8.村比斗vsラスティール、開戦!!

「落ち着いた? ラスティちゃん」


 剣を振り回して暴れていたラスティールは、ミーアに諭されてゼイゼイ息をしながら座り込んだ。



「はあ、はあ、だ、大丈夫だ。心配をかけた……」


(な、何が心配だ!! こっちは殺されかけたぞ!!!)


 同じく疲れて座り込んだ村比斗が思う。ラスティールが尋ねる。



「で、どうするんだ? 私の提案に乗るのか?」


 村比斗が考える。



(家があり保護して貰えるのは有り難い。が、どうしてこんな奴の指示に従わなければならないのか!? 美人だが……、いやそれよりもはっきりしておかなければならないことがある……)



 村比斗が尋ねる。


「と言うことはつまり、お前は俺を守り強くなりたいということだな?」


「そうだ」


 ラスティールが答える。



「それはお前が俺専属の女になるってことなんだな?」


「それは違う」


 一瞬眉を動かすも、ラスティールは冷静に答える。



「俺なしでは生きられない体になってしまったということだろ?」


「全然違うわっ!! この痴れ者が!!!」


 再び怒り出したラスティールが双剣に手をかける。



「ラスティちゃん!! 村比斗君もおふざけはその辺にしなきゃダメ!!」


「うっ……」


「わ、分かった……」


 やはりミーアに言われると素直に聞くふたり。ミーアがふたりに言う。



「これからみんなでラスティちゃんの家に行くの。そこでしばらく住んでからその先は考えるの。いいですか~!!」


「はい」

「分かった……」


 こうして改めて皆でラスティールの屋敷へと向かうこととなった。



 しかし村比斗は考える。


(俺を殺しかけておいて、さらに散々だと罵りやがって今更俺にお願いだと? ふん、俺に頭を下げ、メス犬の様に尻尾を振って俺に懇願でもしてみろ! そうしたら考えてやる!!)


 一方のラスティールも思う。


(村人? 時代が時代ならこの私と言葉を交わすことすらできぬ下民風情がいい気になりおって!! こちらの命令は聞きそうにないから仕方ない。いかなる手段を使ってでもそちらから『お願いします!』と言わせてやる!!!)


 こうして『村比斗vsラスティール』という、魔王以外との戦いの火ぶたがここに切って落とされた。





 翌日からもラスティールの屋敷への移動が続く。


「あー、疲れた。いつになったらこの森抜け出せるんだ……」



 数日間歩き続ける一行。それでも未だ森すら抜けられない。


「一度この辺で休憩にするか」


「了解~!」


 その声に反応してミーアが荷物を下ろして座る。


「本当に足もパンパンだぜ……」


 村比斗は基本村人。長旅を得意とする勇者とはステータス構成が違う。ラスティールが言う。



「な、なあ、村比斗」


「なんだよ?」


 ラスティールが少しもぞもぞとしながら言う。



「い、いや、別に大したことないんだが、ゆ、勇者ってのはな、その、聞いたところによると、レベルアップして上級勇者になると、その、なんだ……、移動魔法ってのが使えるようになるって話で、いや、別に私が強くなりたいとかじゃなくて、それが使えればこんな移動も楽になるのかなとか、思ったりしているんだが、違う、違うぞ! だからって無理にお前に……」


