第17話 女の子の夢

「先に言っておくけど、この布は絶対めくっちゃ駄目だからね!」


 やっぱり無理して呼ばない方が良かったかも……。


 部屋に上がった夜一にお願いしつつ、真昼はちょっと後悔していた。


 あんなオタ部屋一晩じゃ隠せない。


 グッズをしまう場所にも限りがある。


 でも、こんなイケてるギャルみたいな見た目で超オタクだとバレたら絶対引かれる。


 夜一だって詐欺だと思うかもしれない。


 それはやだ!?


 なので真昼なりに精一杯頭を捻って隠ぺい工作をした。


 とりあえず、壁を飾るポスターやタペストリー、その他目立つグッズなんかは段ボールに詰めて押し入れにつっこんだ。


 問題はぎっしり漫画の詰まった大きな三つの本棚だ。


 両親もマンガ好きなので、まとめて真昼の部屋の本棚に入れてある。


 少年漫画に少女漫画、男の子には見せられない際どいジャンルの薄い本も混ざっている。


 棚の隙間にも大小様々なフィギュアも並んでいる。


 隠したいが、急いでしまったら壊してしまうかもしれない。


 押し入れはもういっぱいだし、その頃には真昼もヘトヘトで、いい加減寝ないとまた具合が悪くなりそうだった。


 焦った真昼が思いついたのは、コスプレ用に買った布をカーテンのように垂らして目隠しをする事だった。


 そうすれば、簡単に厄介なオタク棚を隠す事が出来る。


 これで完璧!


 安心して眠りについたのだが……。


 いざ夜一を部屋にあげると全然安心じゃない事に気付いた。


 だってものすごく不自然だし。


 こんなの見てくださいと言っているようなものだ。


 夜一が好奇心を出してちょっと布をめくったらおしまいである。


 あぁバカ! バカバカバカ! なんであたしっていっつもこうなの!?


 ……でも、眠かったし。


 ……これでも精一杯頑張ったんだもん……。


 そんな気持ちで夜一にお願いしている状況だ。


 案の定、夜一は興味津々の様子である。


「なんだよ。銃器ラックでも隠してるのか?」

「そんなわけないでしょ!?」


 ちょっとギクッとした。


 コスプレで使う小道具には刀やモデルガン、頑張って作った魔法の杖なんかもある。


 今は全部押し入れの中だ。


「別に、真昼がどんな趣味でも嫌いになったりしないって。俺はそんな小さい男じゃないぜ」


 夜一は茶化すようにニヤリと笑った。


 気を使っているのだろう。


 気持ちは嬉しいし、夜一なら受け入れてくれそうな気もする。


 でも、もうちょっと待って欲しい。


 だって、普通のオタクじゃなくて、超オタクなのだ。


 ちょっと漫画が多いくらいなら平気だろうが、フィギュアとかコスプレとか薄い本はアウトかもしれない。


 夜一の言葉を鵜呑みにして全てを曝け出して引かれたら嫌だ。


 もうちょっと様子を見れば、夜一のセーフなラインを見極められる。


 もうちょっと時間があれば、ちょっとずつオタクな所を小出しにして慣れて貰える。


 なんにしたって、今すぐというのは急すぎる。


 なんだか追い詰められた気持ちになり、真昼は目がウルウルしてきた。


「あたしの心の準備が出来てないの! だからお願い! 今日だけ! 何も聞かないで見逃して!」


 両手を合わせて拝むようにお願いした。


 そしたら夜一も焦ったらしい。


「わ、わかったって! 俺も別に無理やり見る気なんかないから!? 真昼が嫌なら絶対見ない! だから、そんな顔すんなよ……」


 真昼的には、夜一こそそんな申し訳なさそうな顔をしないで欲しいのだが。


「うぅ、ごめんね。変な事言っちゃって……」

「いいって。いきなり押し掛けたのは俺なんだから。それよりゲームしようぜ。なにがあるんだ?」

「えーと……」


 またしても真昼は焦った。


 漫画が大好きな両親だ。


 ゲームだって沢山持っている。


 ゲーム機もソフトも沢山ある。


 だから逆に困る。


 こういう時、なんと答えたら可愛いだろう?


