かない様だった。膝の力が抜け、バランスを崩す。倒れはしなかったが、足が止まった。


「しっかり歩け!」


 パラミシア兵が銃を構えて脅す。カリーナは潤んだ瞳をグイと拭って、鼻を啜りながら、再び歩き始めた。


 7人の女捕虜が連れて行かれたのは、ガラス張りの個室が設置された部屋だった。土が剥き出しの空間に角ばったガラスの小部屋が設置されている光景はなんとも異様だ。

 アンバランスな光景にいっそ芸術性こそ感じられる。どうやら短く細い通路で繋がった右隣の部屋も、左隣の部屋も同じような作りになっているらしい。


 ガラス張りの個室には1人ずつ監視のパラミシア兵がいるが、どれも男だ。連行してきたのも男で、ここには女のパラミシア兵がいなかった。


 ガラス張りの部屋には5つの椅子が並べられ既に3人の女が椅子に座らされていた。今日以前の戦争で捕虜になったピリンキピウムの兵だろう。服装は黒のボディースーツだったり、誰かから渡されたのか、ワンピース姿だったりした。

 これは、いわゆるショーケースだ。パラミシア兵はここから捕虜を選んで、一夜の相手をさせるのだ。


「さぁ、順番に入るんだ」


 列の先頭にいたカリーナ、次にルナがドックタグを読み込まれ、空いた椅子に座るよう促された。驚いたことに手錠を外されてだ。


 ルナは椅子に座り、先にいた女たちを観察した。3人とも髪も整い身綺麗だったが、その表情は絶望に包まれていた。目は落ち窪み、頬がこけ、健康的とは言い難い様子だ。おそらく、もう幾度もパラミシア兵の相手をさせられているのだろう。


 カリーナを見ると、手錠のあった場所を仕切にさすっている。カリーナは変装をしているルナに気付く様子もない。

 読み上げられたドックタグの名前も全く別人のものだったから気付くはずもない。それ以前にカリーナはルナの名前を知らないだろう。1度、一方的に敵対し暴言を吐いただけで、お互いに自己紹介もしていないからだ。


 鼻から息を吐き、ルナはガラスの内側から外を見た。新しく捕虜が足されたことを知った男たちが次第に部屋に集まってくる。

 ルナは外の男に向かって、妖艶な笑みを向けた。足を組み、顎に手を置き、椅子の背にもたれる。潜入のために短くなった黒髪がさらりと揺れた。


「おい、あれ」


「ああ、たまんねぇな」


「あの女はオレが」


「いや、俺のだ」


 外がざわつき始め、男たちがルナの取り合いを始めた。その隙に、気の弱そうな小男がカリーナに目を付け、見張りの兵に言って、外に出させている。

 ルナはチラリとカリーナに目をやった。それはほんの一瞬のことで、すぐに外に目を戻し、再び笑顔を作っていた。


 青い瞳でなくても、ルナは十分に美しく魅力的であった。頬にかかる黒髪が肌の白さを強調している。土に囲まれた野蛮な空間で、ルナは繊細な美しさを放っていた。


 激戦の果てに、誰がルナを連れて行くか決まったらしい。透明なドアが開けられた。


「マリア・ディラン。出ろ」


 ルナはすっくと立ち上がり、整ったボディーラインを見せつけるように、腰に手を当てて歩いた。この場に至っては、戦闘のために動きやすく設計されたボディースーツも、男たちの下卑た妄想を掻き立てる役にしか立たない。


「……売女が」


 残された女の1人が振り向きもせずに呟いた。ルナは表情ひとつ変えず、ショーケースを出た。


 ルナの相手は顔の整ったガタイのいい男だった。大男と言ってもいい。恵まれた体躯で、マント風に改造されたワインレッドの軍服をモデルのように着こなしていた。


 実際に、その男はパラミシア発行のファッション雑誌にモデルとして多く登場している。名前は、ミシェル・ヤード。私服公開など、個人の企画もあり、若い世代に支持されていた。

 個性的な緑の髪をツーブロックにして、耳にはピアスをジャラジャラと付けている。垂れ目の柔和そうな顔つきとは違って、女の扱いは雑だった。


「さぁ、来い」


 見張りの兵に差し出された手錠を無視して、ヤードはルナの両手首を片手で拘束し、大股で歩き出す。ルナは引っ張られるようにヤードの後に続いた。

 ピンクの扉が並んだ廊下に出た。壁は土のままなのでなんだかおかしな雰囲気だ。


「いや、やめて!」


 どこかからか泣き叫ぶカリーナの声が聞こえた。

 ヤードは声の聞こえた向かいの部屋にルナを投げるように放り込んだ。部屋の中は狭く。その殆どがベッドに占領されていた。廊下とは違い、部屋の中は白く塗りあげられている。


