個別ルート108 杏理♡
◆
「殺せ……」
「……いや本当ごめん」
戦いがアッサリと終わり、拘束し正座させられた殺し屋に俺は素直に謝罪をした。
彼の姿を見ればそうもなるだろう。
深々と被るフードは変わらないが、服は所々破れ、見るも無惨な姿になっている。
そして俺も、
「先輩」
「は、はいなんでしょうか!!」
「こんな緊急時に、しかも! 私の目の前で浮気とは面白いことしてますねぇ?」
「ちゃ……ちゃうねん」
「何が違うと?」
可愛らしい笑顔ではあるが、声に圧を感じる。おそらく、間違いなく、十中八九怒っているのだろう。俺には分かる長い付き合いだしな……
「嘘はいけません先輩、正直に言ってください正直に言えば怒りませんよ?」
「本当?」
「本当です」
「じゃあ言うけど柔らかくて最高だった。景ちゃんと比べるなら月とスッポン……いやスッポンが失礼なくらい」
「あは♡ 殺しますね♡」
え、むっちゃ怒ってるじゃん……。
隣にいる殺し屋と目を合わせ、お互いの状況に思わずため息が溢れた。
何故隣にいるのか? 答えはシンプルだ。
俺も彼と共に正座をして皆から睨まれているからである。
これも景ちゃんを怒らせた結果だからだろう。
「いや透? 付き合い短い僕でも分かるからね?」
「「「うんうん」」」
「あ、そうなの?」
「それと私達も怒ってるよ? とー君足崩さないでくれないかな?」
「あ、すいません……」
さり気なく正座を崩そうとした俺だったが、にこやかな真白の指摘を受けて静かに足を元あった位置に戻す。
そんな俺を見て殺し屋は呟く。
「……お前も大変だな」
「ッ!? 心配してくれるのかよ!」
「……撃って……悪かったな……」
「殺し屋ぁ!!!」
こ、コイツ実は良い奴だろ!! 人のこと心配できる優しい奴が悪い奴なわけがないだろ!!(撃たれた被害者)
ちょっと先輩聞いてますか? と問われているが俺はそれを無視して殺し屋との会話を継続することにした。
「その殺し屋って呼び方も嫌だな……”ノア”だ」
「俺は透、よろしくなノア」
今更お互いに挨拶を交わす。男特有の団結力というものが今発生している状況なのだ。
じゃあついでに聞きたいことがあったから聞いてみることにしよう。
「ノアってなんでフード被ってるんだ?」
「あーこれか……」
「殺し屋は顔を見せれないとか、そういう流儀とかなのか?」
「いや違うけど……見たいか?」
「見たい」
即答である。
「……分かった」
笑うなよ? と一言告げるとノアはフードを脱いだ。
そして俺は目にした。彼のその姿を____
「ど、どうしたんだよ透……そんなジロジロ見て……」
「え、だって……え??」
隣に現れたのは突然の美少女だった。
長いブロンドの髪に青色の瞳、整った顔立ち、そんな素敵な子が突然現れた。と、いうかノアだった。
「言っとくけど俺は男だからな?」
「え、あ、そうなのか? 可愛いから見惚れてたわ」
「か、可愛いってお前も他の奴と一緒で馬鹿にするんだな……」
「いやいやいやマジだって! 美少女過ぎてビビったまであるわ!」
「……大袈裟だろ」
「いや自信持てよ! 超絶可愛いから! てかあれだ! 可愛くて男って最強だろ! よく言う”お得”って奴だな!」
お前は何を言ってんだって? いやお前! 男の娘ってとある界隈では絶大な人気があるからな!? ギャルゲーならメインヒロインに昇格する可能性だってあるしな!!
ハッ!!? そうだ!!!
