親友ポジションに憧れる俺は彼女達に狙われている

個別ルート139 夏祭り

「自由行動しましょう！！」

　天の舞が終わってしばらく、突然の景ちゃんからの提案に皆が顔を見合わせた。

　珍しい提案だがまた良くないことを考えているに違いない。

「良いんじゃない？　私も見たいものあるし」

「杏理ちゃんそれってさっきやりたそうに見てた”型抜き”のこと？」

「へっ！？　べ、別に全然これっぽっちもやってみたいとか思ってないんだけど！？　勘違いしないで！　型抜きのことなんか全然興味ないんだからねっ！？」

「あーうんそうだね。いや普通にやめた方が良いと私は思うよ？」

「なんでよ。あぁいうのがインチキとかイカサマとかだって言いたいんでしょ？　大丈夫よ私なら出来＿＿＿＿」

「杏理ちゃんセンスないから無理だよ」

　お、まさかの辛辣真白さんだ珍しいな。俺だけに辛辣だと思ってた。

　ただそこまで言われて黙っている杏理ではない。

「上等じゃない！！　そこまで言うならついて来なさい真白！！　私のウデマエってやつを見せてやろうじゃないの！！」

「ちょっと待って私はとー君とぉぉぉぉ！！」

　虚しい叫びを発したまま杏理に引きずられてゆく真白を眺め呆れていると、

「では先輩、私はこの男女先輩に用がありますのでお一人で回ってください」

「「え」」

　予想外の言葉だった。

　だってそうだろう。いつもの景ちゃんなら俺と一緒にいる為に心と色々やり合うのに今回は自分から心と関わろうとしているのだ。

　そんなの俺も心も驚くし、心が許すわけもなく、

「はぁ？　僕がなんでお前と回らないといけないんだよ？　頭おかしいのも程々にしないと透に愛想尽かされるよ？　あ、もう見向きもされてないって分かった感じなの？　遅いね気付くの」

　いや言い方キッツ！？　一を言ったら十どころか百で返すじゃん俺の親友心さん……さすがに景ちゃんもキレるだろ……。

「はいはいそれで良いですから一緒に来てください。話したいこともありますし」

「「えぇ！！？」」

　再び俺と心の声がシンクロする。

　え、なに！？　いつもの景ちゃんじゃないわ！！？

「透このクソ後輩遂に壊れたのかな！？　僕があれだけ言ったのに言い返してこないよ！？」

「いやその通りではあるけど、あれだけ言ったのにって心お前分かってて言ってたのかよ。景ちゃんに対して辛辣過ぎるだろ」

「……癖になってんだこの後輩罵倒するの」

「最低過ぎるだろ」

　そんなキ◯ア嫌だからね、と付け加えた瞬間に景ちゃんは見るも止まらぬ速さで心の腹に向けて拳をめり込ませた。

「クハッ＿＿＿＿」

　僅かに声を漏らした心だったがそこはさすが景ちゃん。自分でやったにも関わらず心を心配する態度を見せてみせる。

　最低だこの後輩……なんの躊躇いもなく先輩に当身をしやがった。

　呆れていると景ちゃんは心を抱えて祭りの人混みへと消えて行く。

　舞を終えて後片付けがあるとかで天と乱華は家、真白と杏理は二人で型抜きデート、心は景ちゃんに誘拐され、ほぼ一心同体な神様こと姫は何故か姿が見えない。

　イコール。

「まさかの祭りを一人で見る感じかよ！？」

　皆で来といてなんでこんなボッチみたいな現象に！？　と最近誰かしらと必ず一緒にいるからか少し寂しい気持ちになってしまう。

　そんな傷ついたメンタルに突然気怠そうな声の聞き慣れた声が響く。

「ん？　あれ透じゃないか。こんなところで一人とはさては友達いないな？」

　見慣れた仕事着を着ているが手には屋台のたこ焼き、嫌なことを言われたがなんだかんだこの人のことは嫌いにはなれない我が担任。

「紫さん！！」

「馬鹿地元なんだぞ！？　誰かに聞かれたらどうするんだよ先生を付けろ雨上！！」

　あ、それに関してはマジですいません。

●

「ねぇと……雨上」

「なんですか紫先生？」

「りんご飴食べたい」

　え、買ってこいと？　当然の様にパシリにしようとしないでくださいね？

「違うわよ。ほらあそこにりんご飴の屋台があるでしょ？」

「確かにありますね」

「作り方聞いてきなさいよ」

「まさかの俺に作れってか！？」

　そう言ってるのが分からないのか？　とさも当然かのような態度で首を傾げる紫さん。

　この人は自分が女王様とでも思っとんのか？　……あ、いや本当に考えてそうな気がして怖いな。

「って、それはそうと紫先生はなんでこんなところにいるんですか？　祭りを楽しむなら分かるけどスーツ姿ですし」

　ふと思った疑問を投げかけてみると、紫さんはこちらに耳を傾けながら頬張ったたこ焼きを飲み込んでから答えてくれた。

「私はあれよ、仕事よ仕事」

　仕事？

「毎年地域の方から学校に依頼が来るのよ。祭りの警備みたいなやつをね」

「あ、なるほど自分のとこの生徒が変なことしないか確認も兼ねて的なやつか」

「そういうこと……ま、私は呼ばれてないんだけどね。時給ゼロ円」

「プライベートじゃねぇか」

「カップルでイチャコラしてる我が生徒達にウザ絡みする仕事よ」

　いや悪質！？　なんだこの人本当に教師なのか！？

　全く情けない。こんな大人にはなりたくないものだ。

　呆れてため息を溢していると、なにやら紫さんから妙な視線を感じる。

　いつもより笑顔が凄いというか、なにやらよく分からない怖さがあるというか……。

「そういえば雨上言いたいことあるんだけど」

「なんですか？」

「さっきは楽しそうだったな」

「え」

「お祭りを複数の女と回ってな、ハーレムってやつ？」

「あ、いや、それは……」

　ジト目でコチラを睨み続ける先生はどうも機嫌があまりよくなさそうに見える。

　俺は何か気に障るようなことをしただろうか……？

「ねぇ雨上」

「……あ、はいなんですか先生」

「お腹空いたから何か食べたいんだけど」

　手にたこ焼き持ってますよ？　とか言っちゃいけないだろう。ここは大人しく従うしかない。

「……な、何食べたいですか？」

　恐る恐る聞いてみたところ先生はりんご飴の屋台を指差す。

　あ、なるほどね。本当に食べたかったのね？　良いですよ分かりました買ってきますよ。いや買いに行かせてください。

　任せてください祭りの為に財布を膨らましてきたんで！　お金には余裕あるから！

「あの屋台のメニュー全部」

「すいませんＡＴＭ行って来て良いですか？」

　あ、逃げないっすよ？　ちょっと家に帰って通帳取りに行くだけですからね？

「冗談だよ。折角のデートなんだから私を一人にする気なのか？」

「それは確かに良くないですね。すいません先生……あれ？」

　え、デート？　紫さんは今なんと言ったん＿＿＿＿

「ほら見て回るぞ透！　ちゃんとエスコートしろよ？」

「ちょっと隠す気ねぇだろ紫先生！？　アンタ教師人生終わらせる気か！？」

　こうして紫さんとの祭り後半デートが始まった。