第8話 嫌わないで

「……うぅ、遅くなってごめんなさい……」


 待ち合わせ場所にやってきた真昼は、昨日告白してきたイケてるギャルとは別人みたいにしょんぼりしていた。


「遅くないだろ。時間通りだ」


 真昼の支度に合わせて待ち合わせ時間を決め直した。真昼は時間通りにきた。なんならちょっと早かったくらいだ。夜一はそれよりも早く来ていたが、落ち着かなくて勝手に早く来ただけだ。


「そうだけど……あたしの支度が遅かったから。もうすぐ三時だし……」


 大きな飴玉を二つ口に入れたみたいにもごもごしながら真昼が言う。

 飴の味は悔しさと申し訳なさだろう。


「気にすんなって。寝坊したのはお互い様だ。むしろ、ちょっとでもデート出来て嬉しいくらいだ。てか真昼、可愛すぎだろ。どこのモデルがやって来たのかと思ってビビったっての」


 制服の時点でも真昼は完成された白ギャルだった。清楚なのにセクシーで、子供なのに大人っぽい。なのに胸は超巨大。それが今は大胆なショートパンツに肩出しのセクシールックだ。可愛いのにお色気ムンムンで思わず鼻の下が伸びそうになる。


「ほ、褒めすぎだから!? そこまでじゃないでしょ!?」


 真昼は真っ赤になって顔を隠した。


「いやいや、そこまでだろ。マジでこんな可愛い子と付き合ってのかよって目を疑ったわ」

「わかったから! もう勘弁して!」

「いや実際、そこまで可愛いと隣に並んでて気後れするぜ。もうちっとお洒落してくりゃよかったよ」


 そうは言ってもこれが夜一の精一杯だ。ワックスでいい感じに頭をセットし、上はアイスクリーム柄のアロハとTシャツ、下は短パンとローカットのスニーカーだ。


「そ、そんな事ないと思うけど。夜一君の恰好も個性的でお洒落だと思うし。アイス柄のアロハとか夏っぽくて可愛いくない?」

「そこに気付くとはお目が高い! こいつは俺のお気に入りだ!」

「アロハ好きなの?」

「まぁな。楽だし、派手で面白いだろ? 夏と言えばアロハだ。おーいぇ~」


 アロハの形にした手を振ると、真昼はプフッと吹きだした。


「なにそれ。変なの」

「そこが問題だ。実は俺は変な奴なんだ」

「知ってるから」

「そうか? ならいいんだが。いやよくないか。いいか?」

「いいよ。変な奴だって思って付き合ったんだし」

「マジかよ! 最高じゃん! で、どうする?」


 あれがしたい。これがしたい。それいいね!

 昨晩散々ラインをしたくせに、肝心の今日のデートについては何も決めていなかった。


 どちらにしろ、これだけ遅刻したら予定もなにもあったものではないが。


「寝坊しちゃったし、夜一君の好きな所でいいよ……」

「まだ言うか? 次言ったら罰金取るぞ!」

「だって……」


 真昼の顏が俯いた。

 なんだか声に元気がない。


「どうした? なんか具合悪そうだけど」

「……ううん。なんでもない。気にしないで……」


 ニコっと笑いかけるが、明らかに無理をしている。


「いや、なんでもなくないだろ。よく見たら顔色も悪いし!」

「へ、平気だって。大丈夫だか……ら……」

「真昼!?」


 ふらついた真昼の身体を慌てて支える。


「どうしたんだよ!? 全然平気じゃないだろ!?」


 真昼の顔色は蒼白になっていた。額には冷や汗も浮かんでいる。

 夜一の腕の中で、真昼がぽろぽろ泣き出した。


「なんでぇ……。折角のデートなのに、具合悪くなっちゃうの……。寝坊するし、最悪だよ……。ごめんね夜一君、こんな奴、嫌いになっちゃったよね……」

「いいから喋んな!」


 夜一は真昼を抱えると、近くのベンチに横たえた。


「ごめんね……ごめんね……」

「いいって! それより、どんな感じで具合悪いんだ!」

「わかんない……貧血かも……」

「なにか欲しい物あるか?」

「……大丈夫」

「頼むから遠慮すんなよ! こんなんでも、一応はお前の彼氏なんだぞ!」


 ぐったりした顔を夜一に向けると、真昼がまた泣き出した。


「う、うぇ、えぐ……ジュース飲みたい……急いで来たから、喉カラカラなの……」

「日射病かもな。寝不足だし……。くそ! こんなんなら無理に誘うんじゃなかったぜ!」


 その言葉に、真昼の肩がビクリと震えた。


「やだ、ごめんなさい、そんな事言わないで……」

「違うって。真昼を責めてるわけじゃない。自分にムカついてんだ。とにかく、飲み物買ってくるからちょっと待ってろ」

「やだ……行かないで……」

「すぐ戻るから! ほら、そこの自販機に行くだけだ!」


 心細そうに真昼が頷く。

 まるで小さな子供だ。


 駅前の広場のベンチだ。人目も多い。

 既に十分注目を浴びているから、心細い気持ちは分かる。


 夜一は大急ぎで自販機に走った。


「ほら! 俺はここにいるぞ! すぐ戻るからな!」


 遠くから手を振ると、真昼は不安そうに頷いた。

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