第32話 この素晴らしきコスイべにバカップルを

 撮影も楽しいが真昼とだらだらお喋りするのも普通に楽しい。


 コスプレの事、カメラの事、撮った写真にイベントで見かけたレイヤーさん、そこから派生するアニメや漫画の話、話題なんか無限にあった。


 一時間程フードコードで涼み撮影を再開する。


「あっちぃいいい!」

「午後になったら余計に暑いね……」


 早速冷房を恋しく感じつつ、撮影スポットを求めて歩き出す。


 勿論夜一は日傘と携帯ファンの二刀流だ。


「あっついでしょ? 夜一君も日傘入りなよ」

「いやいや。日傘で相合傘は流石に恥ずかしすぎるだろ」

「そうだけど。これじゃああたし、彼氏を顎で使ってる性悪女みたいになっちゃうよ!」

「なら執事って設定にしとくか。お嬢様、お暑くは御座いませんか?」


 良い感じの声を作って執事っぽくお辞儀をすると、真昼がぷふっと吹き出した。


「そんなアロハ着てる執事なんか絶対いないよ!」

「わかんないぜ? ハワイにはいるかもよ?」

「確かに……。ハワイにならいそうかも……」

「まぁ、ハワイには執事なんかいなそうだけどな」

「確かに……。ていうか、夜一君の執事姿が見たい。ビシッと燕尾服で。グロ執事コスとか超よくない? あたしはメイドで!」

「そこはお坊ちゃまだろ」

「あたしはショタっ子ってキャラじゃないもん」

「俺だって執事って柄じゃねぇよ」

「じゃあ誰ならいいの?」

「え~。しいて言うなら料理人?」


 他のキャラは夜一には美形すぎる。


 ちょっと癖のあるむさいキャラが好きなのだ。


「それもいい! ていうか絶対似合う! 最高じゃん! じゃあ夏コミはそれで!」

「いや、そこまでじゃないし。なんで今更グロ執事って感じだろ」

「そーだけど……」

「せっかく真昼に作って貰うならこれだ! ってキャラじゃないと申し訳ねぇよ」


 なんて話をしつつ、午前中にスルーした森のエリアにやってきた。


 ここなら日陰も多くて暑さも少しはマシだ。


「まぁ、考える事はみんな同じか」

「だね」


 まぁまぁ混んでいた。


 みんな暑い暑いとぼやきながらパシャパシャ写真を撮っている。


 適当な場所に陣取ると二人も撮影を開始した。


 休憩したら気持ちが切れてしまったのか、良い感じに緩いテンションだ。


 真昼もふざけて木の影から「ばぁ!」と顔を出すようなポーズを取り、夜一もそれをパシャパシャ撮る。


「真面目な写真も良いけど、こういうのも面白いな」

「ネタ写って言うんだよ?」


 なんて解説を受けつつもパシャパシャパシャパシャ。


 夜一は撮った画像を確認して首を傾げる。


「う~む」

「どったの?」

「いや、どっから撮っても別のレイヤーさんが写っちまうからさ」


 ものすごく混んでいるわけではないが、視界に入るだけで映り込んでしまう。


 せっかく真昼がいい感じのポーズを取っても、後ろで異世界転生した元ニート冒険者が駄女神をどついていたら締まらない。


 角度を変えると今度はオレンジ色のユニフォームを着たバレー部の皆さんが顎をクイッとBLチックな写真を撮っている。


「あぁ。それは気にしなくていいよ。後でフォトショで消すから」

「……なんか殺し屋みたいだな」


 結局最初程は集中して撮れなかったが、これはこれでのんびり撮れて楽しかった。


 周りに色んなレイヤーさんがいるのも仮装大会みたいで面白い。


 まぁ、コスイべ自体仮装大会みたいなものなのだが。


「そろそろ休憩すっか」

「……あたしは大丈夫だよ?」


 夜一が気遣っている事に気付いたのか、申し訳なさそうに真昼が言う。


「大丈夫じゃないって。午前中よりも熱いし。それに、折角のコスイべデートだ。撮ってばっかりってのも勿体ないだろ? まだ見てない所も沢山あるし。休憩がてら適当にぶらぶらしないか?」

「夜一君がいいならあたしはいいけど……。そうだ! 他のレイヤーさん色々見たら夜一君のしたいコス見つかるかも!」


 渋々だった表情がコロッと変わる。


 よっぽど夜一にコスプレをさせたいらしい。


 夜一としてもそんな風に求められるのは嫌な気持ちではない。


 そんなわけで二人でよみさかランドをブラブラする。


 暑すぎるので途中の売店でソフトクリームを購入する。


 真昼はペロペロ舌を出して、ソフトクリームの形を満遍なく整えるようにして舐めていた。


「なんかその食べ方いやらしくないか?」

「えぇ!? だって、綺麗に舐めないと溶けちゃうし……。そ、そんな事言う夜一君がいやらしいと思います!」

「まぁ、否定は出来ないな」


 アトラクションのあるコースでは学園物や現代物のコスをしたレイヤーが多かった。


 夜一的にはあまりピンとこない。


 制服系は個人的には面白みを感じなかった。


「あたしもそうかも。制服コスって衣装より顔って感じになっちゃうし。その割に作るの大変だし。かっちりしてる服って誤魔化しにくいんだよね」

「おぉ~。なんか本職の服屋さんみたいだな」

「まぁ、それなりに沢山作ってますので」


 少しだけ得意気に真昼が胸を張る。


「うぉ! 火竜王じゃん!」


 真ん中にあるイベント広場には、モンスレの代名詞とも言える巨大な火竜の像が展示してあった。


「あ! そう言えば今モンスレコラボやってるんだった! 夜一君! 撮って撮って!」

「任せとけ!」


 火竜王に向けて真昼が刀を構え、夜一が次々シャッターを切る。


 人気スポットのようなので長居は禁物だ。


「どうだった?」

「ばっちし! 俺も撮ってくれよ!」

「もち! 刀使う?」

「使う!」


 真昼の模造刀を借りてウキウキで火竜王の足元で構えを取る。


 と、そこに真昼がやってきた。


「佐藤さんが撮ってくれるって!」


 真昼の視線を追いかけると佐藤がニコニコしながら小さく手を振っていた。


「マジかよ! 師匠! あざっす!」


 プロ級の腕前の佐藤に記念写真なんか撮らせて悪いなと思いつつ、せっかくなので撮って貰う。


 刀を片手に真昼を守るポーズや、二人で逃げるポーズ、逆に真昼に庇って貰うポーズなんかを撮って貰った。


「一応雪兎さんのカメラでも撮っておいたけど。僕の写真、送っていいかな?」


 勿論お願いした。


 折角だから、モンスレ風に加工してくれると言う。


 至れり尽くせりである。


 お礼がてら暫く話すと、佐藤は邪魔しちゃ悪いからと去って行った。


「マジで師匠良い人過ぎるだろ……」

「本当だよ。佐藤さんは良い人で有名なんだから。写真も上手いし加工も凄いしすぐに送ってくれるし超いい人!」


 凄過ぎて嫉妬する気も起こらない。


 そろそろ移動しようかと思っていると、夜一は衝撃を受けて固まった。


「うぉ!? モンスレコスだ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る