2.天然美少女勇者ミーアちゃん、登場!!

(くそっ、あの女。絶対に許さねえ!! 美人だが……)


 川岸に仰向けになったまま倒れる村比斗むらひと

 トラックに轢かれて異世界転生後、すぐに魔物に襲われ、川に落ちて溺れ、そして女神のような美人の女騎士に何度も踏みつけられた。



(全然楽しくねえぞ、異世界……、美女のパンツは見たが……、いやいや、そんな事より、俺、また死ぬのか……)


 全身の痛みと脱力感、酷い空腹で動けない村比斗。

 周りは夕日でオレンジ色に染まりつつある。ここでまた魔物にでも遭ったらそれこそ食われて死ぬだろう。それを思うと自然と涙がこぼれた。



「あれ~、どうしたのかな??」


 突然掛けられた澄んだ可愛らしい声。それは干からび切った彼の心を癒すには十分なものであった。



(え? 誰……?)


 仰向けになった村比斗が、その近付いて来た少女を見つめる。



(可愛い子……、天使かな)


 まだ異世界と言う妄想が抜けきらない村比斗。

 やって来た少女を見て素直にそう思った。



「大丈夫ですか~? お昼寝ですか~?」


 ちょっと頭はメルヘン系かもしれない。村比斗はすがるように少女を見上げる。

 綺麗な水色の髪は肩までのボブカット。深く帽子をかぶり、背は低いが可愛らしいワンピースを着ている。手には小さな杖、肩から斜めに掛けられたショルダーバッグのようなカバンが少女らしさを引き立てている。


「あ~、お痛なんですね」


 パンツは見えなかったが、少女は村比斗のそばに座り体に手を置く。



「キュアヒール」


(え?)


 少女の手が光ると同時に、鈍痛が続いていた村比斗の体からその痛みが和らいでいく。初めての感覚。体全体がその不思議な力に喜んでいる。



(魔法なのか……? これが、魔法……)


 温かいぬるま湯に浮かぶような心地良い感覚。目を閉じればそのまま眠ってしまいそう。それはまるで天に召されるような感覚。



(いやいや、もう天に召されるのは勘弁してほしい。それよりも……)


 村比斗は少女の手を握り、そして言った。



「天使様、ですか……?」


「え?」


 そう言われた少女の頬が赤くなる。そして首を振ってすぐに答えた。



「違うよ~、私はミーア。美少女ミーアちゃんだよ!」


 ミーアは人差し指を頬に当て、首を斜めに傾げて笑顔で言う。



(……可愛いけど、ちょっとヤバい奴かもしれん)


 助けて貰っておきながら、何やら別の意味で不安を感じる。

 村比斗は回復した体に力を入れ上半身を起こすと、ミーアに向かって言った。



、助かったよ」


「いいよ~、そんなの~、私も……、(え!?)」


 そう口にしようとしたミーアの体が少しだけ光る。それと同時に彼女の頭に機械的な音と、女性の声が響いた。



『貢献ポイントを獲得しました』

『レベルアップします』



 ミーアの頭の中で鳴る聞いたことのない機械音。

 それと同時に湧き上がる高揚感。そして力。


 驚くミーアが言う。



「えーっと、『貢献ポイント』って何だっけ?」


 ミーアが首を傾げて不思議そうに言った。



「うっ!」


 それと同時に村比斗の胸の奥に鈍痛が広がる。



(ま、まだ傷が回復していないのかな……)


 そう思いつつも村比斗はミーアに頭を下げて感謝を述べる。


「本当に助かった。しかしまだ幼いのに魔法使いとは驚いた」


 ミーアが不思議そうな顔で答える。



「魔法使い? 違うよ、ミーア勇者だよ。魔法が得意な勇者。美少女勇者だよ~!!」


(ゆ、勇者だと!? こんなに幼いのに!? 勇者がいたのはいいとして、こんなに小さな女の子が世界を救うのか!!)



 ミーアの勇者発言に驚く村比斗。

 小さな女の子ではあるが魔法は使えるし、まんざら嘘ではないかもしれない。



(あ、そうだ)


 村比斗は思い出したように、ミーアに向けて空中をトントンと叩いた。


 ボンッ!


(お、出た!)