「ラスティちゃん……」


 ミーアに呼ばれたラスティールが返事をする。



「な、何だ、ミーア?」


「村比斗君、疲れて寝ちゃってるよ」


「はあ!?」


 そうミーアが指差す先には草の上で疲れて眠る村比斗の姿が。ミーアが言う。



「どうする~? 起こしちゃう? なんか大切な話してたみたいだけど?」


 そう尋ねるミーアにラスティールは首を振って答える。



「寝かせておいてやれ。ただの村人で勇者の移動について来てるんだ。無理をしたのだろう」


「そうだね!」


 ラスティールも村比斗の近くに座って休憩した。






「なあ、そういえばさあ……」


 仮眠を終え、再び歩き出した一行。先を歩いていた村比斗がふたりに尋ねる。



「あれからずっと魔物は現れないようだけど、やっぱりあれって魔物だよな?」


 村比斗達が出会った初日以来、魔物らしき生物には遭っていない。遭遇するのはこの世界で見られる通常の動物ばかりだ。



「そうだね~、あんなのもう現れないね」


「魔物か……」


 村比斗がひとり小さく言う。



「なあ、その件なんだが」


 ラスティールが言う。



「あの時戦った際に感じたんだが、どうも村比斗を狙っていたように思うんだ」


「俺を?」


 驚く村比斗。



「ああ、そうだ。推測だが村比斗、村人を狙っていたんじゃないかな」


「な~るほど!」


 ミーアが手を叩いて言う。



「多分だが、魔物は滅びたんじゃなくて勇者われわれから逃げていたんだと思う」


「つまり魔物達が一番苦手とする勇者にわざわざ向かっていく必要はないと」


 村比斗が言う。


「その通りだ。大討伐を行ったんで、絶対数は減ったと思うが殲滅まではできていなかったんだろう」


「そこへ『弱い村人』が現れた」


「そうだ」


「俺の弱さが役に立ったんだな」


「そう言うことだ。弱くてありがとう」



(こ、この女……!!)


 村比斗は冷静を装いながらも、頭の中では何度もラスティールを殴り倒していた。村比斗が言う。



「そう言えば俺もまだ言っていなかったことがある」


「なんだ?」


 村比斗の言葉にラスティールが答える。



「実は『ステータス画面』ってのが見られるんだ」


「すてーたすがめん? なんだそれは?」


 不思議な顔をするラスティールとミーア。村比斗が説明する。



「要はお前達の中が見られるってことだ。状態などが分かる」


 それを聞いたらスティールの顔がどんどん赤くなる。そして両手で胸を隠しながら大きな声で言う。



「な、中が透けて見えるのか!!!! こ、この変態底辺がっ!!!!!」


 そう言って片手で剣を抜き、村比斗を斬ろうとする。



「ち、違う!! 違うって、そんなの見えない!!!!」


 それを聞いたラスティールの手が止まる。村比斗が言う。



「落ち着けよ、本当に脳筋だなお前」


「ノウキン?」



「ああ、まあいいや。で、ステータスってのはな……」


 村比斗はラスティール達に分かりやすくステータス画面についての説明を行った。実際に出現させてみたのだが、どうやらふたりには見えないらしい。扱えるのはやはり村比斗だけのようだ。ミーアが言う。



「村比斗君のスキルみたいなものかな~?」


「そうだな。相手の状態を知れるとはまた凄いスキルだ」


 ミーアが尋ねる。



「で、村比斗君。ミーアの『すてーたす』はどんなのかな~?」


「ああ、待ってろ」


 そう言ってミーアに向かってトントンと空中を叩く。そして音と共に現れるステータス画面。ミーアのは確か一度見たなあ、と思いながら村比斗が言った。



「えーっと、『天然美少女勇者』だ」


「天然?」


「ああ、そうだ」


 首を傾げるミーア。良く分からないらしい。ラスティールが何か言いたそうにこちらを見つめる。



「どうしたんだ? ラスティール」


「な、何でもない!! 別にそんなのに私が興味あるとか、そんなことはひと言も言っていない」


 村比斗とミーアは明らかに『見たい!』と言うオーラを発しているラスティールを見て苦笑する。村比斗が言う。



「そうか。ラスティールは別に見たくな……」


「ラスティちゃんのはどんな風なの? 村比斗君っ!!」


 適当にあしらおうとしていた村比斗にミーアが言う。その瞬間に輝くラスティールの目。そして言う。



「ま。まあ。ミーアがどうしても見たい知りたいと言うならば、と、友達だし、私のを見ることを特別に許可しよう……」


 明らかに嬉しそうな顔して言うラスティール。村比斗は溜息をついて言う。


「分かったよ。じゃあ見てやるよ」


 そう言って指を上げた村比斗をラスティールが止める。



「ちょっと待った!! 本当に、本当に下着は見えないんだな?」


「見えるか!!!」


 見られれば見たいけど、思いつつ村比斗がラスティールのステータス画面を確認する。



「ええっと、ラスティールのは……」


「な、なんだ……?」



「『ツンデレ姫勇者』だってよ。ぷっ、どこにデレ要素があるんだ。ツンツンだけだろ。ぷぷっ」


「む、村比斗ぉ……、貴様っ……」


 剣を振り上げたラスティールを前に、村比斗はやはり前回同様全力で走って逃げることとなった。

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