 ヤードは後ろ手に扉を閉めると、ゆっくりと鍵をかけた。

 窓のない部屋で、ルナは壁に背をつけて立っていた。その顔はショーケースにいた時とは違い無表情だ。


「どうした? そんな顔をして。ボクが相手じゃご不満かな?」


 ルナはにこりともせずに、大男のヤードを見上げた。恐れる素振りも媚びる素振りもしない。くっくとヤードが笑い、髪をかき上げた。


「今日はついてるな」


 ヤードは徐に話始めた。笑うと目尻に皺ができる、優しげな顔を向けて、しかし、その笑顔はどこか猟奇的だった。


「君みたいな女を相手にできるなんてね」


 ジリジリとルナとの距離を詰めていく。


「マリア・ディラン……ボクは君みたいな気の強い女を屈服させるのが、大好きなんだ」


 これは雑誌にも載っていない彼の性癖だ。べろりと赤い舌を垂らし、整った顔が狂気に染まった。

 こんな姿を晒せば、彼のファンは激減するだろう。いや、新たなファン層を獲得するかもしれない。人間はギャップというものに弱いし、コアな層というのも実在する。


「さぁ……始めようか!」


 舌を出したまま器用に喋るヤードに向かってルナは眉間に皺を寄せて「気持ちが悪い」と言い放った。


「ヒャッハッハ! いいね! そそられるよ!」


 興奮したヤードが襲いかかるのと同時に、その顔面に靴がめり込んでいた。大きな体がドアまで吹っ飛ぶ。

 パラパラと天井から土が落ち、そのままずるりと背中から滑って、ヤードは床に座りこんだ。折れたであろう歪んだ鼻から血が垂れている。


「こ、このアマ!」


 ヤードの額に血管が浮き上がっている。力んだからか、ぴゅっと鼻血が噴き出た。いっそ滑稽である。ルナもふんっと鼻で笑った。


 激昂して突進してくる男の力を利用して、ルナはその首根っこを抱きしめるように掴んで床に投げ倒す。低い天井に持ち上がった男の足が擦れ、白い塗料と共に土が舞い落ちる。ひっくり返った男の鳩尾に、ルナの肘がいい具合に入った。ヤードは血の混じった何かを吐き、イケメンの面影なく、気絶した。


 ピンクのドアをそっと開け、ルナは廊下の様子を確認した。遠のいていく2人のパラミシア兵の背中が笑っている。


「ヤードのやつ、またハードなプレイをしてるみたいだな」


「飽きねぇな」


 半ば嘲笑のようにその言葉が響く。ルナは髪をかき上げ、片眉を釣り上げて、泡を吹いている男に目をやった。


「殺してもよさそうね」


 淡々と言ったところで向かいのピンクのドアからカリーナの声が聞こえてきた。


「痛い! 離して! やだ!」


 カリーナも激しいプレイの最中のようだ。ルナは部屋に引っ込み、白目を向いて倒れている男を、腕を組んで見下ろした。


 * * * *

 

「へ、へへっ、可愛い……可愛いなぁ」


 カリーナを部屋に連れ込んだ小男は、部屋の隅で縮こまるカリーナの頭を鼻息荒く撫でていた。男の顔が近づくと、カリーナは必死に顔を背けたが、手錠を掴まれ、頭も掴まれ、離れることができない。

 カリーナの柔い金髪を男がはむはむと口に含んでねぶる。


「いや! やめて!」


 カリーナの否定の言葉に、それまで嬉しそうに髪を撫でていた男の態度が一変した。


「お前もオレを拒むのか!? 奴隷のくせに生意気だぞ!!」


 カリーナの頬を思い切り平手で打つ。その衝撃にカリーナは倒れ込んだ。口が切れ血が一筋流れた。また男の態度が一変する。


「ああ、ああ、ごめんよ、ごめんね、カリーナちゃん」


 男が覆い被さるようにカリーナに抱きつき、荒い息を吐きかける。


「君を傷つける気はなかったんだ。許してくれるよね? ね?」


 今にも泣き出しそうな男は本当に後悔しているといった風に、カリーナの口から流れる血を優しく拭き取る。


 態度がコロコロと変わる男に怯え、カリーナは身動きが取れないでいた。小男の顔が近づき、べろりと顎を舐められた。カリーナは嫌悪感が限界を迎えたのか、タガが外れたように暴れ出した。手錠が食い込み、手首からも血が流れる。


