四月一日なので短編 ②




 テレビの画面が変わり次に映ったのは何やら黒い物体だった。そして聞き覚えのある声、


「……ちょっと透そこじゃないわよ」


 杏理の声だ、何かを話している様だが画面は一向に黒い物体を映したまま変わらない。


「杏理勘弁してくれよ俺……初めてなんだ」

「全く……ちゃんと教えた通りにやりなさいよ馬鹿」


 え、


「もうちょっと下よ……」

「ここか?」

「そう」


 え、え、


「お、おい杏理力入れ過ぎだって」

「しょうがないじゃない。透が下手だから導いてあげているんでしょう? ……別にアンタに密着したくて触ってるわけじゃないのよ?」

「俺は杏理と触れているだけで嬉しいけど? 杏理は嫌なのか?」

「……馬鹿」


 え、え、え!? これヤバいんじゃないのか!? ちょっとコイツら一体何やって____


「ほらまず持ち方がなってないわ、そんなんじゃ的に弾が当たらないわよ」

「そんなこと言ってもまだ杏理みたいには上手くできないからなぁ……」

「だから私が手取り足取り教えてるんでしょ? 感謝して欲しいわね!」


 なんもやってないんかい!! 勘違いしたわ!!

 何を勘違いしたのじゃ? だって? 五月蝿い黙って観てろ。


 ようやく拡大された画面が変わり、全体が観れるようになる。

 そこにはやはり俺と杏理がいて、どうやらさっきまでの黒い物体は銃を拡大していたらしい。

 それに心や真白の夢に出た大人な俺と違い、今とそんな大差ない姿の俺達が映っていた。


「私なんかある程度の場所が分かっていれば目を瞑ってても当てられるわよ?」


 ほら、と目を閉じ机に置かれた銃を素早く取り、迷うことなく的の中心部を撃ち抜く。

 いやもはやプロの域じゃん……あ、いや元プロかコイツ……


「さっすが杏理やっぱり天才だな☆ うっかり惚れそうになったぜッ☆」

「きゅん♡」




 ____ブチッ




「俺あんなこと言わねぇーーー!!!!」

「さすがにキモかったのじゃ……」


 自分じゃない自分からよく分からないテンションから放たれた言葉に全身から鳥肌が立ち、悶え苦しむ俺を見て姫が苦笑する。


「え、待ってこのレベルが続くのか? 拷問じゃんこれ……」

「いやこれはまだまだ優しいと思うのじゃ」

「マジかよ……」




 映し出された場所は夜景の観えるレストラン、そこにスーツ姿の大人の俺がいて、


「君の瞳に乾杯☆」


 すぐ電源を切ろうとしたが、いや待て、と姫に止められたので仕方なく黙って観ることにした。


「か、乾杯……透なんだよこんなところに連れて来て……」

「乱華と一緒に来たかったんだよ。俺の特別な人とな」

「きゅん♡」


 いや観るに耐えないんだけど??

 誰だコイツ世界線の違う俺かな? パラレルワールド透君かな??

 これを観ないといけないってマジで拷問だぞおい!?


 そんな俺の苦しみを無視して夢は進み大人な二人はワイン片手に夜景を観ている。


「今日は乱華に伝えたいことがあってな」

「な、なんだよ♡」


 これを見てくれ、と突然遠くに見えるビルがライトアップされ、突然ビルが爆発した。


「ここら一帯を買い取ったんだ。これで好きなだけ爆破していいからな☆」

「ダ、ダーリン♡」

「好きだ乱華! 結婚してほしい!!」

「オーケーに決まってんだろ!! 嬉しい!!」


 抱き合う二人、


「どうしよう……こんなに幸せだと私の気持ちが超新星爆発しちまうよ……♡」


 なんて?


「じゃあ俺達だけの新世界創造しないとな♡」


 なんて???


「透♡ ちゅき♡」

「乱華♡ ちゅき♡」


 そして二人は口付けを____


 ちょっと待てぇぇぇぇ!!!??




 ____ブチッ




「なんじゃ面白かったのに」

「いやツッコミ所多過ぎるわ!? 超新星爆発!? 新世界創造!? なんで会話が成立してんだよっ!? コイツらの脳内はどうなってんだ!!?」

「夢なんじゃからしょうがないじゃろ」


 ”夢”をそんな都合の良い道具にするなよ!!


「あー五月蝿い五月蝿いのじゃ、ほれ次行くぞ」




 ここは剣や魔法、エルフや魔族のいるファンタジーの世界、だがもうそこは魔族に支配されていた。

 そこに女騎士の様な格好をした天は四つん這いでリードを着けて、


「ぶひぃぃぃ♡ 私は魔王様専用のペットぶひぃぃ♡ もっと強く鞭で叩いて欲しいぶひぃぃぃ♡」

「オラオラもっと鳴け雌豚ぁぁぁあ!!!」

「ブヒィィィィィッ♡♡♡」


 なんか俺に激似のオークに連れられて____




 ____ブチッ




「おい姫」

「な、なんじゃ?」

「神の力で夢を変えることは出来るか??」

「出来るぞ?」


 なら、


「天の夢を”はりつけにされて永遠に刀で刺される夢” に変えとけ」

「そんな某忍者作品に出てくる幻術みたいなことを!? お主悪魔か!?」

「やれ」


 そしていよいよ最後の夢に、




 場所は海。

 寄せては返す波が心地良い音色を奏でる。

 天気は晴れ、目の前を歩く白いワンピースに帽子を被る可憐な女性がゆっくり振り返りながら呟く。


「やっと来れましたね……」


 どこか見覚えのある彼女の顔が見えようとした瞬間____暗転した。




「え、なんだ今の」

「なんじゃろな」

「続きは!?」

「ないのじゃ」


 なんで!! 途中で夢が変わったのか!? 起きちゃったのか!!?

 続きが気になり姫の肩を掴み揺さぶる俺に、


「なんでって……」


 姫はハッキリと応えた。


「もう朝じゃからな」

「え!?」

「ほれ透学校に行くのじゃ」

「寝てないんですけど!?」

「儂も寝てないのじゃ。ほれ早よ朝ご飯を作れ」

「クソぉぉぉぉ!!!」


 俺が寝不足で終業式の校長の話し中に寝たのは言うまでもない。



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