俺は勢いよく立ち上がり、喧しい皆を制止し告げる。
「ノアの罰についてだが俺に任せて欲しい!」
●
場所は変わってそこは星空町にあるレンタルスタジオ、家族写真の撮影や趣味、様々な理由で町の者が来る場所だ。
「ハァァァァァ♡ 良いわ最高に素敵よ!! コッチに目線頂戴♡」
「……お、おう」
「ハァァァン♡」
野太い声にゴツい体格の店主兼カメラマンのおじさんと言ったら怒るお姉さん”ゴリ美さん”は気色の悪い声を発しながらシャッターを切る。
俺も負けていられない。
「ノア! 俺にも目線ください!」
「透……?」
「あー良いよ最高だよ……ノア程可愛い奴を俺は知らないよ……」
「ほ……本当か?」
本当本当、と返事を返してスマホで撮影を続ける。いや本当に可愛い……だが男だ。
するとゴリ美お姉さんが近づいてきて俺のスマホを覗き込む。
「あら良いじゃない透ちゃん♡ 可愛く撮れてるわよ♡」
「ゴリ美お姉さん……! ありがとうございます!!」
「最初はどうしたのかと思ったけど、良い子を連れて来てくれてありがとね♡ 私がちゃんと……」
立派なアイドルにしてみせるわ♡
「ゴリ美お姉さん!! はい! よろしくお願いします!!!」
「ついでにどお?? 透ちゃんも可愛くしてあげるわよ??」
「いえ遠慮します! 勘弁してください!!」
「うふ♡ 本当に可愛いわね透ちゃん♡」
全身に鳥肌が立ち、身の恐怖を感じたところでゴリ美お姉さんは撮影に戻った。
可愛く化粧をしてフリフリな服を着たノアは頬を赤く染めて俺の方を見つめている。その姿がとても素敵だがちょっと頬が赤過ぎる化粧が濃いのではないか? これは後でゴリ美お姉さんに伝えておこう。
それは置いといて後ろからの殺気を対処するか。
「ねぇ透? 今可愛いって言った? 僕よりあんな奴の方が可愛いの?」
「まあ待て心、ノアに言う可愛いと心に言う可愛いは別だぞ? アイツは男だしな」
「とー君は何がしたいの? まさかこれが罰とは言わないよね?? 私を怒らせる気なの?」
「真白これについては今から話すから」
「透お兄ちゃん儂も! 儂も撮ってくれなのじゃ!!」
「お、大丈夫だぞ。もう既に百枚以上は撮ってるからな」
透お兄ちゃんは有能なのじゃって? おいおいそんなに褒めるなよ。本当のことでもそんなに言われると照れるだろ。
皆の質問に応えていくと最後に景ちゃんから、
「先輩? いくら先輩と以心伝心の私でも分からないんですけど、何がしたいんですか??」
以心伝心ではないけどね? とりあえずその質問に応えるとしよう。
「ノアにはアイドルになってもらう。この星空町のな」
「あんな奴の名前なんて覚えてるし……って、え? アイドル?」
「アイツ可愛いだろ? あんな可愛い奴が殺し屋なんて勿体無いだろうが」
「「「イラッ」」」
あ、ヤバい皆の機嫌が悪いぞ!?
「それにアイツには迷惑かけた杏理に慰謝料を渡すことも視野に入れて働いてもらうことにしたんだよ。世界中で杏理を探してたから貯金もないらしいしな、ケジメをつけるなら金銭的解決が一番手早く済む」
「「「グヌヌ……な、なるほど」」」
嘘は言ってないぞ。嘘は、
「じゃあ透よ。ノアの奴が慰謝料払えなかったらどうするのじゃ?」
そんなの決まってる。
「ノアの着替え写真とかを売って解決する」
アイドルとしてアイツは絶対売れるだろう。だが保険は大事だしな、
だがその一言が良くなかったようだ。
「透死ね」
「とー君最低」
「先輩って人間のクズですね」
「酷い言われよう!? てか景ちゃんに関しては外から俺のこと覗いてたよな!?」
「そこの男女先輩は先輩のこと盗聴してますよ」
「あっ」
心さんちょっとお話しあるんですけど!!?
こうして、とりあえず杏理の問題は解決した……新しい問題は増えたけど……。
~おまけ~
「そういえば杏理と乱華、それに天は何処へ行ったのじゃ?」
「杏理は病院で二人は付き添いだ」
「なるほどのぅ……あれ? お主は大丈夫なのか? その肩」
え……あ、そういえば俺怪我してたんだった!! 安心したら痛ぁぁぁぁ!!!
「ドンマイなのじゃ」
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