「痛い! 離して! やだ!」


「大人しくしろ!」


 再び態度が一変した男が腕を振り上げる。カリーナは目を閉じた。拳は振り下ろされなかった。その代わり、男の困惑した声がする。


「ど、どうして君が……」


 その後に言葉は続かなかった。開いたピンクドアの前にはルナが立っていた。素早く男の顎を殴り、地面に沈める。男はぐったりとうつ伏せに倒れた。


 カリーナは荒い息を吐き、泣いていた。感情を抑えることができないのか、威嚇する獣のように目を見開き、歯を食いしばってフーフー言っている。


 ルナは後ろ手にドアを閉め、素早くカリーナに近づいた。怯えて暴れようとしたカリーナだったが、ルナが針金を手に手錠の鍵を開けようとしていることに気づき、大人しくなった。それでも頬を伝う涙を止めることも、荒げた息を整えることもできない様子だ。


「どうして、君がここにいるの?」


 ルナは早口で聞いた。


「え……?」


 カリーナは面識がないと思っていた女にそんなことを聞かれて混乱しているようだった。先程の顎舐めショックからも立ち直っていないのかもしれない。


「君、ピリンキピウムの戦闘服を着ているけど、カマラードの兵でしょ。今回の戦争には参加しないことになっていたはずだけど」


「な、なんで、そんなこと……」


「わたしよ」


 カリーナの手から手錠を外し、ルナはコンタクトレンズを取ってみせる。瞳が茶色から青に、ついでに、髪も後ろで掴んでポニーテールのようにしてわかりやすくした。


「あ……あなた!」


「ルナ・ビルよ。階級の認識もできない無礼な上等兵さん」


 言われてカリーナはカッと顔を赤くさせた。垂れた目で精一杯、ルナを睨みつける。しばらく唇を噛み締めていたが、カリーナは降参したようにため息を吐いた。


「カリーナ・ドゥシュマン」


 ルナは頷いた。倒れた男を気にしながら、立ち上がる。


「いい、カリーナ? わたしはこれから、ある人を探さなきゃいけない。騒がずに、落ち着いて、ついて来られる?」


 ルナの真剣な眼差しにカリーナは迷うような素振りを見せたがすぐに頷いた。こんなところに置いていかれたら、また顎をなめられかねないからだろう。それに次はきっとそれだけではすまない。


「探すのは、バークシャー大佐?」


 仏頂面で、ぶっきらぼうに聞く。相変わらず、階級に頓着しない無礼な言動だが、同じ捕虜の身となっては階級も意味をなさない。


「いいえ、レイもその人を探してる。その為にここに来たのよ」


「……捕まった時、大佐は作戦実行中って言ってた。どんな作戦なの?」


 ルナは少し思案して口からを開いた。


「君は、カマラード兵が参加した戦争を見た?」


 カリーナは頷く。


「そこにNという金髪で青い目の男がいたでしょう? その男を探してる」


「え!? どうゆうこと? 暗殺でもするの?」


 カリーナはビクビクと怯えながらルナを上目遣いに見た。ルナはふっと息を吐いて軽く笑った。


「ちょっと、違う」


 ルナは倒れた小男の頭を掴んで、勢いよく捻った。小気味いい骨の折れる音にカリーナは顔を背ける。


「よくわからないけど……そのNって人、どうやって探すの? そこらじゅう、パラミシア兵だらけよ。武器もないし」


 ニヤリと笑って、ルナは屈んだ。ブーツの底を取り外す。そこに、銃の部品が分解され窪みに嵌め込まれていた。右と左で一丁分の部品が納められている。これはS隊員にだけ支給されている特注のブーツだ。中身は任務の都度変更できる。


「見張ってて」


 ルナに言われて、カリーナは渋々、小男を跨いでドアの方に移動した。かちゃかちゃと音を立てて、ルナは銃を組み立てていく。

 カリーナは顎をボディースーツの袖で拭ってから、出来上がっていく銃を見た。


「弾は? あるのよね?」


 不安げな声に、ルナは完成した銃を構えて低い声で答えた。


「必要ない」

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