第四章 夏休み&???編

通常ルート112 夏休みスタート




 蒸し暑い中、眠気と戦いながら長ったらしい校長のタメになる話を聞き終え、ようやく体育館から解放された俺達は教室に戻ってきた。

 そこでいつも気怠そうな紫先生がいつも以上に何倍も怠そうに団扇を仰ぎ、教卓の前で皆に強く言い聞かせている。


「良いかお前達? 校長のありがたぁい話を聞いて分かってるかもしれないけど気を緩み過ぎないようにするんだぞ?」


 教室に帰って来た時に、どうせもう直ぐ終わりだから、そう紫先生に言われ冷房を付けなかったがやはり暑い。

 皆同じ気持ちだろうが、付けるな、と言った紫先生が明らかに機嫌が悪いし……コッソリ冷房を付けるか? いやそれこそ本当に今更だ、時計を見てみたら本当にもう直ぐ終わる。

 これは大人しく話が終わるのを待つしかない。


 そんなことを考えていると、他所見をしていた俺を見つけ紫先生の眼光が突き刺さった。


「雨上……お前に言ってるんだぞ?」

「え、俺!?」

「当たり前だろ。このクラスで最も厄介ごとを起こすのは雨上だから」

「心外過ぎる……」


 俺が? いや違うだろ……ヤバいことを起こすのは主に周りにいる奴らなんだけど??

 頭にきた……流石に温厚な俺でもキレそうだわ……。


「私から他の先生達に一声かけるだけで雨上の成績が親に見せれない数値に変わるぞ?」

「ゆかりちゃんどんだけの権限持ってんだよ!?」

「ん〜? ゆかりちゃん〜?」

「はい分かりました美人で素敵な紫先生に従います!!」

「よろしい」


 仕方ないよね。俺は権力に逆らうほど馬鹿じゃないしね、見方によっちゃ歳上お姉さんに命令されるとか特殊な界隈でならご褒美だしね、しょうがないね……


「ねぇ透」

「ん?」


 一人納得して頷いていると、隣に座る杏理が話しかけてきた。

 おい話してたら先生に怒られるぞ?


「そんなことどうでもいいのよ」


 どうでもってお前なぁ、


「それより私はどうなのよ」

「どうなのってなんだよ?」

「……先生に言ってたやつよ」

「あ?」


 駄目だ主語がなさ過ぎで解読不能だ。


「だから! ”美人で素敵”ってやつよ! 私のことはどう思うか聞いてるの!」

「どうって……」


 帰りのホームルームの時間だというのにコイツは一体どうしたのだろうか? まぁ言われたからには応えるとしよう。


 改めて杏理を見てみる。

 綺麗な金髪に透き通った碧眼、日本人とはまた違う整った顔立ちからまず間違いなく美人なのは確定だ。

 ……ただ杏理のツインテール、これが美人の中にも幼なさがあって____


「可愛いな」

「へ!?」

「いや可愛いなって、大人になったら間違いなく美人になる未来が分かるレベルで」

「あ、あ、あ、アンタ嘘ついてるんじゃないわよねぇ!!?」

「ハッ!! 残念だったな俺は嘘がつけないんだよ!!!」

「なんでそんな自慢げなの!?」


 いやあれだよ。もうここまで呪い先輩とも付き合っていると愛着がね? それに嘘をつかない気楽さが最近悪くないなと思っててな。

 って俺のことは良いんだよ。本音を言ったぞ本音。


「そ、そう……ふーん? ま、まあ当然のことね!」

「杏理と結婚する奴は幸せだろうな」

「そ、そそそ、そぉかしら!?」

「あぁ結婚式は呼んでくれな? 友人代表で」

「死ね」


 さ、さっきまでの頬を赤く染めた貴女は何処へ!?


「セクハラよそれ」


 あ、す、すいません……今の時代厳し過ぎるっぴね……。

 まるで液体窒素かと思えてしまうレベルで凍える程の眼光を浴びせられ怯えていると、紫先生が高らかに告げた。


「じゃあお前らせっかくのを満喫しなさい!!!」

『おぉぉぉーー!!!』


 皆の歓声が上がり皆のテンションが最高潮になる。


「私にだけは迷惑かけるなよ?」

『あ、はい』


 さすが紫先生だ。最後までらしいことを言ってくれるわ。


 こうして遂に俺達の待ち望んでいた夏休みが始まった。




「おーい透お兄ちゃん!」


 校門前でスマホを弄りのんびり待っていると、校舎の方から姫が駆け寄ってくる。そして笑顔を向けて言い放った。


「待ったのじゃぁ??」


 可愛らしい。

 が、ここで本音を言ったらコイツはつけあがるから選択肢は決まっている。


「おううん待ったぞ。すげー待った遅過ぎない? あれかな? トイレでも行ってたのかな?」

「うぉい!! なんじゃお主もっと儂の可愛さに照れたりしろなのじゃ! つまらないじゃろが!!」

「あぁごめんごめん」

「というかトイレってデリカシー死んでおるのかお主!!?」


 期待通りの反応じゃなかったからか地団駄を踏む姫、やはりコイツとのやりとりは悪くない。もはやこの反応を見る為に意地悪を言っているのかもしれない……てか姫に対してだけは呪いの適応が緩いらしく、コイツの前でだけは普段の俺でいられるから凄く気楽なのだ。


「なんじゃったらもっと呪いを強くしてやろうと思うのじゃが……どうじゃ??」

「可愛かったぞ姫! 天使かと思ったわ!!」

「な!? 儂に対して天使じゃとぉぉ!? なんたる侮辱じゃ神様と言うのじゃ阿呆が!!」

「理不尽過ぎんだろ」


 本来なら天使って褒め言葉じゃないのか?? なるほど神様からするとそれは侮辱なのか……なるほどなるほど……


「めんどくさ」

「おぉぉい!!!」

「あーいや嘘嘘」

「いいや! 今のお主からは偽りの気配じゃしなかったのじゃ!!」


 いやコイツそんなのも分かるのかよ、と考えた時、


「なぁ透」

「ん?」


 誰かに突然肩を叩かれた。

 聞き覚えのある声に振り返って確認してみたらフリフリでピンク色のロリータ服を着た凄く可愛い子が立っている。

 学校の目の前という場違い感に一瞬戸惑ったが、ソイツの声を聞いて一瞬で理解した。


「来ちゃった♡」

「何してんだよノア……」


 お前……前に会ってからそんなに経ってないのに美少女になってんじゃねぇかよ……。


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