 格闘ゲームは絶対可愛くない。


 RPGは一人用だし。


 パズルゲームは無難そうだが、対戦して喧嘩になったら嫌だ。


 協力プレイのゲームは色々あるが、モンスターや宇宙人を撃ち殺しまくるゲームなんか全然可愛くない。


 あぁ、お家デートなら気楽だと思っていたのに、全然そんな事ない!?


 むしろ、めちゃくちゃ気を使う!


「よ、夜一君はどんなゲームするの? お父さんとお母さんがゲーム好きだから、ソフトは色々あるんだけど……」


 とりあえず真昼は様子見に回った。


 とにかく夜一に先手を譲って、それから考えよう。


「モンスレって知ってるか?」

「知ってる! 超面白いよね!」


 モンスタースレイヤーは真昼の大好きなゲームの一つだ。


 あれなら流行ってるし、女の子がやっててもギリセーフな気がする。


 普段は銃槍や大槌を使っているのだが、魔笛を使ってサポートすれば女子力をアピール出来る!


 ……と思ったが、モンスレを一緒にやるには夜一もゲームを持っていないといけない。


「マジか! 実は俺、こんな事もあろうかとゲーム機持って来たんだ!」


 子供みたいにはしゃぐと、夜一は鞄から携帯型のゲーム機を取り出した。


「え~! じゃあ一緒に出来るじゃん! 彼氏とモンスレとか夢みたい!」


 そんな夢を見るのはオタク女子くらいのものだが。


 この通り、真昼はこてこてのオタク女子である。


「それはこっちの台詞だ。ギャルっぽいから趣味が合うかちょっと心配だったけど、モンスレが好きなら安心だな。欲しい素材とかあるか? どこでも付き合うぞ?」

「え~! 超助かる! じゃあじゃあ、神臓マラソンに付き合って貰おうかな~」


 一部の上位モンスターは〇〇の神臓というレア素材を持っていて、装備を作るのに必要なのだ。


 真昼は既に欲しい装備は大体作り終えているので必要ないのだが、ここは初心者ぶって姫プして貰おう。


 普段真昼はオンラインの野良部屋に初心者を装った見た目重視の弱い装備で乗り込んで、テクニックでモンスターをやっつける逆姫プで遊んでいる。


 その装備を着ておけば初心者っぽく見せられるだろう。


 ウキウキしながらゲーム機を取り出してゲームを起動する。


「うぉ! それ、モンスレ仕様の限定モデルじゃん!? かっけー! 俺それ欲しかったんだよな!」

「へ? あ、えっと、これは……」


 真昼の頬が引き攣った。


 真昼のゲーム機は前作が出た時に予約して買った限定版だ。


 艶消しの黒地に金でドラゴンの絵が入っており、ものすごく格好いい。


 でも、女子力はマイナス百点だ。


「お、お父さんのお下がりなの。ほら、最近新作出たから……」

「マジかよ! 最高の親父さんだな!」


 なんとか誤魔化せたようで真昼はホッとした。


 いかんいかん。


 オタク過ぎて失念していた。ボロが出ないように気をつけないと……。


 決意しつつ、二人でオンラインの部屋に入る。


 キャラは問題ない。


 自分そっくりのイケてる金髪ギャル風の女キャラで、名前は普通に真昼だ。


 勢いで当時ハマっていた大人気アニメの男キャラにしなくてよかったと心底安堵する。


「……おいおいおい。真昼、マジかよ……」

「え、なに!?」

「スレイヤーランク600とかすご過ぎだろ!」

「……スーッ……」


 頭隠して尻隠さず。


 そんな諺が真昼の頭をよぎった。

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