通常ルート86




 休日、現在俺は窮地に立っていた。


「透〜膝枕してぇ〜♡」

「とー君ギュッってしていいかな? ギュゥゥって♡」

「おい透……大好きって言ってくれよ♡」

「一緒にお昼寝しませんか? 先輩に腕枕して欲しいです♡」


 眼前に広がる頬を赤く染めてにじり寄って来る見た目だけは美少女の娘達。

 助けてもらおうと姫に視線を送るが、

 

「えーとなんじゃなんじゃ? ……【寝不足のせいで居眠り 二回休み】ウガァァァァ!! また休みなのじゃ!! もう嫌じゃなんで儂だけさっきから休みなんじゃ!!」


 役立たずの神様は自分の運の悪さに悶え叫んでいる。本当に使えない神だ。


「先輩♡」

「……なんだよ」

「大好きです♡」

「お、おうそうか」


 こうも目の前でハッキリ言われてしまうと恥ずかしいものがある。この状況どうすれば良いのだろうか……。


 悩ましい状況の中、俺は深く思考する。


 思えばこんなことになったのは全てあれの所為だった。







 ここ最近始まった体育祭練習で疲れ切った身体を休ませる為に、俺は姫と一緒に対戦ゲームをしていた。


「おらどうした姫! お前の動き止まって見えるぞ!」

「ぐぬぬ……なんたる卑怯な手じゃ!! メテオ狙いだけならまだしも崖ハメとは!! このゲス! クズ! 女の敵!!」

「ふっ! なんとでも言えこれは戦いなんだ! ……あ、でも女の敵は止めてくれない? ガチめに凹むから」


 とは言ったがこれも戦いだ。一瞬隙を見せた姫の操作するキャラへ強烈な攻撃を喰らわせ画面外へと吹き飛ばした。


「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 姫の絶叫が室内に響き渡る。

 そして画面には使っていたキャラの勝利ポーズと共に【YOU WIN】の文字が表示された。

 俺は勝利の喜びを表し、天井に向けて拳を突き上げると、姫に向けて意地の悪そうな態度で言ってやったのだ。


「雑魚」


 最低である。


「ムキィィィィィ!!! 悔しいのじゃぁぁぁぁ!!!」


 あまりの悔しさからか、姫が激しく地団駄を踏んだ。これはあれだ荒れ狂う神だ。見た目だけなら。

 ただこれ以上煩くしていると大家さんからお叱りを受けてしまうので、非常に残念だが姫を落ち着かせる事としよう。


「まあまあ姫落ち着いてくれよ」

「ふしゅぅぅぅ!! ふしゅぅぅぅ!!」

「え、どんだけキレてんの??」


 てか呼吸の仕方が獰猛な獣のそれなんだけど? 恐ろし過ぎるだろこのまま口元に手を近づけたら噛みつかれそうな感じだぞマジで。


 姫の対応に困っていると、


「透入るよー!」


 玄関の方から心の声が聞こえた。

 というか明らかに扉が開いた音が聞こえたような? さてはアイツ勝手に鍵を使って入って来やがったな……本当に困ったやつだ。


「お邪魔しまーす!」

「心……いくらなんでも家主がいるんだからインターホン押してくれよ全く____」


 部屋に入って来た心に文句の一つでも言ってやろうと振り向いた。のだが、


「先輩来ちゃった♡」

「とー君お邪魔するね」

「おぉ、ここが透の部屋か……なんか良いな」


 突如現れた見知った生命体、俺の脳内へ瞬時に危険信号が鳴った。分かり易く端的に言うと”嫌な予感がした”ということだ。


『あ、これは良くない』


 俺は即座に立ち上がり玄関の方まで駆け出そうとした。


 その結果____


「透何処に行こうとしてるのかな?」

「先輩何してるんですか?」

「ねぇ……とー君? それ以上動いたらどうなるか分かるよね?」

「透一回しか言わないぞ、止まれ」


 目にも止まらぬ速さで首にナイフが添えられ、皆から恐ろしい眼光で睨まれている。

 なるほどよく分かった。


 どうやらこれは逃げることが許されない強制イベントのようだ。

 勝手に部屋に入られてこの仕打ち……、そうだなとりあえずこれだけは言っておこう。


「俺にプライバシーはないんすか……」

「「「「無い」」」」


 あ、そっすか……了解しました。



 現実とはとても残酷である。



 突然家までやって来た心と真白、景ちゃんと乱華、美少女に囲まれるというのは男の夢なのかもしれないが、全く嬉しくないのは何故だろう。

 逃げれなくなった現状で俺は大人しく座り、四人に尋ねてみることにした。


「で、今日はどうしたんだ一体?」


 そんな俺の問いに乱華が素早く応える。


「透と一緒に遊びたくてな、グループメッセージで話し合って来たんだよ」


 悲報、俺に了承の連絡は一通も来ていないでござる。

 乱華は少し不安そうな表情を見せると上目遣いで言った。


「……嫌だったか?」

「……」


 ここで、嫌、とハッキリ言える人間はどれ程いるのだろう?

 思えば乱華もだいぶ変わったな、だって最初は会話すらまともに出来ていなかったのに今では俺のことを好きと言ってくれるのだ。人生何が起こるか分からないとはまさにこれだな。

 

 そんな乱華の言葉をハッキリ否定するわけにはいかない。仕方がないこの状況を受け入れるとしよう。


 俺は乱華の問いにハッキリ応えた。


「嫌」


 あ、呪いのこと忘れてた。

 

「……そうかよ」


 明らかに乱華の態度が変わった。

 でもこれは仕方がない。悪いのは全部呪いをかけた姫なので、どうか文句は俺じゃなくてそこの神様に言ってくださいお願いします。


 内心でそんな言い訳をしていた時、乱華がポケットから丸い物体を取り出してきた。

 なんだそれ? と聞いてみようとした時、乱華に思いっきり胸ぐらを掴まれ恐怖の一言を言われたのだ。


「コイツを起動したらこのアパートくらいなら余裕で吹っ飛んじまうんだがよぉ? どうすんだよ透? お前次第だぞ?」


 お前正気か!!?


「待て早まるな!? ここで爆発したらお前もただじゃ済まないだろ!?」

「お前を殺して私も死ぬ」

「愛が重い!!?」


 助けてくれ三人共!! この乱華の目! 絶対にやるやつだぞこれ!!

 そう助けを訴えてみたのだが、


「はいはいふざけてないで遊びますよ先輩」

「今日は皆でスゴロク作ってきたんだよ! 皆透と一緒にやりたくて!」

「とー君も乱ちゃんもふざけてないで早くやろうよ」


 コイツらこの状況を完全スルーしやがった!!!




    ~皆でゲーム 前編へ続く~



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