 開かれるミーアのステータス。勝手に覗くのも悪いと思ったが確認したい衝動には勝てない。



(職業:『天然美少女勇者』だと? た、確かに勇者だ。よく意味は分からんが……)


 職業以外の項目は良く分からない。

 しかし勇者は勇者。村比斗は頷きながらミーアに言う。



「勇者か。こんなに幼いのに凄いな」


 それを聞いたミーアが不思議そうに言う。



「え? えっと、君は……」


「村比斗だ」


「村比斗君も勇者でしょ?」


「違うよ、俺はむら……」



『村人』と言いかけて急に恥ずかしくなった村比斗。下を向いて言う。


「俺は弱い。さっきだって弱そうなに殺されかけたんだ……」


「ま、魔物!? うそお!!」


 ミーアが驚く。これまでのメルヘンが吹き飛ぶぐらい真剣に驚いている。村比斗が思う。



(そ、そんなに驚くほど俺は弱いのか!? くっ、しかしそれは事実。俺は弱い『村人』、潔く現実を受け止めよう……)



「そう、魔物が出て殺されそうになったんだ」


 まだ驚いて言るミーアが言う。


「何かの間違いじゃないの? 猛獣とか? 魔物は勇者によってとっくの昔に滅ぼされたはずだよ~」


 今度は村比斗が驚く。



(な、何だって!? 魔物は勇者こいつに滅ぼされただと!? ち、小さいのに、メルヘンみたいな顔してるのに、もしかして無茶苦茶強いのか、こいつ……)


 村比斗の顔が驚きの色に染まる。



「滅ぼしたって、す、凄いんだな、お前……」


「ん?」


 まったく会話が噛み合わないふたり。ミーアが再び首を傾げる。




 ぐうううう……


「あっ」


 その時、不意に村比斗のお腹が鳴った。

 考えてみればこちらに来てどのくらい時間が経つか分からないがまだ何も口にしていない。ミーアが言う。



「あれ~、お腹空いたのかな?」


「あ、ああ……」


 村比斗が恥ずかしそうに答える。



「いいよ、ちょっと待っててね。お魚、獲って来るね」


 そう言うとミーアは立ち上がって、川へ向かうと魔法を唱えた。



「ウィンド!!」


 ビュウウウウ、ド、ド、ドーーーーン!!!



「え? えええええっ!?」


 ミーアが唱えた風魔法は、そこにあった川の一部をえぐる様に巻き上げ破壊した。



「ちょ、ちょっとぉ、何これ~!?」


「何これじゃないよ!! あ、危ないだろ!!」


 村比斗も避難しながらミーアに言う。



「だ、だって、ただのウィンドで……」


 魔法を発したミーア自体、なぜか驚いている。



「ま、まあ、いいよ。魚、獲れたし」


 風魔法で舞い上がった魚が数匹、村比斗達の足元でピチピチ跳ねている。ミーアが言う。



「そ、そうね。焼いて食べましょうか」


 そう言って村比斗とミーアは魚数匹を捕まえ、拾って来た枝で刺す。そしてミーアが火魔法を唱えた。



「ファイア!」


 ボオオオオオオッ!!!!



「ぎゃっ!!」


 ミーアの手から発せられた火の塊は彼らが持っていた魚を枝ごと丸焦げにし、そして灰となってぼろぼろと崩れ落ちた。



「お、おいっ!!!」


 怒る村比斗。訳が分からないミーアが言う。



「な、なんで、こんなに火力が強いの!? ただのファイアなのに……!?」


 優しいのか真面目なのか、からかわれているのか。

 おどおどするミーアを見ながらなかなか食事にありつけない村比斗は深い溜息をついた。






「ラ、ラスティール様っ!! お逃げを……、ぐわっ!!!!」


 ラスティールの前に立っていたお供がいとも簡単に声を上げて倒れた。



「だ、大丈夫か!! くそっ、なぜ、なぜこいつがこんな場所に……」


 村比斗と別れたラスティール達一行は、その強烈な邪気を放つ異形を前に全滅寸前であった。異形が言う。



「お前ら、弱ええなあ。全部まとめて俺の糧となれえ!!! ふんっ!!!」


 ドオオオオオン!!


 異形から発せられるさらに強い邪気。



「ぐぐぐっ……」


 それを感じたラスティール達は、蛇に睨まれた蛙の様に恐怖で動けなくなる。



「どうして、どうしてこんな所に『魔王ガラッタ』がいるの……」



 奇遇か必然か。

 後に『暗黒の時代』を打ち砕き英雄と呼ばれるようになる勇者達が、この名もなき森に集まっていた。

 ただこの時点でのラスティールは勇者としてあまりにも弱く、倒すべき魔王がそこに居ながらもその凄まじい邪気に心が折れそうになっていた。

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